第94話 三分間の絶対防衛戦と、水舞の戦乙女 ~アミィの覚悟~
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地底の大空洞を震わせる、一万の無機軍団の駆動音。
赤いカメラアイが無数に点灯し、彼らの持つすべての砲門が、俺たち――いや、巨大な錬金釜の前で無防備に立つ俺へと一斉に向けられた。
『――目標、侵入者。第一斉射、開始』
無機質なアナウンスと共に、空気を切り裂くような轟音が鳴り響く。
数百、数千の魔力線と実弾兵器が、文字通り「雨」となってスロープの出口へと降り注いだ。
「残り時間、2分55秒! 物理及び光学兵器の混合弾幕です!」
「「……右からおっきいの、左からいっぱい来ますぅ!」」
サフィの計算と双子のソナーによる射線予測が飛び交う。
「させませんわ! 『極光・熱波の陽炎』!」
「『紫刃・水鏡の城壁』!」
ダイヤが生み出した超高温の陽炎がレーザーの軌道をグニャリと曲げ、すかさずアミィが展開した分厚いドーム状の水膜が、実弾を泥沼のように絡め取って威力を殺す。
だが、一万の軍勢が放つ火力の波は、たった数人で防ぎ切れるような生易しいものではなかった。
「くっ……! 盾が、押し込まれますわ……!」
アミィが両手の鉄扇をクロスさせ、必死に水の城壁を維持するが、凄まじい着弾の衝撃で彼女の華奢な足がズルズルと後退していく。
「アミィお姉ちゃん、どいて! えーいっ!!」
そこへ、ルビィがロケットブーストを全開にしたハンマーを振り回し、竜巻のように前に出た。
盾をすり抜けて迫ってきた先陣の『機械獣』や『魔導甲蟹』の群れを、凄まじい遠心力で次々と粉砕し、鉄クズの山へと変えていく。
「残り2分! マスター、敵の前衛部隊が距離を詰めてきます! 数が多すぎます!」
「ルビィちゃん一人では手が足りませんわ! わたくしが前へ出ます!」
アミィが水鏡の盾をサフィの魔力障壁に引き継ぎ、自ら最前線へと躍り出た。
純白のメイド服……いや、幻影蜘蛛の外套をひるがえし、彼女は二枚の鉄扇を両手に構えて優雅に、そして致命的な舞を始める。
「ご主人様の錬金の邪魔をする下品な鉄クズどもは、わたくしがお掃除いたしますわ! 『紫流・水斬乱舞』!!」
鉄扇から放たれるのは、第三層の塩をも溶かした単なる水ではない。
極限まで圧力を高め、ミスリル合金すら豆腐のようにスッパリと両断する『超高圧のウォーター・カッター』だ。アミィが舞うようにステップを踏むたび、扇の軌跡から不可視の刃が無数に飛び交う。
「ギ、ガガ……ッ!?」
迫り来る機獣たちが、アミィの周囲数メートルの空間に踏み込んだ瞬間、音もなく細切れのスクラップへと変わり果てていく。
さらに彼女は、先ほどの第三層から床を伝って流れ落ちてきている『塩水』を空中に巻き上げた。
「機械にとって、塩水がどれほど致命的な毒か……身をもって味わうとよろしいですわ! 『大瀑布・塩害の嵐』!!」
アミィの魔力によって操作された塩水の竜巻が、敵の密集地帯へと叩きつけられる。
強固な装甲を持つ魔導戦車や兵器たちも、関節部や冷却排気口から塩水を浴びた途端、凄まじい勢いで内部回路がショートし、火花を散らして次々と機能停止に陥った。
「す、すごいですわアミィお姉様……! 一騎当千の戦乙女です!」
「ふふっ、ご主人様の一番槍は、このアミィにお任せを!」
アミィの八面六臂の活躍と、ルビィの粉砕攻撃によって、敵の先陣は見事に足止めされていた。
だが、ここは一万の軍勢を擁する絶対防衛線。これだけで終わるはずがない。
「……残り30秒! アミィさん、上空です! 超大型の熱源反応!!」
サフィの悲痛な叫び声が響いた。
大軍団の後方から、城壁のように巨大な『超大型ミスリル・ゴーレム』が三体、空中に浮かび上がり、その胸部に備えられた巨大な主砲(殲滅魔力砲)に、太陽のような極太の光を収束させていたのだ。
「あれは……ダメですわ! ダイヤの熱波でも曲げきれませんし、わたくしの水壁でも一瞬で蒸発させられます!」
「……お兄ちゃんに、当てさせない!!」
ルビィがハンマーを盾にして前に出ようとするが、あの火力を受け止めれば無事では済まない。
絶体絶命の危機。だが、アミィの瞳に恐怖は微塵もなかった。彼女は錬金釜の前で目を閉じ、ひたすら魔力を練り続ける俺の背中を一度だけ振り返ると、ふわりと微笑んだ。
「……ご主人様から頂いたこの命。そして、この新しいお洋服(外套)……絶対に傷つけさせはしませんわ」
アミィは鉄扇を閉じ、自身の魔力と、周囲の空間にあるすべての水分を己の周囲に一点集中させた。
「ダイヤ! サフィ! ルビィ! 双子ちゃん! わたくしの背中に、すべての魔力を注ぎ込んでくださいませ!」
「「「はいっ!!」」」
仲間たちの魔力が、アミィへと流れ込む。
上空の巨大ゴーレムたちから、三筋の極太の殲滅レーザーが放たれた。空間が赤く染まり、岩盤が溶け落ちるほどの凄まじい熱量が迫る。
その直撃の瞬間、アミィは鉄扇を天へと突き上げた。
「『紫流奥義・絶対零度の水鏡』!!」
第三層のフロスト・ガードの冷気と、自らの水属性魔力、そして仲間たちの魔力を限界まで融合させた、一瞬の奇跡。
アミィの頭上に展開されたのは、一滴の不純物もない「完全な氷の鏡」だった。
ドゴォォォォォォォンッ!!
三本の極太レーザーが氷の鏡に直撃する。
普通の氷なら一瞬で蒸発する熱量。だが、完全な鏡面と化したその氷は、レーザーの光と熱をそのまま上空へと『反射』したのだ。
「いっけぇぇぇぇぇっ!!」
アミィの悲鳴のような叫びと共に、反射された極太のレーザーが、放った巨大ゴーレムたち自身を一直線に貫いた。
断末魔の機械音を上げる間もなく、超大型ゴーレムたちは空中で大爆発を起こし、火球となって軍団の只中へと墜落していく。
「……はぁっ……はぁっ……」
氷の鏡が砕け散り、アミィが膝から崩れ落ちそうになるのを、ルビィとダイヤが慌てて支える。
完璧な防衛。一万の軍勢の猛攻を、彼女たちはただの一度も俺の背中に届かせなかったのだ。
「……残り、ゼロ秒。マスター、カウント終了です!!」
サフィの叫びと同時。
俺の目の前にある巨大な錬金釜から、世界を白く染め上げるほどの『凄まじい魔力の光の柱』が天高く立ち上った。
「……よく耐えてくれた、お前ら。最高だったぜ」
俺はゆっくりと目を開き、立ち上がった。
釜の中から引きずり出したのは、神代のオリハルコン、伝説のエーテル・フルード、巨大な魔塩結晶、そして俺の錬金術のすべてを注ぎ込んだ、規格外の『巨大な質量兵器』だ。
「さあ、お待たせしたなポンコツども。……神代の軍隊のお出ましには、こっちも『神代の災害』で応えてやるよ」
狂気に満ちた錬金術師の反撃が、ついに火を噴く。
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