第29話 調和のスープと、拒絶する枯葉 ~「足し算」だけでは、命は救えない~
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本日20:30より、完全新作の連載をスタートします!
タイトル:『火力不足』と追放された最速の剣士、落ちこぼれパーティーの【最適解】となる。
「俺TUEEE」ではなく、不揃いなメンバーが理屈と戦術で「特化型パーティー」を組み上げ、迷宮を蹂躙していく成り上がりファンタジーです。
こちらも絶対に熱い展開をお約束しますので、ぜひ第1話を覗いてみてください!
森の奥深く、賢者のラボの前。
俺が作った『黄金と緑の狂想曲』の匂いに釣られ、引きこもりの管理者、プリムローズがついに姿を現した。
ボサボサの緑髪に、分厚い眼鏡。
サイズの合わない白衣を引きずりながら、彼女は俺の前に座り、ステーキを静かに平らげた。
「……ごちそうさま。非常に効率的な栄養補給だった。味覚センサーも『至福』と判定している」
彼女はナプキンで口元を拭うと、眼鏡の位置をクイッと直し、凛とした声で言った。
「だが、勘違いするなよ、人間。餌付けされたからといって、尻尾を振ると思ったら大間違いだ」
「へぇ。随分と可愛くない猫だな」
「当然だ。私はこのラボの管理者。私の使命は『資格なき者』を排除することだ」
プリムローズは冷徹に言い放った。
タダ飯を食っておいて厚かましいが、その瞳には確固たる信念が宿っている。
「それに、お前の料理……確かに美味いが、『雑音』が多い」
「雑音だと?」
俺は眉をひそめた。最高の素材と、計算し尽くされたソースだぞ?
「証明してやろう。……ついて来い」
プリムローズが指を鳴らすと、地面から蔦が伸び、テーブルの上に一つの木製の器を作り出した。
彼女はその中に、周囲に生えている何の変哲もない「透明な果実」と「朝露」、そして一摘みの「ハーブ」を入れた。
調理らしい調理はしていない。ただ入れただけだ。
「飲んでみろ。これがエルフの『調和』だ」
俺は半信半疑で、そのスープを口に運んだ。
見た目はただの水だ。しかし――。
――スッ……。
「……ッ!?」
衝撃が走った。
味が「ある」のに、重さが「ない」。
果実の酸味、水の甘み、ハーブの香りが、口の中で完全に溶け合い、一つの新しい生命になったかのような感覚。
俺の料理が「強い音を重ねたオーケストラ」だとしたら、これは「静寂の中に響く完全な和音」だ。
「美味い……いや、美しい……」
「分かったか? お前の錬金術は、素材を無理やり従わせているだけだ。それでは、この先にある『生命の神秘』には触れられない」
プリムローズは勝ち誇るでもなく、淡々と事実を告げた。
悔しいが、完敗だ。俺はまだ、錬金術の深淵を理解していなかったらしい。
◇
「さて、テストだ。錬金術師を名乗るなら、その技術でこれに挑んでみろ」
プリムローズが懐から取り出したのは、一枚の「枯れた葉」だった。
どす黒い紫色の斑点が浮かび、触れるだけで指が腐り落ちそうな瘴気を放っている。
「これは『世界樹』の枝から採取したサンプルだ。ここ数百年、謎の病に侵され、あらゆる薬を受け付けない」
彼女の表情が曇る。
「私は数百通りの投薬を試したが、全て拒絶された。……この葉を『治療』してみせろ。それができれば、ラボへの入室を許可する」
「なるほど。治療薬の作成か」
俺は即座に『簡易錬金キット』を展開した。
サフィの解析によれば、これは強力な「魔力喰いウイルス」。
なら、さらに強い薬効でねじ伏せればいい。
「見てろ。俺の全技術を注ぎ込んでやる」
俺は道中で採取した『月光の雫』や『吸血蝶の鱗粉』など、最高級の素材を惜しみなく投入した。
ダイヤの熱操作で完璧に精製し、俺の魔力で合成する。
「完成だ! 『特級万能エリクサー・改』!」
黄金に輝く液体。これなら死者すら蘇るレベルだ。
俺は自信満々に、その一滴を枯葉に垂らした。
――ジュッ!
その瞬間、葉が痙攣したように震え、黒い斑点がさらに広がった。
「な……っ!?」
「無駄だ。言っただろう? 『無理やり従わせる』やり方では、拒絶されると」
プリムローズが冷ややかに告げる。
俺のエリクサーは完璧なはずだ。だが、葉(患者)の方が、その強すぎる魔力に耐えられず、逆に死滅しようとしている。
これでは治療ではなく、攻撃だ。
「くそっ……! どうすればいい……!」
俺は焦った。額に汗が滲む。
薬を薄めるか? いや、それではウイルスに勝てない。
成分を変えるか? いや、これ以上の素材はない。
――『お前の料理は雑音が多い』
プリムローズの言葉が脳裏をよぎる。
そして、さっき飲んだ「調和のスープ」の味が蘇る。
(……そうか。俺は『治そう』として、自分の魔力を押し付けていただけだ)
必要なのは、俺の力を誇示することじゃない。
葉自身の「生きたい」という微かな声を聞き、それに寄り添うことだ。
「……サフィ、計算をやめろ。ダイヤ、加熱も中止だ」
「マスター? よろしいのですか?」
「ああ。ここからは、俺の手作業だ」
俺は深呼吸をして、錬金釜の前に座り込んだ。
魔力を極限まで絞り、糸のように細くする。
使う素材も、強力な『月光の雫』ではなく、森のどこにでもある『朝露』と、ありふれた『薬草の根』だけに絞った。
混ぜるのではない。馴染ませる。
俺の魔力で、素材同士の手を繋がせ、葉の細胞に「思い出させる」のだ。本来の生命力を。
一時間。二時間。
俺は汗だくになりながら、ただひたすらに、地味で繊細な魔力操作を続けた。
ルビィが心配そうに覗き込み、アミィが汗を拭いてくれる。
「……できた」
完成したのは、黄金に輝く薬ではない。
ただの、どこにでもあるような「透明な水」だった。
「……ふぅ」
俺は震える手で、その水を枯葉に垂らした。
反応はない。
失敗か?
いや――数秒後。
スゥ……と、黒い斑点が霧のように消えていった。
そして、葉脈に鮮やかな翠緑色が戻り、小さく脈動を始めた。
爆発的な回復ではない。ゆっくりとした、自然な治癒だ。
「……やった……」
俺はその場にへたり込んだ。
派手な魔法を使うよりも、数倍疲れた。
「……合格だ」
頭上から声が降ってきた。
見上げると、プリムローズが驚きと、そして微かな感動を浮かべて俺を見ていた。
「驚いた。人間が、これほど短時間でエルフの『調和』の概念を理解するとはな」
「……へへっ。あのスープのおかげだよ。あれがなきゃ、俺は一生『足し算』のままだった」
「フン。分かっているじゃないか」
彼女は口元を少し緩めると、ラボの扉に手をかざした。
ギギギ……。
重厚な扉が開き、中から清浄な空気が流れ出してくる。
「入れ、新たなマスターよ。……ここには、貴方の求めている『技術』があるはずだ」
俺たちは顔を見合わせた。
ただの力押しでは開かなかった扉。
それを開けたのは、料理から学んだ「謙虚さ」と「調和」の心だった。
俺は立ち上がり、埃を払った。
錬金術師として、また一つレベルが上がった気がする。
「よし、行こう! 待たせたな、賢者の遺産!」
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