第51話 海底の箱庭と、塩気のある果実 ~海の中のオアシスで、究極の甘じょっぱさを~
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特大サーモンとヤドカリの海鮮鍋を堪能した翌朝。
俺たちは、再び港町『ポート・セルリア』の冒険者ギルドに顔を出していた。
「おはようございます、クロウさん。昨日の『瑠璃の海溝』は楽しめましたか?」
受付のエーメイド(水棲エルフ)のお姉さんが、にこやかに声をかけてくる。
「ああ、いい海中散歩だったよ。素材もたくさん手に入った」
「それは良かったです。……ところで、海溝のさらに奥にある『海底の箱庭』には行かれましたか?」
「海底の箱庭?」
聞き慣れない単語に、俺は首を傾げた。
「ええ。瑠璃の海溝の底には、地下から特殊な空気が絶えず湧き出している場所があるんです。その空気の圧力で海水が押し除けられて、海中なのに巨大な『空洞』ができているんですよ」
「へぇ……。海の中に空気のドームがあるのか」
「そこには陸上の植物が生い茂っていて、陸の魔物も生息しています。私たち水棲種族や、潜れる冒険者にとっては、ちょっとした観光名所や休憩スポットになっているんです」
海の中に隔離された、独自の生態系を持つ陸地。
錬金術師としての探究心と、美食家としての好奇心が同時に刺激された。
海中のミネラルをたっぷり吸い込んだ陸の植物や魔物……一体どんな味がするのだろうか。
「よし、今日の予定は決まりだ。みんな、もう一回潜るぞ!」
◇
俺たちは昨日と同じ水着スタイル(+白衣)で、再び『瑠璃の海溝』へとダイブした。
「……マスター。水深800メートル地点。前方に巨大な気泡のドームを確認しました」
「……あそこからぁ、いっぱい音が跳ね返ってきますぅ……」
サフィの分析と、コーラルのソナー探知が同時に反応する。
暗い海溝の底に、発光サンゴの光に照らされた、直径数キロにも及ぶ巨大な透明のドームがあった。
下から湧き出す空気の力で、海水が見えない壁に阻まれたようにドーム状になっているのだ。
「すげぇ……。本当に入り口があるぞ」
俺たちはドームの下部にある、空気と海水が混ざり合う境界線へと向かった。
ザパァッ……!
水面から顔を出すように「上陸」すると、そこは海の中とは思えない光景が広がっていた。
「わぁーっ! 海の底なのに、森があるよー!」
「不思議な空間ですわね。天井の岩肌が光っていて、まるで太陽のようですわ」
ルビィとアミィが歓声を上げる。
足元にはフカフカの苔や芝生が広がり、見上げるほどの巨大なシダ植物や、南国のようなヤシの木が生い茂る広大なジャングルが形成されていた。
空気は少しだけ潮の香りがするが、非常に澄んでいて呼吸がしやすい。
そして入り口付近の安全なエリアには、木材やサンゴで作られた小さな屋台や、パラソルが並んでいた。
アキュノイドやマーメイドたちが、海中探索の合間にここで食事をしたり、寝転がったりしてくつろいでいる。
まさに「海底の観光名所」だ。
「いらっしゃい! 陸の冒険者かい? ここまで来るなんて大したもんだ!」
「『潮風ジュース』はいかがっすかー! 疲労回復に効くよー!」
陽気な商人たちの声が響く。
俺は屋台で売られていた青い果実のジュースを一つ買い、一口飲んでみた。
「……美味い。柑橘系の酸味の中に、ほんのりとした塩気がある」
「それはこの箱庭で採れる『マリン・レモン』を絞ったものさ。海風のミネラルを吸って育つから、スポーツドリンクみたいに体に染み込むんだよ」
なるほど、天然の塩分補給飲料か。
俺は商人に礼を言い、仲間たちを振り返った。
「入り口でこれだけ美味いんだ。奥のジャングルには、もっと凄い素材があるはずだぞ。行くぞ、みんな!」
◇
俺たちは観光エリアを抜け、植物が鬱蒼と茂る空洞の奥へと足を踏み入れた。
そこはまさに「独自の進化」を遂げた動植物の楽園だった。
葉っぱがワカメのような形をした巨大な樹木や、サンゴのようにカラフルなキノコ。
「ご主人様、この赤い果実、とても甘い香りがしますわ」
アミィが見つけたのは、トマトのように真っ赤で、リンゴのような形をした果実だった。
俺は『鑑定眼』を発動する。
【海王林檎】
・特徴:海中のミネラルと魔力を吸い上げて結実する幻の果実。
「よし、試食してみよう」
俺はナイフで切り分け、一口かじった。
「……ッ!!」
シャキッとした食感と共に、強烈な甘みが口いっぱいに広がる。
だが、ただ甘いだけではない。果汁の中に絶妙な「塩気」が含まれており、それが甘みを何倍にも引き立てているのだ。
「スイカに塩をかける原理の、究極完全版だ……! これでお菓子を作ったら、とんでもないものができるぞ!」
「……マスター、あーん……」
「……わたしもぉ……」
口を開けて待機しているパールとコーラルに、切り分けた果実を放り込む。
双子は「……んぅ♡」と幸せそうに頬を緩め、プルプルと震えた。
「お兄ちゃん! あっちに動くヤシの木がいるよ!」
ルビィが指差した先。
ジャングルの奥から、ズシン、ズシンと地響きを立てて巨大な魔物が姿を現した。
全長10メートルはあろうかという、巨大な陸亀だ。
しかし、その甲羅の上には、立派な「ヤシの木(のような植物)」が数本生えており、たわわに実を実らせている。
『箱庭の主』とも呼べる、生態系の頂点――『ヤシガメ・ロード』だ。
「グルルルルッ……!」
縄張りを荒らされたと思ったのか、亀が太い首を伸ばして威嚇してくる。
俺は目を輝かせた。
「ゴルド、ルビィ! あの甲羅の上の『ヤシの実』を落とせ! 絶対に割るなよ!」
「御意!!」
「はーい! 優しくコンッてする!」
ゴルドが亀の突進を正面からガッチリと受け止め、その隙にルビィが跳躍。
ロケットハンマーの柄の部分で、ヤシの実の根元だけを正確に弾き飛ばす。
「ダイヤ、プリムローズ! 亀の足止めだ!」
「お任せを。……少々熱いですわよ?」
「植物の拘束なら私の十八番だ」
プリムローズが地面から太い蔦を召喚して亀の四肢を縛り上げ、ダイヤが熱線で亀の足元を軽く炙る。
驚いた亀は「ヒャッ!?」という顔をして、甲羅の中にすっぽりと手足を引っ込めてしまった。
「よし、戦闘終了! 採取完了だ!」
俺たちは甲羅に籠もった亀を放置し(殺す必要はない)、無傷で手に入れた巨大な『ヤシの実』を回収した。
◇
その後、俺たちは安全な広場にレジャーシート(白蛇の抜け殻)を敷き、遅めのランチタイムとした。
「さあ、割るぞ」
俺がミスリルの包丁でヤシの実を真っ二つに割ると、中からはココナッツミルク……ではなく、透明でプルプルとした『天然のゼリー』がたっぷりと詰まっていた。
「これを器にして、さっきの『海王林檎』をトッピングすれば……特製・海底フルーツポンチの完成だ!」
冷たいヤシの実ゼリーの爽やかな甘さと、海王林檎の絶妙な塩気が混ざり合い、疲れた身体に染み渡っていく。
「美味しいですわ! いくらでも食べられそうです!」
「分析。塩分と糖分の黄金比率です。これは市場で売れば金貨の山が築けます」
「売らないよー! 全部ボクたちが食べるの!」
頭上の発光苔がキラキラと輝き、海中から湧き出す心地よい風が吹き抜ける。
ただのダンジョン潜行ではなく、未知の生態系を全身で味わう極上の観光ツアー。
「……最高だな、この箱庭は」
俺は甘じょっぱいゼリーを堪能しながら、仲間たちの笑顔を見渡した。
海の中の不思議な陸地で過ごす、錬金術師の優雅なピクニックは、穏やかに過ぎていったのだった。
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