第45話 暴走炉の鎮火と、意外な副産物 ~ゴミの中に宝あり、毒の中に薬あり~
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山の中腹、黒煙を上げる古代の廃棄物処理施設。
俺たちが近づくと、周囲で作業をしていた旧式の機械人形たちが、ギギギ……と首を回してこちらを向いた。
『警告。異物検知。焼却処分シマス』
錆びついた腕を振り上げ、数十体のボットが襲いかかってくる。
「邪魔だ。スクラップになりたいのか?」
俺が指を鳴らすと、深紅の巨体が前に出た。
「主ノ道ヲ塞グガラクタ共! 我ガ装甲ノ前デハ、貴様ラナド枯れ木同然!」
ドガァァァッ!!
ゴルドの裏拳一発で、三体のボットが空中に舞い、バラバラになって散らばった。
ルビィも負けじとハンマーを振り回す。
「ホームランだーっ!」
カキィィン!
ボットたちは物理的に排除された。
だが、本番はこれからだ。炉心は赤熱し、今にも限界を迎えようとしている。
「サフィ、炉内の圧力はどうだ?」
「危険域です。物理的衝撃を与えれば、内包する有毒ガスごと爆発。半径5キロメートルが汚染されます」
「だろうな。……よし、手順通りに行くぞ」
俺は錬金術の大釜を取り出し、地面に設置した。
「プリムローズ! まずは煙だ! これ以上、村に毒を行かせるな!」
「任せろ。……植物は、空気を浄化するためにある」
プリムローズが地面に種を撒き、魔力を注ぎ込む。
ズズズッ……!
瞬く間に巨大な蔦が成長し、煙突の出口を覆うようにドーム状の「葉のフィルター」を形成した。
「『大気清浄樹』。この葉が毒素を吸着し、綺麗な空気だけを通す」
「ナイスだ。次は熱だ!」
俺は炉に向かって走った。
炉の壁面は触れるだけで皮膚が焼け焦げるほどの高温だ。これを一気に冷やす必要がある。
「ダイヤ! お前の出番だ! この熱、好きにしていいぞ!」
「まあ、素敵♡ では遠慮なく……いただきますわ」
ダイヤが日傘を閉じ、先端を炉の壁に押し当てた。
彼女は熱エネルギーを動力とするオートマタ。この暴走した熱量は、彼女にとって極上の「燃料」だ。
「『熱量吸収』……♡」
シュウウゥゥ……!
炉の赤熱していた色が、みるみるうちに冷めていく。
逆に、ダイヤの肌は艶を増し、瞳がダイヤモンドのように輝き始めた。
「んっ……♡ 濃厚なカロリーですわ……。お肌が若返ります……」
「よし、冷却完了! 圧力が下がった!」
サフィが叫ぶ。
今だ。俺は釜の中で調合していた『超強力・消火中和剤(スライム粘液入り)』を、パイプの裂け目から炉内へ一気に流し込んだ。
ジュワワワワッ!!
内部で燃え盛っていた炎と廃棄物が、泡に包まれて鎮火していく。
「トドメだ! ゴルド、ルビィ! 炉心を物理的に停止させろ!」
「御意!!」「えいっ!」
ズドオオオン!!
二人の同時攻撃が、炉の制御中枢を正確に粉砕した。
低い駆動音が止まり、黒煙も完全に止まった。
「……鎮圧完了」
俺は防毒マスクを外し、深呼吸をした。
空気はまだ少し焦げ臭いが、先ほどまでの「死の臭い」は消えている。
◇
安全を確認した後、俺たちは破壊した炉の中身を検分した。
「酷いもんだな。燃えカスだらけだ」
炉の底には、炭化した木々や岩石が溜まっていた。
だが、俺の『鑑定眼』は、その燃えカスの中にキラリと光るものを見逃さなかった。
「……おや?」
俺はトングで、灰の中から一つの塊をつまみ上げた。
虹色に鈍く光る、歪な金属の結晶。
「これは……『イリジウム』と『ミスリル』の合金か?」
「分析。長期間の高熱と高圧力によって、廃棄された金属ゴミが偶然にも融合し、希少金属へと変質しています」
なるほど。
暴走した高熱炉が、意図せずして「巨大な合成炉」の役割を果たしていたわけか。
俺は灰の山を掘り返した。出てくるわ出てくるわ、高純度のレアメタルの塊が。
「ゴミ処理場の掃除をしたら、宝の山が出てきたってわけか」
俺は苦笑し、それらをアイテムボックスへ回収した。
村を苦しめた「死の灰」の正体は、皮肉にも「富の結晶」を精製する過程で出たカスだったのだ。
「これなら、村への『お詫び』と『復興資金』には十分すぎるな」
俺たちはレアメタルを満載し、意気揚々と山を下りた。
◇
麓の村に戻ると、村人たちは外に出て、空を見上げていた。
黒い雲が消え、久しぶりに太陽の光が降り注いでいる。
「あ……ああ……! 煙が止まった……!」
「空気が……吸えるぞ……!」
俺たちが戻ると、老婆が涙を流して駆け寄ってきた。
「旅のお方……! あんた様たちが、やってくれたんじゃな……!」
「ああ。暴走していた機械を止めてきた。もう毒は降らない」
俺はビークルから、先ほど回収したレアメタルの一部(それでも金貨数百枚分)と、余っていた食料を降ろした。
「これは山で見つけた『落とし物』だ。換金すれば、井戸を掘り直して、畑を再生するくらいの金にはなるだろう」
「そ、そんな……! 命を救われた上に、こんな大金まで……!」
「気にするな。俺たちは通りすがりの錬金術師だ。……汚い空気が嫌いなだけでな」
俺は老婆の手を取り、ニカっと笑った。
「しっかり食って、しっかり治せよ。……いつかまた通った時に、美味い野菜でも食わせてくれ」
俺たちは呆然とする村人たちを残し、再びビークルを走らせた。
バックミラーの中では、村人たちがいつまでも頭を下げ続けていた。
「いいことをしましたわね、ご主人様」
「分析。マスターの善行により、この地域の環境指数が30%改善されました」
「お兄ちゃん、お腹空いたー! さっきのお肉まだある?」
俺はハンドルを握り直した。
寄り道はこれで終わりだ。
今度こそ、潮風の待つ港町へ。俺たちのバカンスは、これからが本番だ。
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