第37話 成金エルフのボッタクリ宿 ~金貨10枚のスープが冷めていた件について~
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エルフの里を出発し、海を目指して数日。
俺たちは森の街道沿いに、突如として現れた一風変わった集落に到着した。
そこは、自然と共生するエルフの里とは対照的に、けばけばしい装飾が施された「豪華な」村だった。
木々は不自然に刈り込まれ、建物の柱には金箔(のような塗料)が塗られている。
「……なんだここは? テーマパークか?」
「分析。建築様式はエルフ風ですが、素材は安価な建材を使用。表面的な装飾過多が見られます」
サフィが冷静に評価する。
だが、長旅で疲れていた俺たちは、とりあえず休める場所を探すことにした。
「ようこそ! 旅の旦那様!」
村に入ると、揉み手をしたエルフの男が寄ってきた。
エルフ特有の神秘性はなく、商人のような卑屈な笑みを浮かべている。
「ここは『黄金葉の村』! 森で一番リッチなサービスを提供するリゾート地でさぁ! 宿をお探しで?」
「ああ。一番いい部屋を頼む」
「へへっ、ならウチの『ロイヤル・スイート』しかありやせん! 一泊、お一人様『金貨10枚』になりますがね!」
金貨10枚。
王都の高級ホテルでもお釣りが来る額だ。普通の冒険者なら卒倒するだろう。
だが、今の俺の財布には、国家予算並みの資産が唸っている。
「構わん。その代わり、値段に見合ったサービスを期待するぞ」
俺がポンと金貨を支払うと、宿の主人は「へへっ、毎度あり!」と下卑た笑みを浮かべた。
◇
案内された部屋に入った瞬間、俺たちの眉がピクリと動いた。
「……埃っぽいな」
「ご主人様、このベッド……シーツはシルクに見せかけた化学繊維ですわ。肌触りがゴワゴワします」
アミィが不満げにシーツを摘む。
さらに、夕食として運ばれてきた料理を見て、ルビィが口を尖らせた。
「なにこれー? スープが冷たいよー。パンもカチカチ!」
「おやおや、お嬢ちゃん。これは『冷製スープ』という高級料理でしてね。パンも『ハードブレッド』という……」
宿の主人が言い訳をするが、俺には分かっていた。
ただの手抜きだ。スープは作り置きが冷めただけ。パンは数日前の売れ残りだ。
「……おい」
俺はスプーンを置いた。
金が高いのは構わない。俺は金持ちだからな。
だが、「対価に見合わない不誠実な仕事」は、職人(錬金術師)として許せない。
「これが金貨10枚のサービスか? 随分と客を舐めた商売だな」
「はっ! 何を言うかと思えば!」
主人は開き直ったように鼻を鳴らした。
「文句があるなら出ていってもらって結構! ここはこの辺りで唯一の宿だ。嫌なら森で野宿でもすることだな!」
「……ほう」
「大体、人間風情が泊まれるだけありがたいと思え! 我々は高貴なエルフだぞ!」
主人が威張り散らす。
その時だった。
「……高貴? お前たちがか?」
部屋の奥から、冷ややかな声が響いた。
それまで黙って茶を飲んでいた、分厚い眼鏡の小柄な少女――プリムローズが立ち上がったのだ。
「あ? なんだそのチビは……」
「黙れ、『はぐれ者』」
プリムローズが眼鏡を外し、鋭い眼光で主人を射抜いた。
その瞬間、主人の顔色が青ざめた。
「そ、その魔力波長……ま、まさか……里の『大賢者』様……!?」
そう。この村の正体は、厳しい戒律や質素な生活を嫌って里を飛び出した、俗物的な「はぐれエルフ」たちの集落だったのだ。
彼らはエルフのブランドを利用して、人間に粗悪品を高く売りつけていたのである。
「里を出て何をしているかと思えば……こんな恥晒しな真似を。世界樹が嘆くぞ」
「ひぃぃッ! お、お許しを! 生活のために仕方なく……!」
「言い訳無用。……それに、お前たちは誰に口を利いているか分かっているのか?」
プリムローズは、呆れた顔で俺を指差した。
「このお方は、死にかけていた『世界樹』を蘇らせ、私を従えた主。稀代の錬金術師、クロウ様だぞ」
――時が止まった。
「え……せ、世界樹様を……?」
「そ、それに、伝説の大賢者様が『主』と呼ぶ……!?」
主人はガタガタと震え出し、次いで顔面蒼白になってその場に土下座した。
「し、知らなかったとはいえ、とんだご無礼をォォォッ!!」
「も、申し訳ございません! まさか救世主様とは露知らず!!」
廊下で聞き耳を立てていた従業員たちも、雪崩を打って部屋に入ってきて平伏する。
エルフにとって世界樹は神。それを救った俺は、彼らにとって国王以上の存在だ。
「ど、どうかお慈悲を! 今すぐ最高のおもてなしをさせていただきます!」
「代金もお返しします! いや、村の全財産を差し上げますので、どうか天罰だけは……!」
完全に形勢逆転だ。
さっきまでの傲慢さはどこへやら、彼らは額を床に擦り付けて許しを乞うている。
「……はぁ。金はいらんよ」
俺は呆れてため息をついた。
「ただ、俺は『まともな飯』と『清潔なベッド』が欲しいだけだ。……できるな?」
「は、はいぃぃッ!! 直ちに!!」
◇
それからの彼らの動きは早かった。
冷めたスープは即座に下げられ、代わりに焼きたての極上肉(彼らの隠し財産)や、新鮮な果物が並べられた。
シーツは新品の最高級リネンに取り替えられ、風呂にはアロマが焚かれた。
「どうぞ! こちら、当村一番の秘蔵酒でございます!」
「肩をお揉みしましょうか!? 靴をお磨きしましょうか!?」
過剰なまでの接待。
俺たちは苦笑しながらも、ようやくまともな休息にありついた。
「やれやれ。最初からこうしていればいいものを」
「まったくだな。……だがまあ、悪くない夜にはなったか」
俺はグラスを傾けた。
窓の外では、俺の機嫌を損ねないよう、村人たちが必死に村中の掃除をしている姿が見える。
ボッタクリ村での一幕。
これもまた、有名税というやつかもしれない。
翌朝、俺たちは村人全員の最敬礼に見送られ、大量の「お詫びの品(貢物)」を荷台に積んで、再び海への旅路につくのだった。
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