第25話 エルフの里の豪傑長老 ~その眼は、全てを見通す~
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
冤罪によって「幼女誘拐未遂犯」として捕縛された俺たちは、エルフの警備隊に囲まれ、森の最深部にある集落へと連行された。
そこは、巨大な木々の枝に住居が作られた、幻想的な空中都市だった。
美しい。だが、俺たちの周りには槍を持ったエルフたちが殺気立って並んでおり、観光気分にはなれない。
「歩け! 長老様がお待ちだ!」
「分かってるよ。押すな」
俺たちは、集落の中央にそびえ立つ、ひときわ巨大な「世界樹」の根元にある広間へと通された。
◇
広間の最奥。
豪奢な木の玉座に座っていたのは、俺が想像していた「枯れ木のような賢者」ではなかった。
「……ほう。こやつらか」
低く、地響きのような声が響いた。
そこにいたのは、丸太のような太い腕と、岩盤のように厚い胸板を誇る、筋骨隆々の老エルフだった。
白髪こそ長いが、その肌は艶やかで、生命力の塊のようだ。
「長老様! 侵入者を連行しました!」
警備隊長のリード(リリアの兄)が、俺を地面に座らせて報告する。
「こやつらは結界を破壊し、あまつさえ我が妹リリアを甘味で釣り、拉致しようとしました! 極めて危険な人身売買組織と思われます!」
隊長の報告を聞きながら、長老――名はゼルコバ――は、ゆっくりと玉座から立ち上がった。
その瞬間、広間の空気がズシリと重くなった。
「……騒ぐな、リード」
ゼルコバ長老は、俺たちの前まで歩み寄ると、腕を組んで仁王立ちになった。
そして、その鋭い金色の瞳を細め、俺たちをじろりと舐め回すように見下ろした。
――ぞくり。
背筋に冷たいものが走る。
ただ見ているのではない。「解剖」されているような感覚だ。
長老の視線は、まず俺の顔で止まった。
恐怖に怯えることも、悪意に歪むこともない、俺の瞳を覗き込む。
次に、俺が纏っている『フェンリルの白衣』へ。その素材の希少性と、付与された魔力回路を一瞬で理解したような目つき。
そして、視線は背後のアミィたちへ移る。
「洗脳された奴隷」という報告とは裏腹に、傷一つなく、手入れが行き届いた肌艶。そして何より、主人である俺を見る、信頼に満ちた眼差し。
最後に、ゴルドへ。
その深紅の装甲の下にある『星核鉄』と『オリハルコン』の輝きを、長老の眼は見逃さなかった。
「……ふん」
一通りの観察を終え、長老は鼻を鳴らした。
そのたった数秒の間に、彼は俺たちの「格」と「関係性」を全て見抜いたようだった。
「……おい、リリアよ」
「は、はい……長老さま……」
隊長の陰に隠れていたリリアが、おずおずと顔を出す。
ゼルコバ長老は、リリアを見下ろし、静かに、しかし絶対的な威圧感を込めて問いかけた。
「こやつは、本当に『無理やり』お主を連れ去ろうとしたのか?」
「う、うん……! 怖かったの! お菓子あげるから来いって、腕を引っ張って……」
リリアは涙目で(演技で)訴える。
だが、長老の眼光は揺らがない。
「そうか。……なら、その手に持っている『証拠品』を貸してみろ」
「えっ? あ、うん。これ……」
リリアがポケットから出したのは、俺があげた『ドワーフの蜂蜜キャンディ』の包み紙と、まだ半分残っている飴玉だった。
長老はひょいと飴玉をつまみ上げると、再び俺を見た。
その目には、先程までの鋭さはなく、どこか楽しげな色が宿っていた。
「……なるほどな。こんな『上等な』装備と、『誇り高い』従者を持つ男が、薄汚れたガキ一人を攫うために、こんな手の込んだ真似をするか」
長老はそう呟くと、飴玉を自分の口に放り込んだ。
「ちょっ、長老様!? それは毒が……!」
「ガリッ! ……ボリボリ」
豪快に飴を噛み砕く音。
数秒の沈黙の後――。
「美味ァァァァァいッ!!」
ドォォォン!!
長老の咆哮で、広間の窓ガラスがビリビリと震えた。
「濃厚な蜂蜜の香りと、焦がしバターの風味! 何より、混ぜ物の一切ない純粋な魔力! これは一流の錬金術師の仕事じゃ!」
「は、はぁ……?」
「よいか、リードよ! お主の眼は節穴か!」
長老が一喝した。
「この男の装備を見よ! 伝説級の素材じゃ! 従者たちを見よ! 奴隷の目をしておるか!? これは『王』と『騎士』の絆じゃ!」
「し、しかしリリアが……」
「リリア! お主、まだ口元が緩んでおるぞ。本当に怖かったのなら、そんなに名残惜しそうに飴の袋を握りしめん!」
長老の指摘に、リリアはハッとして自分の手を見た。
無意識のうちに、キャンディの空き袋を大事そうに握りしめていたのだ。
「……ヒッ」
「全てお見通しじゃ。……人間の、縄を解いてやれ」
長老が指を鳴らすと、渋々といった様子で隊長が俺の拘束を解いた。
「すまなんだな、人間。我らは森に引きこもっているゆえ、部下たちは『本物』を見る目が養われておらんのじゃ」
ゼルコバ長老は、ニカリと笑って俺の肩を叩いた。
その笑顔は豪快だが、その奥にある瞳は、やはり理知的な光を放っていた。
「ワシの名はゼルコバ。……クロウと言ったな。その白衣、そしてその赤いゴーレム。ただの旅人ではあるまい?」
「ああ。錬金術師だ。……あんたの慧眼には恐れ入ったよ」
俺は手首をさすりながら、長老を見返した。
ただの筋肉ダルマじゃない。
一瞬で俺たちの装備の価値を見抜き、リリアの些細な仕草から嘘を見破った。
この爺さん、タヌキだ。いや、古強者のエルフだ。
「ガハハ! 褒めても何も出んぞ! ……いや、出すべきはそっちじゃな!」
長老は俺の胸ぐらを掴み、顔を近づけた。
「その『蜂蜜キャンディ』! まだ持っておるな? 全部出せ! それが『入国税』じゃ!」
「……やれやれ。食いしん坊な賢者様だ」
俺は苦笑いした。
どうやら、最大の危機は「観察眼」と「食欲」によって回避されたようだ。
「いいだろう。キャンディだけじゃない。極上の肉も酒もあるぞ」
「なに!? 肉だと!?」
「今夜は宴だ、長老。俺たちの潔白を、胃袋で証明してやるよ」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも「面白かった!」「スカッとした!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、
ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆の爆発的なエネルギーになります!
ブックマークへのご登録も、ぜひよろしくお願いいたします!
それでは、次回もどうぞお楽しみに!




