第20話 見捨てられた村と、先物買いの契約書 ~勇者は金貨を求め、錬金術師は未来のサラダを買う~
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それでは、本編をお楽しみください!
黄金火猪の極上肉を堪能した俺たちは、『翠緑の樹海』を目指して、のんびりと街道を進んでいた。
急ぐ旅ではない。俺たちは道中の景色を楽しみながら、峠にある小さな寒村『カレハ村』に差し掛かった。
村の雰囲気は暗く、沈んでいた。
畑の土は干からび、作物はしおれている。
俺たちのビークルが通りかかると、村長らしき老人が、すがるような目をして駆け寄ってきた。
「お、お待ちくだされ旅のお方……! 水を……食べ物を恵んでいただけませんか……!」
「……ふむ」
俺はビークルを止め、窓を開けた。
老人の話を聞くと、数週間前から水源に魔物が住み着き、水が毒されてしまったという。
このままでは、村の特産品である野菜が全滅してしまうそうだ。
「一昨日、ここを通りかかった『勇者パーティー』の方々にもお願いしたのですが……」
「勇者が? で、どうなった?」
「『報酬は?』と聞かれましてな。『今は金貨がない。代わりに収穫前の野菜で勘弁してくれ』と頼んだら……」
老人は悔しそうに拳を握りしめた。
『はぁ? まだ育ってもいない野菜? そんな草に価値があるか!』
『俺たちは忙しいんだ。金がないなら他を当たれ!』
……と言い捨てられ、見向きもされなかったという。
「なるほどな。目先の金しか見えないとは、相変わらず見る目がない連中だ」
俺は呆れて溜息をついた。
確かに、今のこの村には金貨一枚の価値もないかもしれない。
だが、俺の『鑑定眼』は、枯れかけた畑の奥に眠る「可能性」を見逃さなかった。
【翡翠キャベツの原種】
* レア度: Sランク食材
* 特徴: 清らかな水と寒暖差でのみ育つ、奇跡のキャベツ。糖度はメロン並み、食感は雪のように繊細。
「……おい、爺さん。あの畑、もし水が戻れば、最高のキャベツが育つんだな?」
「は、はい。ですが、今はまだ小さく、収穫にはあと一月はかかります……」
「それでいい」
俺はビークルを降り、老人の前に立った。
「錬金術で無理やり大きくすることはできる。だが、そんなことをすれば味が落ちる。野菜ってのは、大地の栄養と時間を吸って美味くなるもんだ」
「さ、左様でございます……! 分かってくださいますか!」
「ああ。だから、俺が依頼を受ける。報酬は金貨じゃない」
俺は羊皮紙を取り出し、サラサラと契約書を書き上げた。
「『独占購入契約』だ。この村のキャベツが無事に育ったら、その『一番出来の良いもの』を、市場価格の倍で俺に売ってくれ」
「ば、倍でございますか!? しかも、収穫してからで良いと!?」
「ああ。俺は美味いサラダが食いたいんだ。そのための投資だと思えば安いもんだ」
交渉成立だ。
俺たちは水源へと向かった。
そこには、汚泥を撒き散らすスライムの群れがいた。
だが、今の俺たちには敵ではない。
「ダイヤ、殲滅だ。ただし、周囲の自然を壊すなよ」
「承知しましたわ。……不浄なる者よ、土に還りなさい」
ダイヤがピンポイントで熱線を放ち、スライムの核だけを焼き切る。
サフィが浄化魔法を使い、ヘドロにまみれた水源を、本来の清らかな湧き水へと戻していく。
「仕上げだ」
俺はアイテムボックスから、火山の森で採取した『腐葉土』と、特製の『ミネラル液』を取り出し、畑に撒いた。
これは成長促進剤ではない。土の力を取り戻すための、ただの良質な肥料だ。
「これでいい。あとは村の皆さんが、手間暇かけて育ててくれれば」
「お、おおお……! 水が! 水が戻ったぞ!」
村人たちが歓声を上げ、枯れかけた水路に清流が戻っていく。
キャベツたちは水を吸い、心なしか葉を広げたように見えた。
◇
その夜。
俺たちは村長の家に招かれたが、豪勢な宴会は断った。村に食料がないのは分かっている。
その代わり、俺たちが持っていた『黄金火猪の肉』を提供し、村の備蓄していた芋と一緒に煮込んだスープを振る舞った。
「うめぇ……! 肉なんて何年ぶりだ……!」
「ああ、あったまる……」
村人たちの笑顔を見ながら、俺たちも質素だが温かい夕食を囲んだ。
「これですわね。ご主人様」
「ああ。今はまだ食べられないが、一月後、ここには最高の宝石が実る」
俺は窓の外、月明かりに照らされた畑を眺めた。
全部奪うなんて野暮なことはしない。
適正な時期に、適正な価格で、最高の味を手に入れる。それが大人の、そして一流の錬金術師の贅沢だ。
「楽しみが増えましたわね、お兄ちゃん!」
「分析。収穫時期に合わせて、配送ルートの手配を予約します」
「ああ。その頃には、エルフの森で最高のドレッシング(酢やオイル)を手に入れているはずだ」
翌朝。
俺たちは村人たちに「肥料代」としての前金を渡し、深々と頭を下げられて見送られた。
「必ず! 必ず最高のキャベツを育ててお待ちしております!」
「期待してるぞ」
ビークルはゆっくりと走り出す。
次の目的地はまだ先だ。
焦ることはない。美味しいものが待っていると思えば、旅の道のりもまた、楽しいスパイスになるのだから。
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