第79話 胡散臭い骨董屋と、隠居爺の『ホラ話』 ~虚実を見抜く錬金術師~
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大オアシス市場の最奥。
活気あふれる表通りから少し外れた路地に、その薄暗いテントはあった。
入り口には、擦り切れた布に堂々とこう書かれている。
『砂漠のダンジョン出土品・命懸けの直輸入! 未知の魔導具あります』
「……胡散臭いことこの上ないな」
俺が呆れたように呟くと、アミィも「いかにも観光客を騙しそうな看板ですわね」と苦笑いした。
ここは砂漠の最大の交差点。あらゆる物流の中心だ。だからこそ、はるか彼方の危険地帯から命からがら持ち帰られた「本物」が紛れ込んでいる可能性もゼロではないが……十中八九はガラクタだろう。
「一応、冷やかしに寄ってみるか。サフィ、鑑定のサポートを頼む」
「了解しました、マスター」
俺たちは埃っぽいテントをくぐった。
中は薄暗く、錆びた剣や欠けた壺、よくわからない動物の骨などが所狭しと積まれている。
そして店の奥には、水煙管を燻らせながら、深々と絨毯に座り込む『隠居風の細身の爺さん』がいた。
「いらっしゃい、旅のお方。……おや、随分と身なりのいいお嬢ちゃんたちだ。ダンジョンに挑む冒険者かい? それとも物見遊山の観光客かな?」
爺さんは濁った瞳でこちらを一瞥し、ニィッと人の悪そうな笑みを浮かべた。
「冒険者の端くれさ。ダンジョンに行く前に、何か役に立つ『本物』がないか探しに来たんだ」
「本物! そりゃあいい。ウチの商品は全部、命知らずの連中がダンジョンから持ち帰った正真正銘の本物さ」
爺さんはパイプを置き、俺の目の前に「ボロボロに錆びついた真鍮のランプ」をコトンと置いた。
「例えばこいつ。ダンジョン第1層で発見された『風魔神のランプ』だ。こすれば竜巻を呼べるが、呪いで寿命が縮む。金貨10枚でどうだい?」
「……サフィ」
「分析。ただの真鍮製の水差しです。付着している砂の成分から、オアシス近郊のゴミ捨て場から拾われたものと推測されます。呪いはありませんが、雑菌による腹痛の危険があります」
サフィの容赦ない小声の報告に、俺は肩をすくめた。
やはり、典型的なボッタクリのホラ吹き爺さんだ。言葉の9割は適当な嘘で塗り固められている。
「金貨10枚は高すぎるな。寿命が縮むのはごめんだ」
俺が適当に受け流しながら店内のガラクタを漁っていると、爺さんは次から次へと滑らかな口調で「虚実入り混じったホラ話」を披露し始めた。
「なら、そっちの欠けた石板はどうだい? 第2層の『流砂の罠』を解除するパスワードが刻まれてる。……おっと、その銀の腕輪は第3層で死んだ勇者の遺品だ。夜泣きするから気をつけな」
サフィの解析によれば、石板はただの古い酒場のツケの請求書で、腕輪は銅に銀メッキをしただけの安物だった。
だが、俺は爺さんのホラ話をただ聞き流していたわけではない。
(……この爺さん。商品はデタラメのガラクタばかりだが、語っている『ダンジョンの構造』そのものは妙にリアルだ)
第1層、第2層の流砂の罠、第3層……。
出鱈目な商品に箔をつけるための嘘の中に、かつて彼自身が(あるいは彼が話を聞いた誰かが)実際にダンジョンへ潜った時の『本物の記憶(情報)』が断片的に混ざっているのだ。
「……マスター。店の隅にある木箱。一番底に転がっている『黒い金属片』から、微弱ですが特殊な魔力波長を検知しました」
サフィの囁きに、俺は視線を這わせた。
他の派手なガラクタに埋もれるように転がっていたのは、大人の拳ほどの大きさの、無骨で黒い『歯車の一部』のような金属の塊だった。
俺は表情を変えず、ガラクタを漁るついでを装ってその黒い歯車を手に取った。
ズッシリと重い。そして、表面に刻まれた微細な幾何学模様。
間違いない。古代の魔導具の部品だ。しかも、恐ろしく精巧な『鍵』か何かのパーツに見える。
「……爺さん。この真っ黒な鉄くずは何だ? 漬物石にでもするのか?」
俺があくび交じりに尋ねると、爺さんはチラリとそれを見て鼻で笑った。
「ああ、そいつか。それは数年前に、ダンジョンの入り口付近で拾われたただの文鎮さ。魔力も通らねぇし、硬すぎて溶かすこともできねぇ。ただの不燃ゴミだよ。……お兄さん、そんなもんよりこっちの『呪いの短剣』を――」
「いや、俺はこういう意味の分からないガラクタを磨くのが好きなんでね。この文鎮、銀貨1枚でどうだ?」
俺が銀貨を弾くと、爺さんは「物好きな奴だ」と呆れながらそれを受け取った。
「毎度あり。……で、本命の買い物は終わりかい? お兄さん、さっきからアタシのホラ話を、つまらなそうに聞いてたからねぇ」
爺さんの目が、不意にスッと鋭く細められた。
どうやら、俺がサフィの解析を頼りに「嘘」を見破っていたことくらい、この老獪な商人にはお見通しだったらしい。
「……バレてたか。だが、爺さんの話は面白かったぜ。商品はガラクタばかりだが、あんたの語るはるか遠くのダンジョンの『階層構造』や『罠の傾向』の話は……本物だ」
俺は買った黒い歯車をアイテムボックスに仕舞い、爺さんの正面に座り直した。
「爺さん。こんな砂漠の手前の市場で骨董屋なんてやってるが、あんた昔、ずっと奥のあのダンジョンまで潜ってた口だろ?」
俺の真っ直ぐな問いかけに、爺さんは水煙管を深く吸い込み、紫色の煙をゆっくりと吐き出した。
「……さあてね。ただのホラ吹き爺の、遠い昔の戯言さ。……だが、まあ、文鎮を買ってくれたおまけに、一つだけタダで『本当の話』を教えてやろう」
爺さんは、ニヤリと笑っていた口元をスッと引き締め、低いしゃがれ声で告げた。
「ここからさらに過酷な熱砂を越えた先。ダンジョンの入り口は、常に口を開けて待ってるわけじゃない。……『三つの赤い星が砂丘に沈む夜』、蜃気楼の向こう側にだけ現れる。……それ以外の時に行っても、ただの砂の山しか見つからねぇよ。まだまだ遠い道のりだ。気をつけるこったな、賢い錬金術師のお兄さん」
三つの赤い星が砂丘に沈む夜。
それが、ただのホラ話ではないことを、俺の直感が告げていた。
「……有益な情報だ。礼を言うよ、爺さん」
俺は少しだけ頭を下げ、仲間たちと共に胡散臭い骨董屋を後にした。
銀貨1枚で手に入れた『古代の歯車』と、ダンジョンに入るための『星の条件』。
虚実入り混じる市場の片隅で、俺たちはついに、砂漠のダンジョンへの真の扉を開くための「鍵」を手に入れたのだった。
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