第27話 極彩色の秘境と、錬金術師の夏休み ~その花は猛毒、その虫は宝石~
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豪快な長老ゼルコバに見送られ、俺たちは「引きこもりの賢者」が住むというラボへ向けて出発した。
場所は、里のさらに奥。
数千年間、人の手が入っていない『深緑の聖域』だ。
「……すげぇ」
足を踏み入れた瞬間、俺は息を呑んだ。
そこは、この世のものとは思えない色彩に満ちていた。
太陽の光を浴びて七色に輝く苔。
自分の背丈よりも巨大な、ガラス細工のような透明な花。
そして、空気を震わせる濃厚な魔素の香り。
「ご主人様、綺麗なお花畑ですわね! まるで宝石箱みたい!」
「ああ、宝石箱どころじゃないぞアミィ。……見てみろ、あれ」
俺は震える指で、足元に咲く一輪の青い花を指差した。
「あれは『月光の雫』だ。図鑑でしか見たことない幻の花だぞ!? 花弁一枚で『万能解毒薬』が100本作れる!」
「まあ! そんなに貴重なものですの?」
「ああ。市場に出れば、一輪で城が買えるレベルだ」
俺の『鑑定眼』が、視界の端から端まで「Sランク素材」「国宝級」「測定不能」の文字で埋め尽くされている。
錬金術師として、興奮で脳汁が出そうだ。
「サフィ! 採取だ! 根を傷つけないように、魔力ごっそり保存するぞ!」
「了解。……真空パックおよび冷凍保存プロセス、起動。マスター、収納スペースが足りません」
「ゴルドに持たせろ! 帰りの荷物は考えなくていい!」
俺は子供のように目を輝かせ、稀少な薬草や毒草を次々と採取していった。
ここにあるものだけで、俺はどんな病気も治せるし、逆にどんな猛毒も作れるだろう。
◇
一方で、もう一人、目を輝かせている「子供」がいた。
「お兄ちゃん見て見てー! すごいのがいたよー!」
ルビィが茂みから飛び出してきた。その手には、バレーボールほどもある巨大な甲虫が掴まれている。
その甲殻は、ダイヤモンドのように透き通り、虹色にギラギラと輝いていた。
「うおっ!? なんだその虫!?」
「『キラキラ・クワガタ』だよ! すっごい力持ちなの!」
ルビィが自慢げに見せるクワガタは、必死にルビィの指を挟もうとしているが、彼女の装甲(肌)が硬すぎてビクともしていない。
「……鑑定。『アダマン・スタッグビートル』。外殻硬度はオリハルコン並み。顎の力は鉄骨を切断する……」
俺は冷や汗をかいた。
普通なら遭遇した時点で即死級のモンスターだ。
だが、ルビィにとっては「ちょっと元気な虫さん」らしい。
「いいなぁ。その甲殻、粉末にすれば最強の研磨剤になるんだが……」
「だーめ! この子は私のペットにするの! 名前は『ツノ丸』!」
「ペ、ペットか……。まあ、ルビィが懐いてるならいいか」
最強の少女と、最強の昆虫。
ある意味、お似合いのコンビかもしれない。
◇
その後も、俺たちの「ピクニック」は続いた。
ダイヤは優雅に日傘を差しながら、襲ってくる『吸血蝶』を熱線で焼き払い、
「あら、焦げてしまいましたわ。綺麗な羽でしたのに」と残念がり、
サフィは新種の植物データを高速で記録し、
ゴルドは背中に山盛りの薬草と、ルビィが捕まえた虫かご(結界で作った檻)を背負わされ、
俺は、見たこともない『歌うキノコ』を見つけて大はしゃぎしていた。
「見てくれ! このキノコ、魔力を流すとドレミの音階で鳴くぞ!」
「面白いですわね。スープに入れたら賑やかになりそうです」
「分析。……食用不適。食べると三日間、笑いが止まらなくなる神経毒を含有しています」
危険と隣り合わせの美しさ。
毒と薬は紙一重。
まさに錬金術師のための楽園だ。
「……ふぅ。満足だ」
数時間後。
俺たちはパンパンに膨れ上がったアイテムボックスと、泥だらけ(ダイヤ以外)になった服で、森の最深部に辿り着いた。
そこには、巨大な樹洞を利用して作られた、古びた扉があった。
扉は蔦に覆われ、取っ手には錆が浮いている。
そして、扉の前には乱雑な文字でこう書かれた看板が立っていた。
『面会謝絶。勧誘お断り。置いていくなら食料か本だけにしてください』
「……ここだな」
俺は苦笑した。
美しい森の奥にひっそりと佇む、引きこもりの聖域。
どうやらこの扉の向こうに、植物と薬学を極めた「4人目の賢者(の遺産)」がいるようだ。
「さて、ルビィ。その『ツノ丸』をカゴに入れて、挨拶に行こうか」
「はーい! ツノ丸も挨拶するって!」
俺たちは「お宝」を抱え、その閉ざされた扉をノックした。
中から返事は……ない。
だが、俺には分かっていた。
これだけの素材に囲まれて暮らす錬金術師(薬師)が、俺たちの持っている「外の世界の知識」と「美味い飯」に興味を持たないはずがない、と。
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