第39話 悪徳工場の崩壊と、蘇る清流 ~汚れた水は、錬金術で「最高の出汁」に変える~
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違法ポーション工場の前。
ドス黒い煙と、鼻を突く薬品臭。
俺はハンカチで口元を押さえながら、先頭の黄金の巨体へ合図を送った。
「ゴルド。ノックだ」
「御意!!」
ズドオオオォォォンッ!!
「ノック」というにはあまりにも破壊的な音が響き渡る。
ゴルドのオリハルコンの拳が、鉄製の門扉を紙屑のように吹き飛ばしたのだ。
「な、なんだぁぁ!? 敵襲か!?」
「ヒイィッ! 赤いゴーレム!?」
工場内はパニックに陥った。
薄汚い作業着を着た男たちが、慌てふためいて逃げ惑う。
その奥から、小太りの工場長らしき男が、護衛の傭兵を引き連れて現れた。
「き、貴様ら何者だ! ここを誰のシマだと思っている!」
「通りすがりの『衛生検査官』だ」
俺は瓦礫を踏み越えて進み出る。
「お前たちの排水処理があまりにも杜撰でな。川の魚が泥臭くて食えたもんじゃない。……よって、営業停止処分を下す」
「はぁ!? 魚!? そんなことのために殴り込んできたのか!?」
工場長が呆気にとられ、すぐに顔を真っ赤にして叫んだ。
「やっちまえ! こいつらを殺して肥料にしろ!」
傭兵たちが剣を抜いて襲いかかる。
だが、俺たちが動くまでもなかった。
「無粋ですわね」
「分析。戦闘力、Fランク相当。……準備運動にもなりません」
アミィが鉄扇を一振りして突風を起こし、サフィが重力魔法で地面に縫い付ける。
ルビィがハンマーをぶん回すと、風圧だけで傭兵たちは吹き飛んで壁にめり込んだ。
「ひぃぃッ!? ば、バケモノ……!」
工場長が腰を抜かす。
そこへ、プリムローズがツカツカと歩み寄り、製造ラインの釜を覗き込んだ。
「……最低だ」
彼女は分厚い眼鏡の奥で、静かな怒りを燃やしていた。
「腐った薬草に、安定剤代わりの重金属……。こんな毒物を『ポーション』として売っていたのか? 薬師として、吐き気がする」
「う、うるさい! 安けりゃ売れるんだよ! 貧乏人にはこれくらいで丁度いいんだ!」
「黙れ、下衆が」
プリムローズが指を鳴らすと、床から太い蔦が伸び、工場長を天井から逆さ吊りにした。
「ぎゃあああッ!?」
「反省していろ。……マスター、制圧完了だ」
あっけない幕切れだった。
だが、問題はこれからだ。俺は工場の裏手、川へと続く排水溝へ向かった。
◇
そこには、ヘドロのような廃液が溜まった巨大な貯水槽があった。
ここから溢れた毒が、川を汚染し続けているのだ。
「……酷いな。これを自然浄化に任せたら、数十年はかかるぞ」
「ご主人様、どうされますの? 埋め立てますか?」
「いや。毒も使いようだ」
俺はニヤリと笑い、アイテムボックスから巨大な錬金釜を取り出した。
そして、貯水槽のヘドロを魔力で汲み上げ、釜へと投入していく。
「見てろよ。錬金術の基本は『等価交換』と『物質変換』だ」
俺はそこに、エルフの森で採取した『浄化草』と、火山で手に入れた『多孔質フィルター岩』を放り込んだ。
「術式展開――『強制濾過・再構成』!!」
カッ!!
釜が眩い光を放つ。
ドス黒いヘドロの中で、毒素成分が分解され、別の分子構造へと組み替えられていく。
毒は薬へ。汚泥は栄養へ。
「排出!!」
シュウウゥゥ……!
釜の蛇口から流れ出したのは、先程までのヘドロではなく、キラキラと輝く「無色透明な清水」だった。
そして、底に残った固形物は、臭いのない「高純度肥料」へと変わっていた。
「す、すげぇ……! 毒が消えた!」
「お兄ちゃん! 水が光ってるよ!」
俺はその清水を、勢いよく川へと放流した。
清らかな水は、濁った川の流れを一瞬で押し流し、下流へと広がっていく。
川底の石が見えるほどの透明度が、みるみるうちに戻っていく。
ザバァッ! ザバァッ!
川面から、次々と魚人たちが顔を出した。
「お、おおお……! 水が! 水が美味いぞ!」
「体が軽くなる! 毒が抜けていく!」
「ありがとう! ありがとう人間!」
魚人たちが歓喜の声を上げ、水しぶきを上げて踊り出した。
川岸で見守っていた俺たちにも、その喜びの水しぶきが飛んでくる。
「ふぅ。仕事完了だな」
俺は額の汗を拭った。
これで川は救われた。そして何より……。
「……さて、魚人さんたち。約束の『お礼』を頼めるかな?」
俺がニカっと笑うと、魚人の長老が大きく頷き、川の中へと潜っていった。
数分後。彼が抱えて戻ってきたのは、俺の腕ほどもある巨大な銀色の魚だった。
「これぞ『鏡水川の主』、『銀鱗アユ(シルバー・トラウト)』だ! あんたになら、喜んで差し出そう!」
ピチピチと跳ねるその魚体は、宝石のように美しく、全く泥臭さを感じさせない。
清流の王様だ。
「最高だ……! 待ってたぜ、この時を!」
◇
その夜。
俺たちは川原で焚き火を囲み、最高の『アユの塩焼き』にかぶりついていた。
皮はパリッ、身はふっくら。
噛めば上品な脂と、清流の香りが口いっぱいに広がる。
「んん~っ! 美味しい! 全然臭くないよ!」
「これが本来の味ですのね。……白ワインが進みますわ」
「お兄ちゃん、もう一匹焼いてー!」
プリムローズも、魚の骨を綺麗に残して満足げだ。
「フン。悪くない味だ。……あの汚染を、一瞬で浄化するとはな。お前の錬金術は、やはり規格外だ」
「へへっ。美味いもん食うためなら、奇跡だって起こしてやるさ」
俺は串を置き、夜空を見上げた。
星が綺麗だ。
川のせせらぎも、昨夜よりずっと澄んだ音に聞こえる。
違法工場は壊滅し、魚人たちは救われ、俺の腹も満たされた。
完璧なハッピーエンドだ。
(なお、吊るされた工場長たちは、後で駆けつけた魚人たちによって『みっちり』と絞られた後、ギルドへ突き出されたらしい)
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