第81話 空振りの泉と次なる希望 ~足踏みもまた、旅の道~
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星詠みの老婆から重要なヒントと「黒い歯車の厄介な真実」を得た俺たちは、峡谷の隠れ井戸を出発し、さらに砂漠の深部へと針路を進めていた。
蜃気楼を破るための『雷結晶のレンズ』は、サフィの精密な加工技術によってすでに完成している。あとは三つの赤い星が沈む夜に、その入り口を見つけるだけだ。
だが、その「入り口」の先、つまりダンジョン内部の構造や罠についての情報は、依然として不足していた。
「……そろそろ、次のオアシスが見えてくるはずですわ」
ダイヤが日傘を傾けながら、砂丘の先を指差す。
数日間の夜間移動を経てたどり着いたのは、枯れかけた数本の古代樹が寄り添うように立つ、こぢんまりとした中継地点――『枯れ木立の泉』だった。
これまでの移動オアシスや巨大なバザールに比べると、あまりにも静かで小さな場所だ。
泉のほとりには、疲れ切ったラクダを休ませている数人の小規模な商隊がいるだけだった。
「よし。水を補給させてもらいつつ、ダンジョンの情報収集だ」
俺たちはビークルを停め、商隊の男たちに干し肉を分け与えながら、それとなくダンジョンの噂について尋ねてみた。
「砂漠のダンジョン? ああ、ガキの頃にお伽話で聞いたことがあるな。なんでも、金銀財宝が眠ってるとか……」
「俺は親父から、ただの蜃気楼だって教わったぜ。あんな熱砂の奥地、行く前に干からびて死んじまうよ」
「悪いな、錬金術師の兄ちゃん。俺たちは生きるのに必死で、そんな命知らずの遺跡のことは欠片も知らねぇんだ」
……見事なまでの「空振り」だった。
男たちの言葉に嘘はない。彼らにとってダンジョンとは、実在するかどうかも怪しい遠い世界の御伽話に過ぎないのだ。
「……まあ、そう都合よくいくもんじゃないよな」
俺は苦笑いして、彼らに礼を言った。
立ち寄る村ごとに、都合よく伝説のヒントや重要アイテムが転がっているわけがない。現実の旅程とはこういうものだ。何の手がかりもない足踏みもまた、広大な砂漠を越える旅のリアルなのだ。
「お兄ちゃん、ダメだったの?」
「ああ。だが、無駄足ってわけじゃないさ。美味い水が補給できるだけでも、砂漠じゃ百点満点だ」
俺がルビィの頭を撫でてやると、泉から水を汲んできたアミィが、少しだけ弾んだ声で戻ってきた。
「ご主人様。確かな手がかりはありませんでしたが、一つだけ『有益な噂』を聞けましたわ」
「噂?」
「ええ。ここからさらに北東へ三日ほど進んだ先にある『白岩のオアシス』に、砂漠の歴史や古い伝承をすべて記憶しているという『物知り』が住んでいるそうです。商人たちも、道に迷ったり古い地図の解読が必要な時は、その人物の知恵を頼るのだとか」
アミィの報告に、俺とサフィは顔を見合わせた。
「なるほど。ダンジョンそのものの知識はなくても、古い伝承を網羅している知識人なら、あの厄介な『黒い歯車』の正体や、遺跡の成り立ちについて何か知っている可能性は高いですね」
「ああ。そいつは期待できそうだ」
一歩進んで、何もないなら、次へ行く。
ただそれだけのことだ。
「……マスター。……お水、冷たくて美味しいですぅ……」
「……お水筒、いっぱいにしましたぁ……」
双子のパールとコーラルが、それぞれの水筒をタプタプと鳴らしながら、泉からひょっこりと顔を出した。
俺は頷き、ビークルの水タンクにもたっぷりと澄んだ湧き水を補充した。
「よし、補給完了だ。長居は無用だな。日が暮れたら、すぐにその『物知り』がいる白岩のオアシスへ向かうぞ」
何もない泉での、静かな休息。
焦ることはない。大砂漠の旅は、慎重に、そして着実に進めるのが一番の近道だ。
次なるオアシスでの「物知り」との出会いに静かな期待を寄せながら、俺たちは再び、星降る熱砂の海へとビークルを走らせるのだった。
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