第53話 空振りの海中探索と、タコ特有の擬態 ~Sランクの海魔は、かくれんぼの達人~
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特大タコ焼きパーティーへの熱い決意を胸に、俺と双子のパール&コーラルは、バルバロッサから聞いた沖合の漁場へと潜行していた。
『海神の魔術』により、俺の身体は水圧も冷たさも感じない。
だが、目の前に広がる外洋の深海は、昨日までの『瑠璃の海溝』のような美しい箱庭とは違い、底知れぬ暗さと広大さを持っていた。
「……マスター。この辺りがぁ、漁船が襲われたポイントですぅ……」
「よし、コーラル。最大出力でソナーを頼む。八本足の巨大な生体反応を探ってくれ」
俺の指示に、コーラルが「……んぅ」と頷き、パールの歌声に合わせて全身をブルブルと震わせた。
――ピィィィィンッ……!!
特殊な超音波が、海水を震わせて全方位へと広がっていく。
海底の地形、魚の群れ、海流の動き。すべてが双子の脳内でマッピングされ、俺の視界にも共有される。
これなら、どんなに巨大な魔物でも一発で見つかるはずだ。
……そう思っていたのだが。
「……おかしいですねぇ……」
「……おっきな反応、ないですぅ……」
「なに? もう一度、波長を変えて探ってくれ」
双子が何度もソナーを放つが、返ってくるのはクジラやサメといった通常の海洋生物の反応ばかり。
あのバルバロッサが「超巨大」と言っていた『暴食の海魔』らしき反応は、どこにも見当たらないのだ。
「……マスター。タコはぁ、骨がないからぁ……岩の隙間とかに、ぎゅーって隠れちゃうんですぅ……」
「……それにぃ、周りの岩やサンゴとそっくりに『擬態』されるとぉ、音の跳ね返りも岩と同じになっちゃってぇ……分からないですぅ……」
「なるほどな……」
俺は舌打ちをした。
前世の知識でも、タコは海の忍者と呼ばれるほどのカモフラージュの達人だ。
皮膚の色や質感を周囲の環境と完全に同化させ、自らの魔力波長すらも絶っているとすれば、いくら双子のソナーでも「ただの巨大な岩」として処理されてしまう。
「……あ、でもぉ。あそこの海底……変ですぅ……」
パールが指差した海底深くへ向かって泳ぐと、そこには異様な光景が広がっていた。
真っ二つにへし折られた大型の漁船が沈んでおり、その船体には、直径1メートルはあろうかという「巨大な丸い吸盤の跡」が無数に刻み込まれていたのだ。
「すげぇ力だ。鋼鉄の装甲板がひしゃげてる」
俺は沈没船に触れ、その跡の生々しさに息を呑んだ。
間違いなく、ここに奴はいた。
だが、食い散らかした後は、どこかへ雲隠れしてしまったのだ。
「……マスター。……疲れましたぁ……」
「……お腹、空きましたぁ……タコ、いないですぅ……」
数時間に及ぶ海中探索。
ソナーを乱発した双子はすっかり魔力を消耗し、クラゲのように俺の背中にへばりついてきた。
これ以上の闇雲な捜索は無意味だ。
「仕方ない。今日のところは一旦引き上げるぞ」
◇
夕暮れの港町。
意気揚々と討伐に向かった俺たちが手ぶらで戻ってきたのを見て、港で待機していた仲間たちが駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん! タコは!? タコ焼きは!?」
「ご主人様、お疲れ様です。……そのご様子ですと、空振りでしたのね?」
エプロン姿で待機していたルビィが涙目になり、アミィが労うようにタオルを渡してくる。
「ああ。ソナーにも引っかからないほど、完璧に擬態して隠れてやがる。……Sランクの海魔ってのは、伊達じゃないな」
「分析。対象は極めて高い知能を有していると推測されます。無駄な体力を消費せず、獲物が来るのを『待ち伏せ』している可能性が高いです」
サフィの言葉に、俺は頷いた。
タコは賢い。俺たちが「狩り」に来た殺気を感じ取って、岩場に引きこもっているのかもしれない。
「申し訳ありませんわ、クロウ様。わたくしが用意したこの特大鉄板の出番は、お預けですのね……」
ダイヤが、港の広場に設置した「直径5メートルの星核鉄製・特大タコ焼きプレート」を撫でながら残念そうに息を吐く。
「……いや、諦めるのはまだ早い」
俺はタオルで濡れた髪を拭きながら、不敵に笑った。
「見つからないなら、向こうから出てこさせればいいんだ。タコの習性を利用してな」
「習性、ですの?」
「ああ。狭くて暗い場所に入りたがる習性だ。……明日は罠を仕掛けるぞ。俺の錬金術で、世界最大・最強の『特大タコ壺』を作ってやる」
今日の晩餐はタコ焼きではなく、海溝で獲ってきたサーモン定食に急遽変更となった。
ルビィは少しふてくされていたが、俺の頭の中ではすでに、巨大なクラーケンを確実に捕獲するための「罠」の設計図が組み上がりつつあった。
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