第82話 熱砂の盗賊団と、乙女たちの無双劇 ~身の程知らずの末路~
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『枯れ木立の泉』を出発し、物知りがいるという『白岩のオアシス』を目指して星明かりの砂漠を進んでいた夜半過ぎのこと。
俺たちの乗るビークルがなだらかな砂丘を越えようとした瞬間、進行方向の砂地から突如として火柱が上がった。
「ドカァァァンッ!!」
凄まじい爆発音と共に砂煙が舞う。
普通の馬車やラクダなら完全に足止めを食らう威力の地雷(起爆札)だったが、最高級の錬金装甲と衝撃吸収サスペンションを備えたビークルは、揺れ一つなくその爆風をあっさりと突破して停車した。
「……マスター。前方および左右より、武装した人間が約30名。急速接近してきます」
「ふむ。砂漠の魔物かと思ったら、一番タチの悪い『人間』のお出ましってわけか」
サフィの冷徹な報告を聞きながら、俺はため息をついた。
砂煙が晴れると、ビークルの周囲を囲むように、薄汚れた布を巻き、曲刀やボウガンを構えた屈強な男たちが、砂漠用のバギーや装甲ラクダに乗ってニヤニヤと笑っていた。
絵に描いたような、砂漠の盗賊団だ。
「ヒャッハー! 随分と豪勢な鉄の馬車じゃねぇか!」
顔に大きな傷のある盗賊の頭目が、曲刀を肩に担ぎながら前に出てくる。
彼らはビークルの窓から見える俺や女の子たちの姿を見て、完全に「金持ちのボンボンと愛人たちの観光旅行」だと舐めきっていた。
「おい優男! 命が惜しけりゃ、その車と身ぐるみ全部置いていきな! その上玉のネエチャンたちは、俺たちが砂漠の慰み者としてたっぷりと可愛がってやるからよォ!」
下品な笑い声を上げる盗賊たち。
だが、車内の空気は恐怖どころか、氷のように冷え切っていた。
「……砂漠のルールを学んで『慎重』に進んでいたとはいえ、ずっと移動ばかりで少し体が鈍っていたところですわね」
「お兄ちゃん。あのおじさんたち、すっごくお口が臭いし、目つきがいやらしいよ」
アミィがパチンと鉄扇を開き、ルビィがロケットハンマーの柄をポンポンと叩く。
ダイヤも優雅に立ち上がり、日傘(夜だが)の先でコンコンと床を叩いた。
「ご主人様。わたくしたちだけで片付けてもよろしいでしょうか? あのような下品な輩に、ご主人様の手を煩わせるまでもありませんわ」
「ああ、構わないぞ。良い運動代わりだ、好きに暴れてこい。……ただし、殺すなよ。血の匂いを出せば面倒な魔物が寄ってくるし、生きたまま気絶させて身ぐるみを剥ぐのが一番手っ取り早いからな」
「「「承知いたしましたわ(はーいっ)!」」」
俺が許可を出した瞬間、ビークルのドアが一斉に開いた。
「あァ? 女が出てきて命乞いか――」
頭目が下卑た笑いを浮かべた、次の瞬間。
「『紫刃・水舞』」
アミィの鉄扇が優雅に宙を舞う。
何もない砂漠の空気中から突如として生み出された『超高圧の水の刃』が、盗賊たちの持つボウガンと曲刀だけを、まるで豆腐のように音もなく真っ二つに切断した。
「は……? え?」
「お下品な口は、これで洗うとよろしいですわ」
呆然とする盗賊たちの顔面に、アミィが扇を振り抜く。
ドゴォォォッ!! と、鉄砲水のような高圧の水球が直撃し、数人の盗賊が悲鳴を上げて十数メートル後方へと吹き飛ばされた。
「な、なんだこのアマ!? 魔法使いか! やっちまえ!!」
「えーいっ! 悪いおじさんたちは、まとめてコンッ! だよ!」
慌てて襲いかかってこようとする盗賊たちの足元へ、ルビィが軽快なステップで飛び込む。
彼女が振り下ろしたロケットハンマーが砂地を叩き割った。
ドズゥゥゥンッ!!
ハンマーの推進力が生み出した局地的な大地震。すり鉢状に隆起した砂の衝撃波が、ラクダごと盗賊たちを空高く跳ね飛ばす。
「ギャァァァァッ!?」
「ひぃぃっ! ば、化け物だ! 逃げろッ!!」
わずか十秒。アミィとルビィの圧倒的な力を見せつけられ、残りの盗賊たちは戦意を喪失し、バギーを反転させて逃げ出そうとした。
「……あら、逃がしませんわよ。『極光・熱波の檻』」
ダイヤが日傘をふわりと掲げる。
すると、逃げようとした盗賊たちの周囲の砂が、一瞬にして超高温で熱され「ドロドロのガラスの壁」となって彼らを包囲したのだ。
一歩でも触れれば大火傷の熱の檻。盗賊たちは完全に退路を断たれ、その場にへたり込んで震え上がった。
「ヒッ……! 命、命だけはお助けをぉぉぉッ!」
先ほどまでの威勢はどこへやら、頭目を含む全員が砂に頭を擦りつけて土下座を始めた。
圧倒的無双劇。俺が出る幕すら全くなかった。
「……ふぁ……うるさいですぅ……」
「……おじさんたち、めっ、ですぅ……」
最後に、後部座席で寝ぼけ眼をこすっていた双子のパールとコーラルが、不機嫌そうにピピピッと超音波を放つ。
「あぎゃっ!?」と盗賊全員が三半規管を揺らされ、白目を剥いて気絶したところで戦闘(という名のワンサイドゲーム)は完全に終了した。
「お疲れ様。見事な連携だったな」
俺が拍手をしながらビークルから降りると、乙女たちは「えへへ」「お安い御用ですわ」と可憐に微笑んだ。
俺は気絶した盗賊たちを魔法のロープでぐるぐる巻きに縛り上げ、彼らの持っていたバギーから『水』と『金品』、そして『略奪品の数々』を根こそぎアイテムボックスへと回収した。
「ダンジョンに備えて慎重に旅をしてる俺たちに、手っ取り早く資金と物資を提供してくれるなんて。……盗賊ってのは、砂漠のオアシスみたいな連中だな」
「分析。マスターの思考が、時折盗賊よりも悪辣になっています」
サフィの的確なツッコミに苦笑いしつつ、俺たちは身ぐるみを剥がされた盗賊たちをダイヤの「熱の檻」の中に放置した。夜明けになれば魔法は解けるし、最低限の命を繋ぐ水だけは残してある。彼らも身の程を知るだろう。
適度な運動で気分をリフレッシュさせ、臨時収入まで得た俺たち錬金術師一行。
夜の砂漠に愉快な笑い声を響かせながら、いよいよ『物知り』が待つ白岩のオアシスへと向かって、ビークルを再び軽快に走らせるのだった。
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