第49話 双子の陸上デビューと、海辺の買い食い ~たまにはのんびり、お使いクエスト~
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『沈黙の海都』での大仕事を終え、俺たちは再び港町『ポート・セルリア』の桟橋へと上がった。
「……ふわぁ……。ここが、陸地ぃ……?」
「……明るくてぇ、眩しいですぅ……」
初めて海都の外へ出たパールとコーラルの双子は、目をパチパチさせながら港の景色を見渡している。
俺が昨日徹夜で作った『空気膜のペンダント』の術式を反転させ、彼女たちの周囲には極薄の『水膜』が張られている。これなら陸上の乾燥や重力に悩まされることなく、水中と同じように快適に過ごせるはずだ。
「よし、深海の探索も無事に終わったし、今日はこの街をゆっくり観光しよう」
俺が宣言すると、ルビィがバンザイをして飛び跳ねた。
「わーい! お兄ちゃん、あっちからすっごくいい匂いがするー!」
「まったく、ルビィは花より団子ですわね。……ご主人様、わたくしはあちらの真珠のアクセサリーが見たいですわ」
「合理的判断です。この街の特産品は、内陸部では十倍の価格で取引されます。市場調査を推奨します」
アミィ、サフィ、そしてダイヤやプリムローズも、それぞれ港町の活気に目を輝かせている。
俺たちは露店が並ぶ大通りを歩き始めた。
ジュウウゥゥ……ッ。
醤油の焦げる暴力的な香りが、俺たちの鼻腔をくすぐる。
エーメイドの商人が、屋台で巨大な『大王イカの姿焼き』や『ホタテのバター焼き』を売っていた。
「親父さん、ここからここまで、全部くれ」
「へいお待ち! 陸の旦那、景気がいいねぇ!」
俺が銀貨を数枚弾くと、商人は大喜びで串の山を渡してくれた。
俺は歩きながら、そのイカ焼きに自作の『柑橘系錬金マヨネーズ』を少しだけトッピングし、双子に差し出した。
「ほら、食べてみろ。陸の『買い食い』ってやつだ」
「……んぅ……あむっ……」
「……! おいしい……ですぅ……」
双子の目が、ほんの少しだけ見開かれた。
海の中で生の魚介は食べていただろうが、「火を通した醤油味」は初めての経験のはずだ。
二人とも、クラゲのようにふにゃふにゃした動きで、あっという間に巨大なイカを平らげてしまった。
「……マスター。陸の食べ物、最高ですぅ……」
「……もっと、食べたいですぅ……」
「ははっ、いくらでもあるぞ。今日は奢りだ」
◇
買い食いとウィンドウショッピングを満喫した後、俺たちは港町の冒険者ギルドへと足を運んだ。
前回の都市『アルタイル』では、世界樹を治したことがバレて大騒ぎになってしまった。
今回はバカンスだ。あまり目立ちたくはない。(白衣の男と絶世の美女6人、赤い巨大ゴーレムという編成の時点で、めちゃくちゃ目立っているのだが、幸いこの街は多種多様な水棲種族がいるため、多少の異物感は風景に溶け込んでいた)。
俺は受付を避け、直接クエストボードの前に立った。
「たまには初心に帰って、簡単な『採取クエスト』でもやるか。海中散歩のついでにできるやつがいいな」
ボードには、海辺の街ならではの依頼が並んでいる。
『Cランク:光る海藻の採取』
『Dランク:浅瀬の魔物、シザー・クラブの討伐』
「ご主人様、この『特大パール貝の真珠』という依頼はいかがですか? 装飾品の材料として、常に需要があるそうですわ」
アミィが指差した依頼書には、水深50メートル付近の岩場に生息する貝から真珠を採ってくるよう書かれていた。
「なるほどな。水棲の冒険者にとっちゃ潜るのなんてお散歩だろうに、なんでこの依頼が残ってるんだ?」
「分析。対象の『特大パール貝』は岩肌に擬態しており発見が困難な上、貝殻の硬度は鋼鉄並みです。水中で力が入らない状態のまま、専用のバールでこじ開ける重労働を強いられるため、割に合わないと敬遠されている模様です」
サフィの解説に、俺は頷いた。
見つけにくく、開けにくい。地味に面倒なクエストというわけだ。
「よし、それにしよう。俺たちなら魔道具もいらないし、ちょうどいい腹ごなしになりそうだ」
俺が依頼書を剥がそうとした時、背後で双子がぽつりと呟いた。
「……特大パール貝ならぁ、あそこの岬の裏の岩陰に、いっぱいくっついてますぅ……」
「……ソナーで、反応ありますぅ……」
双子の探敵能力(超音波ソナー)は、海底の地形から生体反応まで、全てを正確にマッピングできる。
「見つけにくい」という問題が、受注する前から終わってしまった。
「お前ら、有能すぎるだろ……。よし、場所が分かってるならピクニックだ!」
◇
俺たちはギルドで依頼を受注すると、再び海へと向かった。
今回は深海へのダイブではなく、陽の光が差し込む浅瀬での海中散歩だ。
ザバーンッ! と海に飛び込む。
賢者の遺した『海神の魔術』のおかげで、息苦しさは全くない。
まるで空を飛んでいるかのように、澄み切った海の中を自由に泳ぎ回る。
「わぁーっ! お魚がいっぱいー!」
「ルビィ、あまり遠くへ行かないでくださいね。……おや、この海藻は薬効がありそうですわ」
「マスター、あちらの岩場ですぅ……」
双子に案内されたポイントへ行くと、依頼書の通り、見事な真珠を抱えた特大パール貝が群生していた。
「……でもお兄ちゃん、これどうやって開けるの? すっごく硬く閉じてるよ?」
ルビィがハンマーを取り出そうとするのを、俺は慌てて止めた。
「ストップ! 叩き割ったら中の真珠まで傷がつくぞ」
「……わたしが、やりますぅ……♪」
コーラルが貝の前にスッと泳ぎ出て、小さくハミングをした。
特殊な周波数の音波が貝殻に当たると、貝の蝶番の筋肉だけがピンポイントで弛緩し、パカァッ……と綺麗に口を開いたのだ。
水中の冒険者たちが苦労してバールでこじ開ける鋼鉄の扉が、音波一つで自動ドアのように開いていく。
「お見事。まさに鍵開けの達人だな」
「……えへへぇ……」
俺たちは傷一つない極上の真珠を次々と回収し、ついでに晩ご飯のオカズになりそうなカニやエビも乱獲した。
海中に差し込む光のカーテンの中、色とりどりの水着を着た仲間たちが楽しげに泳ぐ姿は、まるで一枚の絵画のようだ。
「……悪くないな、こういうのんびりした時間も」
俺は海中で大きく伸びをした。
世界の危機を救うのもいいが、たまにはこうして、依頼書片手に仲間とワイワイ素材を集める。これぞ冒険者の本来の姿だ。
たっぷりと海を満喫し、アイテムボックスを海の幸と真珠でパンパンにした俺たちは、夕日が海をオレンジ色に染める頃、笑い合いながら港町へと帰還した。
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