第42話 海への大橋と、雷雲を呼ぶ主 ~それはドラゴンではありません、特大のウナギです~
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それでは、本編をお楽しみください!
冒険者ギルドの裏口。
極上の寿司パーティーを終え、ビークルに乗り込もうとした俺の足に、ギルドマスターのレオパルドがしがみついた。
「待ってくれ! どうしても、もう一件だけ頼まれてくれないか……!?」
「離せよギルマス。俺たちはこれから港町でバカンスなんだ」
「その『港町』へ行けなくなるかもしれないんだよ!!」
レオパルドの悲痛な叫びに、俺は足を止めた。
「……どういうことだ?」
「たった今入った急報だ。この街と港町を繋ぐ唯一の陸路、『海竜の大橋』が……占拠された」
彼の話によると、その橋は海峡を跨ぐ巨大な建造物で、物流の要だという。
先ほど俺が亀をどかして開通させた街道も、最終的にはその橋に繋がっている。
「占拠したのは、Sランク指定の魔獣『嵐の海蛇』だ。橋に巻き付き、雷雲を呼び寄せて、近づく者を黒焦げにしているらしい」
レオパルドは青ざめた顔で続けた。
「空も海も荒れていて、船も出せない。このままでは港町は『陸の孤島』になり、干上がってしまう……!」
「なるほど。つまり、俺が楽しみにしている『港町の海産物』も、そこで腐るわけか」
俺の目が据わった。
亀をどかして安心していたが、その先でまた物流が止まっていたとは。
俺の食卓を脅かす奴は、徹底的に排除しなければならない。
「分かった。その蛇、俺が退かしてやる」
「ほ、本当か!? 恩に着る! 報酬は弾むぞ!」
「金はいらん。その代わり……倒した魔獣の『所有権』は俺が貰う」
俺は舌なめずりをした。
嵐を呼ぶ海蛇。雷を操る長物。
俺のデータベース(食欲)が正しければ、そいつはアレに似ているはずだ。
「……特大の『ウナギ』にな」
◇
俺たちはビークルを最大出力で飛ばし、数時間後には海峡を見下ろす崖の上に到着した。
目の前には、海を渡る全長数キロの白い大橋。
だが、その中央付近に、とぐろを巻いた巨大な青黒い影があった。
『嵐の海蛇』。
全長は100メートルを超え、その体からはバチバチと青白い稲妻が迸っている。
上空には黒雲が渦巻き、橋の上は暴風雨が吹き荒れていた。
「うわぁ……。ビリビリしてるねー」
「分析。高圧電流および水流ブレスによる迎撃を確認。接近するだけで感電死します」
ルビィとサフィが冷静に評価する。
普通の冒険者なら近づくことすらできない要塞だ。
「よし、作戦会議だ」
俺はホワイトボード(錬金術製)を取り出した。
「今回の目的は『討伐』だが、最も重要なのは『食材として確保すること』だ」
「食材……ですの?」
「ああ。あいつは蛇じゃない。魔力をたっぷりと蓄えた、脂の乗ったウナギだ。蒲焼きにすれば最高のご馳走になる」
俺の言葉に、アミィとルビィがゴクリと喉を鳴らした。
「ですがマスター。黒焦げにしては味が落ちますし、毒を使えば食べられません」
「その通りだ。だから、今回は『鮮度を保ったまま捌く』」
俺は指を鳴らした。
「ゴルド! お前の装甲は『星核鉄』だ。雷なんて効かないだろ?」
「御意! 電気ナド、我ガ装甲ニトッテハ心地ヨイ刺激ニ過ギマセン!」
「よし、お前が囮になって頭を押さえろ。その隙にルビィが『衝撃波』で気絶させる」
「はーい! 叩いていいのね!」
「ダイヤは雨雲を晴らせ。湿気ってると炭火が熾せない」
「承知いたしましたわ。……あのような薄汚い雲、わたくしの輝きで消し飛ばして差し上げます」
完璧な布陣だ。
俺たちはビークルを降り、嵐の中へと歩き出した。
◇
『グオオオオオオッ!!』
俺たちの接近に気づいた海蛇が、鎌首をもたげて咆哮する。
凄まじい雷撃が、雨のように降り注いだ。
ドガガガガッ!!
「効カヌゥッ!!」
ゴルドが仁王立ちで雷を受け止める。
深紅のボディに稲妻が走るが、傷一つ付かないどころか、エネルギーとして吸収し、さらに赤く輝き出した。
「コノ程度カ! 我ガ主ノ怒リ(空腹)ニ比ベレバ、そよ風同然!!」
ゴルドがスラスターを噴射し、空へ飛び上がる。
海蛇が驚いてブレスを吐こうとした瞬間、ゴルドの剛腕がその顎をカチ上げ、橋の上に押さえつけた。
「今だルビィ! 脳天を一撃だ! ただし潰すなよ!」
「任せてー! 『優しめ・メガトンハンマー』!!」
ルビィがロケットハンマーを振り下ろす。
ドォォォォン……!
橋全体が揺れるほどの衝撃が走るが、それは表面を傷つけず、衝撃だけを内部に浸透させる神業の一撃。
海蛇は白目を剥き、ぐにゃりと力を失った。
「仕上げですわ」
ダイヤが日傘を開き、空へ向ける。
一条の熱線が黒雲を貫き、瞬く間に空気を乾燥させていく。
あっという間に雨は止み、雲の切れ間から夕陽が差し込んだ。
「……よし。調理開始だ」
俺は巨大な海蛇の上に飛び乗った。
アイテムボックスから取り出したのは、特注の『ミスリル製・鰻裂き包丁』。
「目打ち! 背開き! 串打ち!」
錬金術で身体強化した俺の腕が唸る。
全長100メートルの巨体を、魔力カッターと包丁で瞬時に解体していく。
内臓を取り、骨を外し、切り身にしていく手際は、もはや職人芸だ。
「タレの準備はいいか!?」
「はい、ご主人様! エルフの里で熟成させた『秘伝のタレ』、温まっております!」
橋の上に並べた巨大な焼き網(ゴルドが支えている)。
そこへ切り身を乗せ、タレを塗り、ダイヤの火力で焼き上げる。
ジュウウゥゥッ……!!
香ばしい醤油と砂糖の焦げる匂い。脂が炭に落ちて上がる煙。
それは海風に乗って、対岸の港町まで届いたことだろう。
◇
数十分後。
俺たちは橋の上で、山盛りの『特大・ウナ重』を囲んでいた。
「いただきまーす!!」
ガブッ。
肉厚な身はふわふわで、皮はパリッとしている。
噛むたびに溢れる濃厚な脂と、甘辛いタレが絡み合い、白米が無限に進む。
「んん~っ! 精がつく味だ!」
「これ、お肌がプルプルになりますわね!」
「雷の味がするー! ビリビリして美味しい!」
Sランク魔獣のエネルギーをそのまま摂取する背徳感。
これぞ冒険者の醍醐味だ。
◇
「ふぅ……ごちそうさん。さて、行くか」
俺は爪楊枝を咥えながら立ち上がった。
アミィたちが、期待に満ちた目で橋の向こう――海が見える方角を見ている。
「ご主人様、いよいよ港町ですわね!」
「早く海で泳ぎたいなー!」
だが、俺はビークルのハンドルを逆方向に切った。
「お兄ちゃん? そっちは来た道だよ?」
「ああ。『戻る』んだよ」
「ええーっ!? 海はすぐそこなのに!?」
ルビィがブーイングするが、俺は真顔で諭した。
「馬鹿野郎。クエストを受けたままバックレたら、俺たちの信用に関わるだろ? 社会人として、報告・連絡・相談は基本だ」
それに、レオパルドには世話になった(良いマグロを貰った)。
義理は果たさなければならない。
「ビークルの最大出力なら、往復してもすぐだ。掴まってろ!」
ブォォォォォンッ!!
俺たちのスーパーカーが火を吹き、来た道を音速で爆走した。
◇
――数十分後。交易都市アルタイル、冒険者ギルド。
ギルドマスター室の扉がガチャリと開いた。
レオパルドは、まだ先程の「亀クエスト」の書類整理に追われていた。
「うう……忙しい……。クロウ殿にお願いした『海蛇』の件、どれくらいかかるだろうか。数日は……」
「よぉ、ギルマス。終わったぞ」
俺がひょっこり顔を出すと、レオパルドは椅子から転げ落ちそうになった。
「はあぁぁッ!? ク、クロウ殿!? なぜここに!? 今さっき出て行ったばかりだぞ!?」
「だから、終わらせてきたんだよ。橋は開通した。天気も快晴だ」
俺は「依頼達成報告書」をペラリとデスクに置いた。
「そ、そんな馬鹿な……! 往復する時間すら足りないはずだ!」
「俺の足をナメるなよ。……ほら、これ証拠品兼お土産だ」
俺はアイテムボックスから、重箱に入った『特製・特上ウナ重弁当(冷めない魔法付き)』を取り出した。
「デカすぎて全部は食えなかったからな。余った分を焼いて詰めてきた。精がつくぞ」
「こ、これは……あの『嵐の海蛇』か……!?」
蓋を開けた瞬間、部屋中に広がる暴力的なまでの芳醇な香り。
レオパルドの喉がゴクリと鳴った。
「討伐証明部位(牙と魔石)もここにある。……これで文句ないな?」
「も、文句などあるものか……! あんた、本当に何者なんだ……!?」
レオパルドは震える手でハンコを押し、報酬の金貨袋(Sランク討伐報酬)を差し出した。
「ありがとう。……助かったよ、本当に」
「いいってことさ。じゃあな、今度こそ俺たちはバカンスに行ってくる」
俺は金貨とハンコを受け取り、ヒラヒラと手を振って部屋を出た。
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