第23話 深緑の迷路と、賢者を嗤う白フクロウ ~考えすぎるとドツボにハマる~
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『翠緑の樹海』に足を踏み入れた俺たちは、早速エルフの洗礼を受けていた。
『迷いの森』。
どこまで進んでも同じ景色、同じ巨木、同じY字路が続く、天然の迷宮だ。
「……まただ。この『苔むした岩』を見るのは7回目だぞ」
俺はビークルを止め、ハンドルに突っ伏した。
サフィのGPSもコンパスも役に立たない。魔力探知も、森全体が魔力を帯びているため乱反射して使い物にならなかった。
「分析。……この分岐路には法則性があります。過去のデータに基づくと、フィボナッチ数列、あるいは黄金比に基づくルート選択が必要かと」
「なるほど。エルフは数学に長けているからな。よし、次は『右、左、右、右、左』の順で進んでみよう」
俺とサフィは複雑な計算式を地面に書き、論理的にルートを導き出した。
しかし――。
数十分後。俺たちはまたしても『苔むした岩』の前に戻ってきていた。
「クソッ! どうなってるんだ! 数式は完璧だったはずだぞ!」
「再計算……。変数が足りません。風向き? 湿度? それとも星の位置?」
俺たちが頭を抱えていると、後部座席で退屈そうにしていたルビィが、あくびを噛み殺しながら窓の外を指差した。
「ねえお兄ちゃん。あっちに行こうよ」
「あっち? なんでだ? そっちは道が細くて獣道みたいだぞ」
「だって、お花がそっち向いてるもん」
ルビィが指したのは、足元に咲いている小さな白い花だった。
よく見ると、他の花はバラバラな方向を向いているが、この種類の花だけは、なぜか一斉に「細い獣道」の方角へ首を傾げている。
「お花さんはお日様が好きでしょ? 森の出口はお日様がいっぱいあるから、そっちを向いてるんだよ!」
「……!」
俺はハッとした。
高度な数学でも、魔力探知でもない。
ただの「植物の走光性」。自然と共に生きるエルフなら、こんなの常識だ。
「……盲点だった。俺たちは難しく考えすぎていたのか」
俺たちはルビィの直感に従い、花の向く方へとビークルを進めた。
すると、今まで抜け出せなかったループがあっさりと解け、開けた空間へと出ることができた。
◇
だが、安堵したのも束の間。
ビークルの前に、今度は物理的な衝撃が走った。
ガインッ!!
「ぬぉっ!? 我ガ主ヨ! 今度ハ『見エナイ壁』デス!」
ゴルドが何もない空間を叩く。そこには透明で強固な障壁が立ちはだかっていた。
すると、頭上から聞き覚えのある鳴き声が降ってきた。
『ホー。よくぞ迷路を抜けた。だが、ここから先は「真の叡智」を持つ者しか通れぬ』
枝の上に、一羽の白フクロウが止まっていた。
金色の瞳で俺たちを見下ろし、インテリぶった口調で語りかけてくる。
『我は知識の番人。我が問いに答えよ。さすれば壁は消えん』
「出たな、なぞなぞか。……いいだろう、受けて立つ」
俺は眼鏡(伊達ではないが)の位置を直し、サフィも臨戦態勢に入った。
さっきはルビィに助けられたが、知恵比べなら俺たちの独壇場だ。
『では問おう。』
フクロウが翼を広げ、勿体ぶって問いかけた。
『「食事を与えれば生き、水を飲ませれば死ぬもの」。それはなーんだ?』
……なんだ、簡単すぎる。
俺は即座に思考を回転させた。
食事(燃料)で活性化し、水(冷却・窒息)で活動を停止するもの。
化学反応の観点から言えば、それは「急激な酸化反応」だ。しかし、エルフの哲学的な問いだ。もっと深遠な意味があるはずだ。
「ふむ……。それは『欲望』か? 欲望は糧を得れば増長するが、冷静さ(水)を与えれば鎮火する」
『……は?』
「あるいは『文明』か? 資源を食らい発展するが、大洪水(水)には勝てない」
「推測。『有機化学エンジン』の可能性も。燃料で稼働し、水没すれば故障します」
俺とサフィが次々と高尚な回答を繰り出す。
フクロウは目を白黒させ、首を傾げた。
『い、いや……お主ら、何を言っておるのじゃ? もっとこう、単純な……』
「単純? ならば『恒星(太陽)』か? 核融合は燃料で輝くが、質量によっては水で……いや、水程度では消えんか」
『違う! 全然違う! なぜそう捻くれるのじゃ!』
フクロウがイライラし始めた時、横で聞いていたルビィが、不思議そうに手を挙げた。
「えー? なんでわかんないの? 『火』でしょ?」
『正解!!』
フクロウが食い気味に叫んだ。
『そうじゃ! 薪をくべれば燃え、水を掛ければ消える! 火じゃ! なぜこんな簡単なことがわからぬ!』
「……は?」
俺は呆然とした。
火? そのまんまじゃないか。ひねりも何もない。
「待てよ。そんな物理現象そのままの答えでいいのか? 『叡智』を試すんじゃなかったのか?」
『自然の理を素直に受け取る心こそが叡智じゃ! 知識をひけらかして深読みする愚か者には、この壁は一生通れぬわ!』
フクロウは「やれやれ」と呆れたように翼を振った。
パリンッ!
目の前の見えない壁が砕け散り、道が開かれた。
「……まさか、二度もルビィに救われるとはな」
「えへへー! お兄ちゃん、考えすぎなんだよー!」
「分析。……この森のセキュリティ・システムは、高知能者に対して極めて悪意のある仕様です」
俺たちは敗北感を味わいながら、再び前進した。
エルフの里は、一筋縄ではいかない。
そして、この「知恵者の不覚」が、次のトラブル――「さらなる誤解」へと繋がっていくのだった。
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