第97話 真理の守護天使 ~神代の最高傑作との死闘~
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ガキィィィィンッッ!!!
「お兄ちゃんには、指一本触れさせないよッ!!」
間一髪。ルビィのロケットハンマーが俺の前に割り込み、守護天使の腕を激突で弾き飛ばした。
だが、弾き飛ばされたのはルビィの方だった。先陣の頑強な機獣たちを事もなげに粉砕した彼女のフルブーストの推力が、たった一本の腕の振りに完全に押し負け、ルビィの小さな体が後方へと吹き飛ばされる。
「きゃあっ!?」
「ルビィちゃん!」
アミィが柔らかな水球を展開してルビィを受け止めるが、水球ごと床を数メートルも滑らされた。
「……排除。……バグ、発生。……管理者ハ、不在……」
体勢を立て直した俺は、その『真理の守護天使』の姿を初めて正面から凝視した。
透き通るような白磁の肌に、流体金属のように波打つ銀色の髪。胸の膨らみも、喉仏や筋肉の隆起といった性徴もない。男性とも女性ともつかない、彫刻のように完璧な『中性』の美貌。
だが、その虚ろな瞳には知性がなく、壊れたレコードのようにノイズ混じりの言葉を繰り返しているだけだった。
「……美しくも悲しい姿だな。主を失い、システムにバグを抱えたまま千年もこの暗闇で扉を護り続けてきたのか」
俺が錬金釜を構えると同時、守護天使の背中から生えた六枚の光の刃(魔力スラスター)が激しく瞬いた。
「来ますわ! 『紫流・水斬乱舞』!!」
「『極光・紅蓮の熱線』!」
アミィの超高圧水刃とダイヤの熱線が、左右から守護天使を挟み撃つ。
だが、中性の天使は避ける素振りすら見せなかった。光の羽がフワリと羽ばたいた瞬間、水刃は一瞬で蒸発し、ダイヤの熱線は光の屈折によって明後日の方向へと弾き飛ばされてしまう。
「魔法が……弾かれましたわ!?」
「分析。単なるシールドではありません。対象の光羽は、接触した魔力を直接『分解』し、自身の駆動エネルギーへと変換・吸収する特性を有しています」
「ただ弾くだけじゃなく、こっちの攻撃を自分のエサにしてやがるってわけか……!」
サフィの冷徹な解析結果に、俺は忌々しく舌打ちをした。
物理攻撃はルビィ以上の出力で弾き返され、魔法攻撃は羽で分解・吸収される。まさに神代の最高傑作、攻防一体の究極生命体だ。
「……マスター。……あの天使さん、お胸の奥で、すごく悲しい音がしてますぅ」
「……リズムが、狂ってますぅ……」
後方でソナーを展開していた双子が、耳を塞ぎながら悲痛な声を上げた。
「リズムが狂ってる……? そうか、ホムンクルス(人工生命体)である以上、あいつの体内には魔力を循環させる『擬似的な血流』と『核(心臓)』があるはずだ!」
バグを起こしているなら、その循環系は間違いなく不安定になっている。
俺はアイテムボックスから、第一層で手に入れた『神代のエーテル・フルード』の残りわずかな数滴と、先ほど調合した麻痺薬を取り出した。
「力で破壊するんじゃない! 錬金術師らしく、あいつのバグった魔力神経に『特効薬』を直接注射して、強制シャットダウンさせるんだ!」
「なるほど、お薬の時間というわけですわね! ですがご主人様、あの速度にどうやって注射器を当てますの!?」
「全員で連携して『一瞬の隙』を作る! 狙うは羽の付け根……背中の中心だ!」
俺が叫ぶと、乙女たちの目の色がスッと変わった。
「ルビィ、ダイヤ! 正面からド派手にヘイト(敵意)を稼げ! アミィは俺のサポートだ!」
「オッケー! いーっくよー!」
「承知いたしましたわ!」
ルビィがハンマーのブーストを不規則に吹かしてジグザグに突進し、ダイヤが周囲の床を溶かすほどの熱波を放って天使の視界を炎で覆い尽くす。
守護天使の虚ろな瞳が、最大の脅威と判定したルビィたちへと向いた。白磁の腕が、ルビィを貫こうと無慈悲に振り上げられる。
「……今ですわっ!!」
アミィが床に撒き散らされていた水を一気に凍らせ、天使の足元を滑る『氷のスケートリンク』へと変えた。
完璧な姿勢制御を持っていたはずの天使の足が、ほんの一瞬、ミリ単位でブレる。
その刹那の隙を、俺は見逃さなかった。
「サフィ! 射出軌道計算!」
「補正完了! 誤差ゼロです、マスター!」
俺は錬金釜の中で調合した『神経強制停止薬』を、扉の鍵穴を偽装するために使っていたあの『白銀の魔導針』の先端に付与し、弓矢のように極限まで引き絞った。
「おやすみの時間だ、神代の番人!!」
シュンッ!!
放たれた白銀の魔導針が、炎と氷の間を縫うように一直線に飛び、守護天使の背中――六枚の光の羽のど真ん中へと深々と突き刺さった。
「……ァ……、ガ……?」
注射された特効薬が、神代のホムンクルスの体内を駆け巡る。
狂っていた魔力の鼓動が急速に落ち着き、背中の光の羽が、パリンッ、とガラスが割れるような音を立てて砕け散った。
「……排、除……。……中枢……ヲ……」
守護天使はゆっくりと俺の方を振り返り、その白磁の手を伸ばそうとしたが、やがて糸が切れた操り人形のように、その場へ力なく崩れ落ちた。
「……はぁ、はぁっ……」
静寂が戻った第五層のドーム。
俺は崩れ落ちた中性の天使に近づき、その体に触れた。生命活動は完全に停止しているが、美しい白磁の肉体は傷一つなく保たれていた。
「……長い間、ご苦労だったな」
俺が白銀の魔導針を引き抜くと、天使の顔は、先ほどまでの虚ろな表情から一転し、まるで安らかな眠りについているかのように穏やかに見えた。
「終わりましたのね……」
「お兄ちゃん、この天使さん、どうするの?」
アミィとルビィが、息を弾ませながら近づいてくる。
「これも神代の遺産だ。このままここに放置して、いずれ朽ちさせるのは錬金術師として忍びない。……アイテムボックスの『時間停止領域』で、丁重に保管させてもらおう」
俺は守護天使の体をそっとアイテムボックスの最奥へと収納した。いつか、俺の錬金術が神代に追いついた時、バグを直して目覚めさせてやるのも悪くない。
「さあ、いよいよだ」
すべての番人を退け、最後に残されたのは、部屋の中央に鎮座する『白金の大扉』だけだった。
俺はポケットの中で熱を帯びている『黒い歯車』を取り出し、扉の正面へと立つ。
「この扉の向こうに、この要塞のすべて……いや、マキアヴェスの爺さんすら知らない『本当のお宝』が眠っているはずだ」
俺は仲間たちと深く頷き合い、白金の大扉の窪みへと、ついに最後の鍵を差し込んだ。
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