第96話 一万の残骸(お宝)と、第五層の真の主 ~暴走する神代の守護者~
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
大空洞を埋め尽くしていた一万の無機大軍団は、魔塩装甲巨神のたった一撃によって完全に沈黙した。
鋼鉄の平野は、見渡す限りの真っ白な「塩の結晶の野原」へと変貌している。
地表の魔導戦車や機械獣が結晶に飲み込まれてサビの塊と化しているだけでなく、はるか上空を飛んでいた何千もの浮遊砲台たちも、巨神の拳から爆発的に伸びた『無数の塩の棘』によって天井ごと串刺しにされ、機能を停止していた。
「……ふぅ。防波堤を作って塩水の大津波を流し込む手もあったが、やっぱり巨大兵器のロマンには勝てなかったな」
俺が満足げに頷いていると、アミィが呆れたような、それでいて感心したようなため息をついた。
「ご主人様のその『ロマン』のおかげで、わたくしたちは助かったわけですけれど……。あの大きすぎるお人形さん、どうするおつもりですの? 流石にビークルには乗り切りませんわよ」
「お兄ちゃん、連れて帰れないの? ボク、あれに乗って砂漠を走りたかったなー」
ルビィが残念そうにハンマーを引きずる。
確かに、第四層の天井に届くほどの巨神だ。アイテムボックスの容量にも限界があるし、第一、エーテル・フルードのエネルギーをこの一撃でほぼ使い果たしてしまっている。
「安心しろ。錬金術の基本は『等価交換』と『再構築』だ。作ったものは、元に戻せる」
俺は巨神の足元まで歩み寄ると、その装甲に手を当て、錬金魔力を逆流させた。
「『錬金分解』」
青白い光が巨神の全身を包み込む。
直後、巨大な機体は砂のようにサラサラと崩れ落ち、俺の目の前には「純度100%のオリハルコンのインゴットの山」と、「空っぽになったエーテル・フルードの瓶」、そして「少し小さくなった魔塩結晶」が綺麗に整頓されて残された。
「……マスター。質量と魔力の保存法則を完全に無視した力技ですが、見事な資源回収です。これならアイテムボックスに収まりますね」
サフィの呆れ混じりの称賛を背に受けながら、俺は神代の素材たちを再びアイテムボックスの奥深くへと収納した。
一万の軍勢をすり潰すという大仕事を終えてなお、素材は手元に残る。これぞ錬金術師の錬金術師たる所以だ。
「さて。これで終わり、なわけがないよな」
俺は振り返り、見渡す限りに広がる『一万機分の機械の残骸』を見渡して、極悪な笑みを浮かべた。
「サフィ! 塩害で使い物にならなくなった外装は捨ておけ! 内部の『無事な魔石コア』と『無傷のミスリル製駆動パーツ』だけをピンポイントでスキャンしろ! 全部根こそぎ回収するぞ!」
「……了解しました。マスターのその強欲さ、時折システムよりも恐ろしく感じます。……スキャン開始。回収可能なお宝、およそ二万四千点」
俺は広大な平野を歩き回りながら、錬金術による広域回収魔法を展開した。
宙に浮かび上がった無数の魔石やレアパーツが、まるで竜巻のように俺のアイテムボックスへと吸い込まれていく。
第四層の絶対防衛線は、錬金術師の目から見れば『超特大の素材の宝物庫』だったのだ。
「えへへ、お兄ちゃんのお財布、またパンパンになっちゃうね!」
「まったく……。死線から一転して廃品回収とは、恐れ入りますわ」
アイテムボックスの容量の限界ギリギリまで神代の素材を詰め込み、俺たちはホクホク顔で大空洞の最奥へと進んだ。
一万の軍隊が護っていたその場所。
そこには、要塞の最深部――『第五層』へと続く、ぽっかりと開いた漆黒の縦穴と、巨大な昇降機が存在していた。
「第二層の時みたいに、ここにも扉やパズルがあるかと思ったが……」
「……軍隊を配置している以上、扉すら不要という設計思想だったのでしょう。ですがマスター、この下から、信じられないほど高密度の、単一の魔力反応を感じます」
サフィの言葉に、全員の顔が引き締まる。
俺たちは昇降機に乗り込み、要塞の本当の底、第五層へと降下していった。
◇
到着した第五層は、上層の広大さとは打って変わって、ドーム状の閉鎖された空間だった。
壁面には無数のケーブルや魔力回路が這い回り、すべてが部屋の中央にある『巨大な白金の大扉』へと接続されている。
あの扉の中央にこそ、俺の持つ『黒い歯車』を嵌め込む鍵穴がある。
マキアヴェスの爺さんが言っていた通りなら、あそこに歯車を挿した瞬間から「1分間の最終防衛戦」が始まるはずだ。
だが――俺たちは、その扉に近づくことすらできなかった。
「……マスター。……あそこにいるの、ロボットじゃありませんぅ」
双子が怯えた声で指差した。
白金の大扉の前。そこに、俺たちの侵入を待っていたかのように、一人の『存在』が静かに佇んでいた。
一見すると、人間のように見えた。
だが、その肉体は透き通るような白磁と、流体金属で構成されており、背中からは天使の羽のような六枚の光の刃(魔力スラスター)が展開している。
「……排除。……排除。……不完全ナル中枢ヲ、護ラネバ……」
その口から漏れるのは、システム音声ではなく、バグを起こしたようなノイズ混じりの肉声だった。
「分析……! 対象は機械ではありません! 神代の錬金術師が自らの細胞を培養し、ホムンクルス(人工生命体)として造り上げた要塞の最高位防衛者……『真理の守護天使』です!」
サフィが叫んだ瞬間。
守護天使の姿が、フッと俺たちの視界からブレて消えた。
「――速いッ!」
俺が錬金盾を張るより早く。
アミィの水鏡が展開するより早く。
守護天使は俺の目の前に出現し、その白磁の腕を、俺の心臓に向けて無造作に突き出してきた。
ガキィィィィンッッ!!!
「お兄ちゃんには、指一本触れさせないよッ!!」
間一髪。ルビィのロケットハンマーが俺の前に割り込み、守護天使の腕を激突で弾き飛ばした。
だが、弾かれたのはルビィの方だった。一万機の軍勢すら粉砕した彼女のフルブーストの推力が、たった一本の腕の振りに完全に押し負け、ルビィの小さな体が後方へと吹き飛ばされる。
「ルビィちゃん!?」
「くそっ、今までの兵器とは次元が違う! 第一層から四層までの防衛システムは、全部コイツの『前座』に過ぎなかったってことか!」
異常なまでの速度、そしてルビィのハンマーを真正面から弾き返す圧倒的な出力。
バグを起こし、暴走状態にある第五層の大ボス。
「……扉に歯車を挿すのは、このバケモノを黙らせてからだ! 全員、死に物狂いでいくぞ!!」
神代の最高傑作であるホムンクルスとの、真の最終決戦。
要塞ダンジョンの最深部で、俺たち錬金術師一行の限界を超えた死闘が幕を開けた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも「面白かった!」「スカッとした!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、
ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆の爆発的なエネルギーになります!
ブックマークへのご登録も、ぜひよろしくお願いいたします!
それでは、次回もどうぞお楽しみに!




