第11話「ファミレス」
毎度おおきに。
『宇宙人、乗っ取られました。』へようこそ。
今回は舞台をファミレスに移し、ドリンクバーを囲みながら、何気ない会話がゆっくり流れていきます。
「好きなものって何やろ」「将来って何やろ」。
答えのない話ばかりですが、だからこそ、その人らしさが見えてくるのかもしれません。
派手な事件はありません。
でも、この作品らしい優しくて温かい時間を、今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、第11話「ファミレス」、どうぞ。
バイトの帰り。
「ガスト、行こ」
玲奈が、言った。
「ガスト?」
「あのファミレス。ガスト。行きたい」
「なんで、急に」
「ドリンクバー、飲みたい。あれ、あったやん。二十年前も」
「今も、ありますよ」
「変わらんなあ、ドリンクバーは」
「まあ、変わらないですね、基本は」
「なんか、ほっとするわ。ドリンクバーが、まだある、って」
「そんなに、好きだったんですか」
「好き、というか。コンビニの帰りに、よく、寄ってたんよ。夜中に。で、ドリンクバーだけ、頼んで、ぼーっとしてた」
「一人で?」
「一人で。それが、好きやってん。誰とも、しゃべらんと、ただ、座って、ドリンクバー、飲んで、帰る」
「……なんか、想像できますよ、それ」
「でしょ。ファミレスって、そういう場所やんな。一人でも、いられる」
「そうですね」
「じゃあ、行こ」
四人は、ガストに、入った。夜の、ファミレス。平日の、夜。そこそこ、混んでいた。
「いらっしゃいませ。何名様ですか」
「四人です」
「禁煙席で、よろしいですか」
「はい」
「こちらへ、どうぞ」
席に、案内された。ボックス席。四人が、向かい合って、座った。
「ドリンクバー、頼んでいい?」
「頼みましょう」
「ドリンクバーって、何を、飲むのが、正解やろ」
「正解、あるの?」
レオスが、言った。
「ないわけじゃない。合理的に、考えると、一番、コスパの、いいものを、選ぶべきで。メニューを、見ると、ソフトドリンクは、だいたい、百五十円くらいする。で、ドリンクバーが、三百円くらいだから、三杯以上、飲めば、元が、取れる」
「そういう話では、ない」
「じゃあ、どういう話」
「何を飲むのが、楽しいか、の話」
「楽しさで、飲むものを、決めるの?」
「そうやで」
「非効率だよ、それ」
「ドリンクバーは、非効率で、ええねん」
「……そうなの?」
「ドリンクバーは、いっぱい飲んでも、飲んでも、おかわり、できる、っていう、夢が、大事やねん。実際、三杯以上、飲めへんくても」
「飲めない人が、多いんだ」
「多いやろな。でも、飲めるかもしれない、っていう、可能性が、ええんやって」
「……その理屈は、わかるような、わからないような」
「わからんでええ。行ってくる」
玲奈が、ドリンクバーへ、行った。
レオスが、残った。頭の中で、一人だった。
テーブルに、健太と、美咲が、残っていた。
「……ドリンクバー、行かなかったんですか」
「同じ体だから、玲奈が、持って来てくれる」
「あ、そっか」
「不便だよ、それ」
「そうですよね」
玲奈が、ドリンクバーから、戻ってきた。コーラと、オレンジジュースと、ホットコーヒーを、持ってきた。
「多くない? 三つ」
「全部、飲む」
「三つ、同時に、飲むの?」
「順番に」
「それ、最初の、冷たいのが、ぬるくなるよ」
「気になったら、また、取りに行く」
「……ドリンクバーって、そういう、使い方、するんだ」
「そういう、使い方が、正解やで」
「さっき、正解は、ないって、言ったじゃないか」
「最初に、飲みたいの、全部、取ってきた方が、テンション上がるから、それが、正解」
「……論理が、ころころ、変わるね」
「気分で、ええねん」
「ちなみに、コーラと、オレンジジュースは、わかるけど、ホットコーヒーは、なんで」
「ホットコーヒーは、最後に、飲む」
「コーラの後に、コーヒー?」
「うん。締めやねん」
「締め。ドリンクバーに、締め、あるんだ」
「あるよ。コーラで、喉、潤して。オレンジジュースで、甘いもの、入れて。最後に、コーヒーで、大人っぽく、終わる」
「大人っぽく、終わる」
「そう。これが、正しいドリンクバーの、攻め方や」
「攻め方」
「攻め方」
「……その発想、なかったよ、僕」
「でしょ。あんた、コスパしか、考えてへんかったもんな」
「コスパは、大事だよ」
「大事やけど、それだけやないねん、ドリンクバーは」
健太が、ホットコーヒーを、頼んだ。美咲は、ウーロン茶を、頼んだ。
「美咲、ウーロン茶なんや」
「うん」
「渋くない?」
「好きやから」
「ウーロン茶、好きな人、あんまり、おらんイメージやけど」
「おるよ。うちが、おる」
「そっか。ウーロン茶、にするきっかけ、あったの?」
「別に。なんとなく」
「なんとなくで、ウーロン茶に、なるんや」
「なんで、そんなに、気にするの」
「気になるから」
「なんで」
「人が、何を、好んで、飲むか、なんか、面白いから。レオスも、宇宙人やのに、コーヒー、好きやし」
「好きかどうかは、まだ、わからないよ」
「でも、飲んでるやん」
「飲まされてる」
「飲んでるやん」
「……まあ、悪くない」
「ウーロン茶の、美咲も、そんな感じかも。なんとなく飲んでたら、いつの間にか、これがいい、ってなる」
「そう」
「それって、なんか、ええな」
「何が」
「決めてなくても、いつの間にか、好きなもの、できてる感じ。就活とか、将来とか、そういうの、なくても、気付いたら、自分のもの、できてる」
「就活の、話?」
美咲が、少し、止まった。
「ちがう。就活の話では、ないけど。なんか、そういう感じ、あるやろ、って」
「……まあ、あるね」
「美咲、将来、どうしたいの」
「別に」
「別に、って」
「特に、ない。決めてない」
「え、美咲が?」
「美咲が、って、何」
「なんか、美咲は、しっかりしてるから、決まってるイメージやった」
「……しっかりしてても、決まってないことも、あるよ」
「そっか」
「健太みたいに、悩んでる、とかじゃないけど。ただ、決めてないだけ」
「それも、ええんちゃう」
「そうかな」
「決めてないのと、諦めてるのは、ちがうやん」
「……そうね」
美咲が、ウーロン茶を、一口、飲んだ。
「玲奈って、コンビニで、働いてたって、言ってたよね。それ、決めて、働いてたの?」
「決めてへん。気付いたら、おってん。ウーロン茶と、一緒やな」
「そうね」
「でも、好きやってん。気付いたら、好きやった」
「うん」
「美咲も、そうなるよ。いつか」
「根拠、あるの」
「ない」
「……根拠なしで、断言できるんやね」
「なんとなく、そう思うから」
「なんとなく、ね」
美咲が、少し、笑った。珍しい顔だった。
「……ありがとう」
「何が」
「根拠なしで、言ってくれたから」
「根拠があったら、嫌やった?」
「根拠があったら、データっぽくなるから」
「あたし、データやないし」
「そう。だから、よかった」
レオスが、頭の中で、聞いた。
「玲奈」
「ん?」
「今の、どういう、会話だったの」
「どういう意味」
「美咲が、喜んでた。でも、何も、解決してないよ」
「解決、せんでええんやて」
「どうして」
「根拠なしで、大丈夫、って、言ってもらえるのが、たまに、必要なんよ。データとか、根拠とか、なしで」
「……そういうもの、なんだ」
「そういうもの」
「……難しいね、人間は」
「難しいやろ。でも、面白いやろ」
「……面白いかもしれない」
「前向きやん」
「ファミレスのせい」
「雨の日の次は、ファミレスか」
「……場所で、気分が、変わるのは、理解できる気がする」
「なんや、急に、素直やな」
「コーヒーが、おいしいから」
「ふふ。まあ、ええか」
四人は、しばらく、ドリンクバーの、飲み物を、飲んだ。何も、話さなかった。
テレビが、遠くで、ついていた。
誰も、見ていなかった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
今回は「何も起きない一日」をテーマに書いてみました。
でも、人は何も起きない日だからこそ、本音を話したり、自分の気持ちに気付いたりするものなんですよね。
レオスも少しずつ人間らしくなり、玲奈たちとの時間を自然と楽しめるようになってきました。
本人は認めないでしょうけど、それも大きな成長だと思っています。
これからも笑ったり、少しほっこりしたり、ときどき泣けたりする物語を書いていきますので、引き続き『宇宙人、乗っ取られました。』をよろしくお願いいたします。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。




