第95話 錬金極致の巨神兵器 ~「一体」の天災~
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「アミィ、よくやった。あとは俺に任せて、少し下がって休んでいろ」
限界以上の魔力を絞り出して膝をつくアミィの頭を優しく撫で、俺は一歩前へと出た。
視界の先、大空洞の鋼鉄の平野には、未だに息を呑むような絶望の光景が広がっている。
「マスター! 先陣の数百機と超大型ゴーレム三体こそアミィさんたちの活躍で壊滅しましたが……後方に控える本隊はほぼ無傷! 残存兵器の数、依然として『一万機』を超えています!」
サフィの悲痛な報告が響く。
そうだ。アミィたちが命懸けで防いでくれた三分間は、あくまで敵の「先鋒」を足止めしたに過ぎない。要塞の防衛戦力の九割以上は、未だ健在のまま、津波のような質量でこちらへ向かって進軍を再開していた。
「一万の軍勢、か。普通ならこっちも数千のゴーレムでも錬成して数でぶつけるのがセオリーなんだろうが……」
俺は背後の巨大な錬金釜から溢れ出る、天をも衝くような七色の魔力光を見上げ、不敵に笑った。
「あいにく、俺は一から兵器の軍隊を作るほど気が長くないんでね。――大軍勢を相手にするなら、たった『一体』の、圧倒的な天災をぶち込むのが一番手っ取り早い」
俺が両手を錬金釜のフチへと叩きつけると、釜の内部でドロドロに融解していた神代のオリハルコン、エーテル・フルード、そして第三層のボスから剥ぎ取った巨大な魔塩結晶が、ひとつの巨大な意志を持って急速に形を成し始めた。
「目覚めろ、神代の素材を喰らう貪欲なる巨神。――『錬金極致・魔塩装甲巨神』!!」
轟音と共に、錬金釜が内側から爆散した。
立ち込める魔力の煙を割って現れたのは、大空洞の天井に届かんばかりの巨体を持つ、純白と鈍色の金属で構成された、人型の超巨大超重量兵器だった。
骨格は、現代の全技術を注ぎ込んでも一欠片すら傷つけられない純度100%のオリハルコン。
動力源は、一滴で家が建つ神代の魔力触媒を贅沢に一瓶丸ごと使い果たした永久機関。
そしてその全身を覆うのは、第三層のボスの能力を完全に再現し、触れたものの水分と魔力を強制的に奪い去る『結晶化された魔塩の超重装甲』。
俺たちがこのダンジョンで手に入れてきた「最高のお宝」のすべてをミキシングして作り上げた、文字通り、この世に二つとない最高傑作の一体だ。
『――ズ、ズゥゥゥゥゥンッッ!!!』
巨神が鋼鉄の床を踏み締めただけで、第四層全体に局地的な大地震が発生し、進軍してきていた一万の無機軍団の足並みが一瞬で乱れた。
「な、何ですのあの大きさは……! 建物が動いているみたいですわ!」
「お兄ちゃん、あの白いおっきいロボット、ボクたちの味方なの!?」
ダイヤが驚愕で日傘を落としそうになり、ルビィが目を輝かせて巨神を見上げる。
「ああ、俺たちの最強の護衛だ。――行け、巨神。そのポンコツどもの大軍を、一枚残さず文字通りのスクラップにしてこい」
俺の命令をその管理者頭脳に受諾した瞬間、魔塩装甲巨神の頭部にあるスリットが、禍々しいまでの青白い光を放った。
『――目標、前方の無機生命体群。……一括排除を開始します』
巨神が巨大な拳を握り締め、一万の軍勢に向かって真っ直ぐに歩き出す。
対する防衛軍団も、脅威度を最大に引き上げ、一万機すべての砲門から一斉に魔力砲や実弾の弾幕を巨神へと叩きつけた。大空洞が爆発の光で真っ白に染まるほどの、文字通りの絨毯爆撃だ。
だが。
ドガガガガガガッ!! と凄まじい着弾音が響く中、魔塩装甲巨神は爆煙を平然と突き破り、傷一つない姿で前進を続けた。
神代のオリハルコンの防御力は、一万機の総火力を持ってしても掠り傷すらつけられない。それどころか、着弾した瞬間に巨神の魔塩装甲が『塩の霧』を噴射し、敵の放った魔力砲のエネルギーそのものを吸湿・吸収して、自らの動力へと変換してしまったのだ。
「ギ、ガガ……ッ!? 動力、低下……ッ」
巨神がただ歩くだけで、周囲の空間には高濃度の『塩の霧魔』が急速に立ち込めていく。
霧に包まれた敵の魔導戦車や浮遊砲台は、内部の精密回路に塩水が侵入したかのようにショートを起こし、次々と火花を散らして機能停止に追い込まれていった。
「――終わりだ」
敵の軍団のド真ん中に到達した巨神が、その巨大な両腕を大きく振りかぶった。
そして、鋼鉄の平野へと向かって、渾身の力で拳を叩きつけたのだ。
『――天地崩壊・魔塩烈閃!!』
ドゴォォォォォォォォォンッッ!!!
大空洞そのものがへし折れるかのような、凄まじい衝撃波。
拳の着弾点から、純白の塩の結晶の棘が、津波のような速度で四方八方へと爆発的に突き出した。
地表を埋め尽くしていた機械獣、自動人形、魔導戦車の一万の軍勢は、その圧倒的な質量の前に文字通り「一撃」ですり潰され、塩の結晶の中に閉じ込められていく。
結晶に触れた機械たちは、瞬時に全魔力を吸い上げられて錆び付き、崩壊してただの鉄クズへと変わっていった。
わずか一撃。
たった一体の巨神が振るった暴力によって、空間を埋め尽くしていた一万の無機大軍団は、跡形もなく完全に消滅した。
あとに残されたのは、静まり返った大空洞と、キラキラと輝く広大な塩の結晶の野原。そして、その中心に静かに佇む、圧倒的な勝者たる一体の巨神の姿だけだった。
「……計算不能。味方でありながら、あまりにも規格外の戦闘効率です」
サフィが手元の計測器を呆然と見つめたまま、声を失っている。
俺はふぅと息を吐き、幻影蜘蛛の外套の襟を整えた。
「言っただろ? チマチマ数で戦うのは錬金術師の美学じゃないってな」
塩の結晶の野原の遥か先。大軍勢が護っていた最奥の壁に、今度こそ、この要塞のすべての機能を司る『中央制御室』へと続く、本物の最終扉が姿を現していた。
俺はポケットの中で、じっと出番を待っていた『黒い歯車』を指先で弄んだ。
「さあ、お前ら。障害物はすべて片付いた。……この要塞の本当の心臓部へ、案内してもらうとしようか」
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