第22話 終わらない街道と、森の優雅な籠城戦 ~罪深き迷える子羊に、極上のバーベキューを~
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それでは、本編をお楽しみください!
宿場町ウィンドルを出て、俺たちは『翠緑の樹海』へと続く街道をビークルで走っていた。
天気は快晴。舗装された一本道。
何の変哲もないドライブコースのはずだった。
「……マスター。異常を検知しました」
助手席のサフィが、冷静な声で告げる。
「先ほど通過した『折れた枯れ木』を、再度通過しました。これで4回目です」
「ん? まさか」
俺は窓の外を見た。
確かに、特徴的な形の岩や、奇妙に曲がった枝が、数分おきにリピートされている。
街道は真っ直ぐなのに、景色だけがループしているのだ。
「……なるほど。空間歪曲の結界か、あるいは幻覚魔法か」
「お兄ちゃん、どういうこと?」
「簡単に言えば、『迷路に閉じ込められた』ってことさ」
俺はビークルを停止させた。
エンジンを切ると、周囲は不気味なほど静まり返っていた。鳥の声もしない。
「おそらく、野盗の仕業だろうな。道行く馬車をこの結界に閉じ込め、水や食料が尽きて弱ったところを襲う……卑劣だが、確実な手口だ」
普通の旅人ならパニックになるところだ。出口のない道、減っていく水、迫りくる夜の恐怖。
だが、俺はニヤリと笑った。
「へぇ……。『待ち伏せ』か。面白い」
俺は後部座席の美女たちに声をかけた。
「みんな、休憩だ! ここでキャンプにするぞ!」
「あら、素敵ですわ! ちょうどお腹が空いていましたの」
「わーい! ご飯だー!」
◇
一方その頃。
街道沿いの森の奥、結界の外側から様子を窺う集団がいた。
この地域を荒らす野盗団『霧の毒蛇』だ。
「ヒヒッ……かかったな、獲物め」
「お頭、今回は上玉ですよ! 見たこともない高級な馬車に、とびきりの女連れだ!」
「慌てるな。あの馬車、魔力駆動だ。下手に手を出すと痛い目を見るかもしれん」
野盗の頭領は、陰湿な笑みを浮かべた。
彼らが使うのは、古代遺跡から盗掘したアーティファクト『迷いの香炉』。
これでおびき寄せた獲物を空間のループに閉じ込め、数日間放置する。
飢えと乾き、そして絶望で動けなくなったところを、安全に嬲り殺すのが彼らのやり方だ。
「見てろ。今は元気だが、半日もすれば水が尽きる。夜になれば寒さで震え上がるはずだ……」
彼らは茂みに潜み、じっと獲物が弱るのを待った。
しかし――。
数十分後。
結界の中から漂ってきたのは、悲鳴でも絶望の叫びでもなく、暴力的なまでの「飯テロ」の香りだった。
「……おい、なんだこの匂いは」
「肉だ……! しかも、とびきり上等な肉が焼ける匂いだぞ!?」
野盗たちが鼻をヒクつかせる。
視線の先では、あろうことか「遭難中」のはずの獲物たちが、優雅にテーブルを広げ、バーベキューを始めていたのだ。
「サフィ、火加減はどうだ?」
「最適です。ヴォルカ産の『溶岩プレート』の余熱で、じっくりと火を通します」
「ダイヤ、ワインを冷やしてくれ」
「はい、マスター。……キンキンに冷えておりますわ♡」
ジュウウゥゥ……ッ!!
分厚いステーキ肉(第18話で狩りすぎた高級肉)が焼ける音と香りが、森中に拡散される。
さらに、鍋からはとろけるようなチーズと、新鮮な野菜のスープの香りが。
「な、ななな……何やってんだあいつらァァァ!!」
「迷ってるんだぞ!? なんで宴会始めてんだよ!!」
野盗たちは混乱した。
普通は出口を探して走り回ったり、泣き叫んだりするはずだ。
なのに、彼らはまるでリゾート地にバカンスに来たかのようにくつろいでいる。
「くそっ……! ま、まあ待て。食料には限りがある。あんな贅沢をしてたら、すぐに底をつくはずだ」
「そ、そうですねお頭! 俺たちの我慢勝ちです!」
野盗たちは、自分たちの干し肉(硬くて不味い)を齧りながら、必死に耐えた。
しかし、その我慢は無駄だった。
夜になれば、魔法の光でキャンプ場がライトアップされ、昼間のように明るい。
寒くなれば、俺の『熱エントロピー操作』と『黄金の毛皮』で、そこだけ春のように暖かい。
そして何より、食料が尽きる気配がない。
四次元ポケットのようなアイテムボックスから、次々とデザートや果物が出てくるのだ。
「お兄ちゃん! このキャベツ甘ーい!」
「お頭……俺、もう限界です……あの匂いだけで腹が減って死にそうです……」
「ええい、泣き言を言うな! こっちが包囲してるんだぞ!」
立場が逆転していた。
閉じ込めているはずの野盗たちが、寒空の下で空腹と羨望に震え、
閉じ込められているはずの俺たちが、ぬくぬくと快適な一夜を過ごしている。
◇
翌朝。
俺はふかふかのベッド(ビークルの座席)で目覚め、淹れたてのコーヒーを啜った。
「ふぅ。……さて、そろそろお客様も限界かな?」
俺は飲み干したコーヒーカップを置き、立ち上がった。
外からは、寒さと空腹に耐えかねた野盗たちの、情けないくしゃみや呻き声が聞こえてくる。
「ダイヤ。森の奥、2時の方向だ。……『掃除』してくれ」
「承知いたしましたわ」
ヒュンッ。
ダイヤの日傘から放たれた熱線が、結界の核となっていた『迷いの香炉』を正確に撃ち抜いた。
パリンッ!
景色が霧散し、本来の街道が姿を現す。
「うわぁぁっ!? 結界が破られた!?」
「逃げろ! バケモノだ!」
茂みから飛び出してきた野盗たちは、昨夜の寒さと空腹でフラフラだった。
逃げる足も遅い。ゴルドが軽く足を踏み鳴らすだけで、彼らは腰を抜かしてへたり込んでしまった。
「ひぃぃ! 許してくれぇ! 命だけは!」
「腹減った……もう悪いことはしねぇから……」
彼らはガリガリに痩せ、服もボロボロだった。
武器を持っているが、手入れもされていない錆びた剣だ。
どうやら、ここ最近は獲物にかかる旅人もなく、彼ら自身が飢えに苦しんでいたようだ。
「……はぁ」
俺は大きく溜息をついた。
こんな弱りきった連中を、宪兵に突き出しても面白くもない。
それに、彼らの目には「悪意」よりも「必死さ」が見て取れた。生きるために泥水を啜ってきた者の目だ。
「……おい、お前ら」
「は、はいぃぃ!?」
「腹、減ってんだろ?」
俺はアイテムボックスから、昨夜の残りの『黄金火猪のロースト』と、『翡翠キャベツのスープ』を取り出し、大鍋で温め直した。
極上の香りが、朝の森に漂う。
「く、食っていいのか……?」
「毒なんて入ってないぞ。冷める前に食え」
俺が器に盛って差し出すと、野盗のリーダーらしき男が、震える手でそれを受け取った。
一口、スープを啜る。
その瞬間、男の目からボロボロと大粒の涙が溢れ出した。
「う……うめぇ……!」
「なんだこれ……野菜ってこんなに甘いのかよ……!」
「肉が……とろける……! うあぁぁぁん!!」
野盗たちは貪るように、そして泣きながら食事を平らげた。
彼らにとって、温かい食事など何日ぶりだったろうか。ましてや、こんな極上の料理など、一生口にできないと思っていたはずだ。
「……ごちそうさまでした……!」
鍋が空になると、彼らは地面に額を擦り付けて土下座した。
その顔からは、険しい殺気は消え失せ、憑き物が落ちたようになっていた。
「俺たち、魔物に村を追われて、食うや食わずで……こんな真似をするしかなかったんです」
「でも、目が覚めました。こんな美味いもん食わせてもらって……俺たち、やっぱり真面目に生きます」
やはり、事情があったか。
俺は腕を組み、少し考えた後、アイテムボックスから『ドワーフの工具セット(中古)』と、『野菜の種(カレハ村で分けてもらった)』を取り出した。
「なら、これを持っていけ」
「こ、これは?」
「この先の街道沿いに、放棄された開拓村があったはずだ。そこで畑を耕して、やり直せ」
俺は金貨を渡すような野暮なことはしなかった。
金は使えばなくなる。だが、道具と種があれば、彼らは自分の力で生きていける。
「街道の警備もついでに頼むぞ。また俺が通った時に、道が荒れてたら承知しないからな」
「は、はいっ!! 必ず! この御恩は一生忘れません!」
「旦那様! いや、師匠と呼ばせてくだせぇ!」
野盗改め、未来の開拓者たちは、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔で何度も頭を下げた。
◇
俺たちは再びビークルに乗り込んだ。
バックミラーには、いつまでも俺たちに手を振り続ける彼らの姿が映っていた。
「あらあら。すっかり更生してしまいましたわね」
「分析。高カロリーかつ高品質な食事によるドーパミン分泌が、彼らの精神状態を安定させ、良心を呼び覚ましました」
「お兄ちゃん、優しーい!」
俺はハンドルを切りながら、小さく笑った。
「まあな。あいつらが真面目に野菜を作ってくれれば、俺たちの帰りの食卓がまた豊かになるだろ?」
「ふふ、素直じゃありませんこと」
ただ敵を倒すだけが強さじゃない。
時には情けをかけ、道を示してやるのも、先を行く者の務めだ。
心もお腹も満たされた俺たちは、清々しい気分でアクセルを踏み込んだ。
さあ、森はもうすぐだ。
野盗ですら感動させたこの世界で、次はどんな出会いが待っているのだろうか。
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