第26話 究極の素材と、至高の調理 ~エルフのサラダは、三ツ星の味がする~
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豪快な長老ゼルコバの一声で、俺たちへの「冤罪」は晴れ、歓迎の宴が開かれることになった。
場所は世界樹のテラス。月明かりの下、エルフたちが次々と料理を運んでくる。
「さあ、食え人間! これが我が里の誇る『森の恵み』じゃ!」
目の前に並べられたのは、一見するとシンプルな料理ばかりだった。
瑞々しい野菜のサラダ、木の実の盛り合わせ、そして透明なスープ。
肉や魚は見当たらない。
「(……やっぱり、草料理か)」
俺は内心で少し落胆しかけた。
いくら歓迎と言っても、俺の舌は『黄金火猪のベーコン』や『霜降り牛』を知ってしまっている。
だが、出されたものを無下にはできない。俺はフォークで、透き通るような緑色の葉野菜を口に運んだ。
――シャクッ。
「……ッ!?」
噛んだ瞬間、俺の目がカッと見開かれた。
「な、なんだこれは……!?」
ドレッシングなど掛かっていないはずなのに、濃厚な旨味と、果物のような甘みが口の中で爆発した。
青臭さは微塵もない。ただひたすらに、細胞の一つ一つが「美味い水」で満たされているような感覚。
「分析。……この野菜、糖度が20度を超えています。さらに、土壌のミネラルバランスが完璧に管理されています」
「美味しいですわ……! 何の味付けもしていないのに、極上のソースが掛かっているようです!」
サフィとアミィも驚愕している。
「ガハハハ! 驚いたか!」
ゼルコバ長老が得意げに笑う。
「我らエルフは、野菜と対話する。どの瞬間に収穫すれば一番美味いか、どの朝露で洗えば香りが立つか。数百年かけて研究し尽くした『究極の素材』じゃ。焼いたり煮たりして誤魔化す必要などない!」
「……参ったな。俺が間違っていた」
俺は素直に脱帽した。
これは「手抜き」ではない。「引き算の美学」だ。
錬金術で味を足すことばかり考えていた俺にとって、この「素材そのものの暴力的な美味さ」は衝撃だった。
◇
「さて、次はお主の番じゃぞ、クロウ! ワシらを唸らせるもんを出してみせろ!」
長老が身を乗り出す。周囲のエルフたちも、興味津々といった様子だ。
彼らの「究極の自然食」に対し、俺が出すべき答えは一つ。
「計算され尽くした調理」だ。
「いいだろう。エルフの食材に敬意を表して、俺のとっておきを合わせよう」
俺はアイテムボックスから、火山の森で仕留めた『黄金火猪の燻製肉』を取り出した。
それを薄くスライスし、強火でサッと炙る。
そこへ、俺が調合した『特製ハニーマスタードソース』を回し掛けた。
「さあ、食べてみてくれ。名付けて『黄金と緑の狂想曲』だ」
エルフたちがざわつく。
彼らにとって、肉料理、しかも香辛料を使った濃厚な味付けは未知の領域だ。
長老がおそるおそる、炙られた肉を野菜で包んで口に入れた。
「……むっ、むぐ……」
長老の動きが止まる。
そして次の瞬間、カッと目を見開いた。
「なんじゃこりゃァァァ!!」
本日二度目の咆哮。
「脂の甘みが! スパイスの刺激が! 口の中で暴れ回っておる! なのに、野菜の清涼感がそれを包み込んで……くどくない! 幾らでも入るぞ!」
「本当だ……! お肉ってこんなに美味しいの!?」
「この黄色いソース、ピリッとするけど甘くて、癖になるわ!」
エルフたちが次々と肉に手を伸ばす。
彼らの知る「肉」とは、獣臭くて硬いものだったのだろう。
だが、俺の肉は下処理と熟成、そして錬金術による味の構築がなされている。
「野菜の水分が、肉の脂を中和する。……完璧なマリアージュだ」
「ふふ、ご主人様の料理は世界一ですもの。エルフの方々にも気に入っていただけて何よりですわ」
ダイヤが優雅に紅茶(エルフ秘蔵の茶葉)を淹れ、アミィがデザートの準備をする。
互いの文化が、テーブルの上で混ざり合い、新たな「美食」を生み出していく。
「ガハハハ! 気に入ったぞクロウ! お主のその『錬金術』とやら、ただ金を作るだけのゲスな術だと思っておったが……こんなに美味いもんが作れるなら、立派な魔法じゃ!」
長老は上機嫌でワインを煽った。
「そりゃどうも。……で、そろそろ教えてくれないか?」
宴もたけなわ。
俺は切り出した。
「この森にあるはずの、『賢者のラボ』の場所を」
その瞬間、長老の手が止まった。
周囲のエルフたちも、少しだけ表情を曇らせる。
「……ふむ。やはり、それが目的か」
長老は真剣な眼差し――先ほど俺を見定めた、あの賢者の眼で俺を見つめた。
「悪いが、あそこは今、『何人たりとも立ち入れぬ』状態になっておる」
「立ち入れない? 封印でもされているのか?」
「いや。……ラボの管理者がな、『引きこもって』しまったのじゃ」
「は?」
引きこもり?
古代の賢者の遺産であるオートマタが?
「あやつは、エルフの始祖が作った最高傑作の『薬師』じゃが……極度の人嫌いでな。数百年前に扉を閉ざして以来、ワシらですら顔を見ておらん」
「……なるほど。偏屈なドワーフの次は、引きこもりのエルフか」
俺は苦笑した。
一筋縄ではいかないが、面白くなってきた。
「分かった。その引きこもりの扉、俺がこじ開けてみせよう」
「ほう? できるか?」
「ああ。俺には最高の仲間と……何より、あんたをも唸らせた『美味しいお菓子』があるからな」
俺はニヤリと笑った。
武力でも魔力でもなく、「餌付け」で攻略する。
それが俺流のダンジョン攻略だ。
その横で、嘘をついた罰として「おやつ抜き」を言い渡され、一人だけ指をくわえて宴を見ていたリリアが、「ぐぬぬ……」と悔し涙を流していたのは、また別の話である。
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