第57話 触手波乗り(サーフィン)と振動活け締め ~死闘の果ての、至高の黄金珠~
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広場を埋め尽くすようにうねり狂う、クラーケンの極太の八本足。
俺は『海魔ヤドカリの甲羅』から削り出した特製サーフボードを抱え、その暴風域へと飛び込んだ。
「アミィ! 水流の波を作れ!」
「承知いたしましたわ、ご主人様! ――『紫刃・水昇龍』!」
アミィが鉄扇を振り上げると、石畳を削りながら海水の水柱が竜巻のように立ち上る。
俺はその水柱にボードを乗せ、一気に宙へと舞い上がった。
「ヒャッハー! 最高の波(足場)だ!」
俺は水流に乗って滑空し、クラーケンの巨大な触手の上へと着地した。
ヌルリとした粘液で滑る表皮だが、ヤドカリの甲羅ボードは吸い付くように安定している。
『ブオォォォォォォォォッ!!』
背中をちょろちょろと動き回る俺に気づき、クラーケンが別の触手をハエ叩きのように叩きつけてくる。
「マスター、右舷より質量攻撃! 回避不能です!」
「ルビィ! 頼む!」
「任せてお兄ちゃん! ホームラァァーンッ!」
サフィのナビゲートに合わせて、下からルビィが跳躍。
俺を叩き潰そうとした触手を、ロケットハンマーの下からカチ上げるフルスイングで弾き飛ばす。
ドゴォォォォンッ!!
「ナイスアシスト! 良い感じに肉の繊維が解れてるぞ!」
「えへへー! もっと美味しくなーれ!」
俺はルビィが開いてくれた隙間を縫い、触手の山をサーフィンしながらクラーケンの頭部(外套膜)へと一気に駆け上がった。
目指すは、両目の間――タコの急所(神経中枢)だ。
「……マスター! いま、見えましたぁ……!」
「……そこですぅ……!」
広場の隅で待機していた双子が、ソナーで急所をロックオンする。
だが、クラーケンも馬鹿ではない。両目の間を、無数の短い触手でガッチリとガードしてしまった。
「チッ、硬い防御網だ。ダイヤ、プリムローズ!」
「お任せを。……『焦がし(炙り)バター』の要領で!」
「拘束は任せろ!」
プリムローズが放った極太の蔦が、ガードしている触手を外側へ引っ張り、その隙間にダイヤが強烈な熱線をピンポイントで照射する。
ジュワワワワッ!! と焼ける匂いに、クラーケンが一瞬だけガードを緩めた。
「今だ! パール、コーラル!!」
俺が叫ぶと同時、双子が息を大きく吸い込んだ。
『――ホォォォォォ…………♪』
「……んんっ……!!」
パールの澄んだ歌声と、それを増幅するコーラルの猛烈な震え(プルプル)。
特殊な波長の超音波が、一直線にクラーケンの眉間へと叩き込まれた。
ヴィィィィィィィィンッ……!!!
物理的な破壊力はゼロ。
だが、その『振動錬成』は、クラーケンの巨大な神経束の分子構造だけをピンポイントで「解体」した。
『ブモォォォ……ッ!?』
ピタッ、と。
先程まで街を破壊し尽くす勢いだった八本足が、嘘のように動きを止めた。
そして、赤黒く怒り狂っていた体表の色が、頭の先から足の先まで、スゥーッと透き通るような美しい白へと変わっていく。
「完璧だ……! 神経中枢だけを一瞬で破壊する、究極の『活け締め』……!」
漁師が眉間にピックを刺して行う鮮度保持の技術を、超音波で、しかも50メートル級のバケモノ相手にやってのけたのだ。
ズズーンッ……。
白く変色した巨大なクラーケンが、ついに力尽き、広場に沈み込んだ。
「「「おおおおぉぉぉぉっ!!!」」」
遠巻きに見ていた港町の住人たちから、地鳴りのような大歓声が沸き起こった。
「やった……! 勝ったぞー!」
「さすが白衣の賢者様だ!」
バルバロッサが涙を流して喜んでいるが、俺たちの戦い(調理)はこれからが本番だ。
「よし! 肉が硬くなる前に解体だ! ゴルド、ルビィ、足を切り離せ!」
「御意!!」「はーい! まかせといてー!」
「ダイヤ! 星核鉄の特大プレートを限界まで熱しろ! アミィは生地の流し込み! サフィは火加減と焼きのタイミングを計算だ!」
俺の号令で、錬金術師パーティーが完璧な連帯で動き出す。
俺自身はミスリルの包丁を二刀流で構え、白く透き通った巨大なタコの足を、一口サイズ(と言っても子供の頭くらいある)に凄まじいスピードでぶつ切りにしていく。
◇
数十分後。
港町の広場は、未だかつて無い「暴力的なまでの美味そうな匂い」に包まれていた。
直径5メートルの特大プレート。そこにある無数の半球状の窪みの中で、黄金色に輝く球体がジュージューと音を立てて転がっている。
「……マスター。外周部の温度、最適値です。反転のタイミングです」
「よし! ゴルド、千枚通し(換装した指)で一気にひっくり返せ!」
「オ任セアアレェェェッ!!」
ゴルドが目にも留まらぬ速さで、巨大なタコ焼きを次々とひっくり返していく。
外はカリッ、中はトロッ。
サフィが計算し尽くした「究極の出汁入り生地」に、プリムローズが集めた海ネギと紅生姜が彩りを添え、中にはSランク魔獣の極厚・超絶プリプリなタコ肉が鎮座している。
「完成だ!! 『Sランク海魔の特大タコ焼き・港町風』!!」
俺が特製の甘辛い錬金ソースと、カツオの魔物から削り出した削り節、そして海苔をたっぷりと振りかける。
湯気と共に立ち昇る香りに、港町の住人たちは完全に理性を失いかけていた。
「さあ、食え! バルバロッサさんも、街の連中も、今日はタダで振る舞ってやる! 街を壊したお詫びと、広場を貸してくれたお礼だ!」
俺が宣言すると、割れんばかりの歓声と共に、住人たちが皿を持って殺到した。
「いただきまーす!!」
俺たちも、自分たちの分の特大タコ焼きを串に刺し、大きく口を開けてかぶりついた。
「……ッ!! あふっ、はふっ!!」
カリッとした生地を噛み破ると、中から熱々のトロトロな出汁が溢れ出す。
そして、主役のタコ。
ルビィの打撃で繊維が解れ、双子の音波で完璧に活け締めされたその肉は、信じられないほど柔らかく、噛むたびに濃厚な海の旨味が爆発する。
「お、おいひぃぃぃっ! お兄ちゃん、タコさんぷりっぷり!」
「ハフッ……! 熱いですけれど、ソースの甘味と出汁の旨味が絶妙ですわ!」
「……んぅ……あむっ……しあわせ、ですぅ……」
ルビィが舌を火傷しそうになりながらハフハフと頬張り、アミィが上品に、しかし猛烈な勢いで食べ進める。双子もすっかり陸の「ソース味」の虜になっていた。
バルバロッサをはじめとする海の男たちも、「こんな美味いタコは食ったことがねぇ!」と涙を流しながらジョッキ片手に大宴会を繰り広げている。
死闘の果てに勝ち取った、至高の食材と極上の宴。
夜の港町に、巨大なタコ焼きの煙と、人々の笑い声がいつまでも響き渡っていた。
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