第35話 虹色の雨と、世界樹の目覚め ~さあ、手術(オペ)の時間だ~
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賢者のラボ、最深部。
俺たちは再び、天井を突き破る巨大な世界樹の主根の前に立っていた。
相変わらず、根の表面はドス黒い粘液で覆われ、不気味に脈打っている。
だが、今の俺たちに焦りはない。
「……準備はいいか、ちびっ子たち」
俺が手に持ったフラスコ――虹色の気体が揺らめく『精霊感応薬』を見つめる。
その周りには、数十匹の小さな精霊たちが、期待に満ちた様子で飛び回っていた。
「ピピッ! (任せろ!)」
「クルル! (終わったらまたおにぎりな!)」
彼らはやる気満々だ。現金な奴らだが、これほど頼もしい助っ人はいない。
「サフィ、全センサー開放。ミクロ単位の変化も見逃すな」
「了解。……演算リソース、フル稼働。いつでもいけます」
「ゴルド、ルビィ。奴が暴れたら物理的に押さえ込め」
「御意!」「はーい!」
「ダイヤ、余計な粘液が出たら焼き払え」
「お任せくださいまし」
全員の配置完了。
俺はプリムローズを見た。彼女は祈るように、胸の前で手を組んでいる。
「……頼む、クロウ。あの子を……世界樹を救ってくれ」
「ああ。任せておけ」
俺はフラスコの栓を抜き、高らかに宣言した。
「――オペレーション・スタート!!」
◇
俺がフラスコを振るうと、虹色の気体がふわりと舞い上がった。
精霊たちが一斉にその気体に飛び込み、それぞれの体に「薬効」を纏う。
そして、流星群のように世界樹の根へと突撃した。
ヒュンヒュンヒュンッ……!!
精霊たちは、ドス黒い粘液も、分厚い樹皮も、硬い細胞壁も、全てを幽霊のようにすり抜けていく。
物理的な防御は一切意味をなさない。彼らは「概念」として、病巣の深部へと侵入した。
――数秒後。
ギギギ……ギャアアァァァァッ!!!
世界樹の内部から、耳をつんざくような「断末魔」が響いた。
物理的な声ではない。魔力の波長が悲鳴を上げているのだ。
「反応あり! ウイルスがパニックを起こしています!」
「そりゃそうだろうな。壁を閉じて引きこもっていたら、壁をすり抜けて爆弾が降ってきたんだからな!」
ドォォン!!
世界樹の根が激しく痙攣し、表面の粘液が爆発したように飛び散った。
苦し紛れの反撃。黒い泥が触手となって俺たちに襲いかかる。
「暴れるな! 往生際が悪いぞ!」
ゴルドとルビィが前に出て、暴れる根をガシリと押さえ込む。
「汚らわしいですわ!」
ダイヤが熱線を乱射し、飛んでくる泥を空中で蒸発させる。
その間にも、精霊たちは内部で仕事を続けていた。
サフィが展開したホログラムモニターには、体内の様子が映し出されている。
黒く塗りつぶされていた細胞核に、虹色の光(精霊)が取り付き、優しく抱きしめる。
すると、強固な耐性を持っていたはずのウイルスが、雪解けのように浄化されていく。
『バ、バカナ……! ナゼダ……! 我ガ防御ハ完璧ナハズ……!』
脳内に、病魔の悪意ある声が響いた。
「残念だったな」
俺はモニター越しに、見えない敵へ告げた。
「お前は『物質』に対しては無敵だった。だが、今回使ったのは『想い』と『魔力』だ。……物理法則の通じない相手に、耐性なんて作れるわけないだろう?」
それが、エルフの「調和」と、俺の「錬金術」が出した答えだ。
「さあ、チェックメイトだ。消えろ、悪夢!」
俺が魔力を送り込むと、内部の精霊たちが一斉に輝きを増した。
共鳴、最大出力。
カァァァァァッ……!!
世界樹の根元から、目も眩むような虹色の光が噴き出した。
その光はラボの天井を突き抜け、樹の幹を駆け上がり、遥か上空の枝葉にまで到達した。
黒い粘液が、光に触れて金色の粒子へと変わっていく。
腐臭が消え、代わりに濃厚な花の香りが満ちる。
そして――。
光が収まった時。
そこに立っていたのは、ドス黒い病巣の塊ではなく、美しい白銀の樹皮と、エメラルドグリーンの脈動を取り戻した、神々しい『世界樹』の姿だった。
「……数値オールグリーン。ウイルス反応、完全消滅。……バイタル、安定しています」
サフィの報告が、静寂の中に響いた。
「……治った……のか?」
プリムローズが震える足で歩み寄り、恐る恐る樹皮に触れる。
返ってきたのは、悲鳴ではなく、温かく力強い生命の鼓動。
「ああ……ああぁ……!」
彼女はその場に崩れ落ち、大粒の涙を流した。
「よかった……! 長かった……! ごめんなさい、ずっと痛かったわよね……!」
数百年。
たった一人で、終わりのない看病を続けてきた彼女の肩が震えている。
その背中に、天上から一枚の葉がひらりと舞い落ちた。
枯れ葉ではない。瑞々しい、新緑の葉だ。
それはまるで、世界樹が彼女の頭を撫でて、「ありがとう」と言っているようだった。
「……いい画だ」
俺は白衣の埃を払い、大きく息を吐いた。
「ミッション・コンプリートだな。……さて、ちびっ子たち。約束のおにぎりパーティーといこうか!」
「ピピーッ!!」
役目を終えた精霊たちが、歓声を上げて俺の周りに集まってくる。
こうして、エルフの森を蝕んでいた長い悪夢は、虹色の光と共に幕を下ろしたのだった。
◇
その後。
ラボの管理権限譲渡手続き(という名の宴会)が行われた。
「……クロウ。いや、マスター」
涙を拭い、いつもの分厚い眼鏡をかけ直したプリムローズが、俺の前に跪いた。
「貴方は世界樹を救い、私の数百年の悲願を叶えてくれた。……この『第4錬金術研究所』、および管理者プリムローズは、これより貴方の指揮下に入る」
彼女は白衣の裾を翻し、誓いを立てた。
「私の持つ全ての知識、全ての種子、そしてこの身……好きに使ってくれ。煮るなり焼くなり、実験台にするなりな」
「実験台にはしないさ。……ただ、これからはもっと『外』に出てもらうぞ?」
「外?」
「ああ。世界樹も治ったんだ。これからは俺たちと一緒に、世界中の美味いもんを探しに行こうぜ」
俺が手を差し伸べると、プリムローズは少し驚いた顔をして、それからニッと笑った。
「……フン。悪くない提案だ。ただし、食事の質が落ちたらストライキするからな」
こうして、5人目の仲間――植物と薬学のスペシャリスト『プリムローズ』が加わった。
* 新戦力:プリムローズ(回復・バフ・植物操作)
* 新拠点:エルフのラボ(薬草園・遺伝子ライブラリ)
* 獲得技術:『精霊錬金術』『生命操作』
アミィ(回避)、サフィ(解析)、ルビィ(物理)、ゴルド(盾)、ダイヤ(火力)。
そこにプリムローズ(回復)が加わり、俺のパーティーは「完全無欠」となった。
「お兄ちゃん! 今夜はお祝いだね! 何食べるのー!?」
「そうだな……。世界樹復活記念だ。とびきりの『ちらし寿司』でも作るか!」
「わーい!!」
エルフの里に、新たな伝説と、食欲をそそる酢飯の香りが広がっていく。
俺たちの旅は、まだまだ終わらない。
(※ちなみに、里の長老は「ワシも連れて行け!」と騒いだが、里の仕事があるので泣く泣く留守番となった)
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