第76話 砂竜狩りの極意 ~亀の甲羅作戦からの卒業~
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流砂のトラブルから一夜明け、俺たちはナイラ率いる狩猟団と共に、再び灼熱の砂海を進んでいた。
昨日のザキの説教(とナイラの鉄拳)を経て、俺たち錬金術師一行の顔つきは、単なる観光客から「砂漠を生き抜く旅人」のそれへと変わりつつあった。
「いいかクロウ。あんたのあの『石の壁(錬金土城)』は確かに頑丈だが、砂漠じゃ三流の悪手だ」
並走する砂上ソリの上から、ナイラが風に声を乗せて言った。
「壁を作って引きこもれば、視界が塞がって風紋の変化が読めなくなる。それに、砂竜は獲物が逃げないと分かれば、仲間の群れを際限なく呼び寄せる。いずれ壁の下の砂ごと崩されて、すり鉢の底で仲良く胃袋行きだ」
「耳が痛いな……。じゃあ、次にあいつらと遭遇したらどう立ち回ればいい?」
俺が教えを乞うと、ナイラはニヤリと笑い、腰の銛をポンと叩いた。
「狩るのさ。一匹残らずな。だが、闇雲に魔法をぶっ放すんじゃない。砂竜の肉や鱗を傷つけずに、しかも砂を崩さずに仕留める『極意』を教えてやる」
ナイラとザキによる、走りながらの「砂竜狩り講座」が始まった。
要点は三つ。
一、『振動で誘い出せ』
砂竜は音や魔力ではなく「砂の振動」に敏感だ。一定のリズムで砂を叩くことで、怪我をした獲物がもがいていると錯覚させ、砂の中からおびき出すことができる。
二、『酸を吐く瞬間を狙え』
奴らが最も無防備になるのは、地中から頭を出して『強酸のヨダレ』を吐き出そうと息を吸い込む一瞬。その瞬間に、口を閉じさせるように下顎から首の付け根(毒袋の少し上)を打ち抜く。
三、『魔法はトドメではなく、誘導に使え』
砂の中で強力な魔法を爆発させれば、砂が液状化して自分が沈む。魔法はあくまで奴らを地上に引きずり出すための「網」として使うこと。
「分析。極めて合理的で、エネルギー効率の高い戦闘教義です。無駄な魔力消費を抑え、かつ素材の品質を最高状態に保つ完璧な手順と言えます」
サフィが石板に猛スピードでメモを取りながら感嘆する。
俺も深く頷いた。強大な火力で焼き尽くすのではなく、相手の習性を利用して「急所だけを的確に突く」。これぞプロの狩人だ。
「……マスター! 前方より、複数の振動を感知しました! 砂竜の小群れ(約十数匹)です!」
サフィの警告が響く。
俺がビークルを停めようとすると、ナイラが手を上げてそれを制した。
「よし! 今日の昼飯の仕込みだ! クロウ、あんたたちだけでやってみな! 私たちは手出ししない!」
「ああ、任せてくれ! 俺たちも、いつまでも『亀の甲羅作戦』には頼らないぜ!」
俺はビークルから飛び出し、仲間たちに指示を飛ばした。
「いくぞ! まずは誘い出しだ! ルビィ、アミィ、ダイヤは指定のポジションへ! 双子!」
「「はぁい!」」
「お前たちの超音波で『怪我をした獲物の振動』を砂に響かせろ!」
パールとコーラルが砂丘に両手をつき、微小な振動を砂の中に送り込む。
ブルルルルッ……。
砂の波紋が不規則に揺れた瞬間。
「キシャァァァァッ!!」
騙された砂竜たちが、獲物を求めて次々と砂の中から勢いよく飛び出してきた。
「今だ! アミィ、ダイヤ!」
「承知いたしましたわ! ――『紫刃・水鏡の盾』!」
「『極光・熱波の壁』ですわ!」
二人は攻撃魔法ではなく、空中に「水の膜」と「熱の陽炎」を作り出した。
飛び出してきた砂竜たちは、突然目の前に現れた障害物に驚き、咄嗟に『強酸のヨダレ』を吐き出そうと、大きく息を吸い込んで顎を上げた。
「ルビィ! 首の付け根だ!」
「お任せーっ! トカゲさん、お口チャック!!」
ルビィがヤドカリの甲羅ボードで砂を滑りながら高速接近し、ロケットハンマーを「下から上へ」とコンパクトに振り抜く。
ドゴォォォッ!!
酸を吐く直前の無防備な下顎から首の付け根(毒袋を避けた完璧な急所)にクリーンヒットし、砂竜はヨダレを飲み込んだまま白目を剥いて気絶した。
「よし! 完璧な『脳震盪』だ!」
俺はすかさず、錬金術で生成した「返し付きのミスリル製・捕縛銛」を投擲し、気絶した砂竜の鱗の隙間に正確に撃ち込んで砂上へと引きずり出した。
「キシャァァッ!」
残りの砂竜たちが怒り狂って砂に潜ろうとするが、すでに学習済みの俺たちは逃がさない。
「サフィ! 潜行ルートの予測!」
「右前方、深度2メートル。3秒後に浮上します」
「ゴルド!」
「御意ィィッ!!」
ゴルドが巨腕を砂に突き入れ、潜ろうとしていた砂竜の尻尾をガシッと掴んで大根でも引っこ抜くように地上へ引きずり出す。
そこへ俺のミスリルの刃が一閃。
無駄な破壊を一切伴わず、砂も崩さず、毒袋も完璧に保護したまま、十数匹の砂竜の群れは、わずか数分で全滅(収穫)された。
「……ふぅ。どうだ、ナイラ!」
俺がミスリルの刃を拭いながら振り返ると、砂上ソリの上で見ていたナイラとザキが、目を丸くして口を半開きにしていた。
「……おいおい、マジかよ。いくら教えたって言っても、あんな一瞬で連携をモノにするなんて……」
「しかも、魔法の使い方がいやらしい! あれじゃトカゲ共も手も足も出ねぇ!」
ザキが呆れたように笑い、ナイラは豪快に手を叩いてソリから飛び降りてきた。
「ハッハッハ! お見事! 100点満点だ、クロウ! 素人どもが、たった一日でいっぱしの『砂漠の狩人』になりやがった!」
「へへっ、あんたたちの教え方が良かったのさ。それに、あの『美味い肉』を綺麗なまま確保するためなら、料理人(錬金術師)としての腕も鳴るからな」
俺が胸を張ると、ルビィやアミィたちもハイタッチをして喜び合った。
無駄に魔力を消耗せず、地形も壊さない。自然の理を利用した、美しく、そして確実な狩り。
「よし! 昼飯の肉は確保したな! 早速解体して、極上の串焼きにしようぜ!」
俺たちは自分たちの手で仕留めた砂竜を前に、昨夜以上の食欲を爆発させた。
強大な力(魔法)を「抑える」ことで得られる、真の技術と恩恵。
砂竜狩りの一族から伝授された熱砂の極意は、錬金術師一行の旅のスキルを、また一つ劇的に進化させたのだった。
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