第19話 黄金のベーコンと、森の三ツ星レストラン ~歩く燻製肉を、一番美味しくいただく方法~
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夕闇が迫る火山の麓の森。
俺たちは息を殺し、茂みの陰からその「輝き」を見つめていた。
前方300メートル。少し開けた場所で、全身が黄金の発光体に包まれた巨大なイノシシが、地面の木の実を漁っている。
『黄金火猪』。
その鼻息からは、シュウシュウと白い煙が漏れており、風に乗って食欲をそそる芳ばしい香りが漂ってくる。
「……間違いない。あの匂い、天然のスモーク香だ」
俺はゴクリと喉を鳴らした。
鹿、牛、鳥……数々の高級食材を乗り越え、ついにたどり着いた本命だ。
「作戦に変更はないな? 肉に傷をつけず、一撃で仕留める。暴れさせたら筋肉が固くなるからな」
「お任せくださいまし、マスター。わたくし、食材を傷つけるような無粋な真似はいたしませんわ」
ダイヤが優雅に前に出て、日傘を構える。
その先端が、音もなく黄金の獣に向けられた。
「風向き、湿度、熱源補正……全てクリア。……ごきげんよう、最高の豚さん」
ヒュンッ。
絹を引き裂くような、微かな音。
日傘の先端から放たれたのは、針の穴を通すような極細の『超高熱レーザー』だった。
それは木々の隙間を縫い、黄金火猪の眉間――脳幹の中枢を、正確無比に貫いた。
「ブモッ……?」
巨獣は、自分が死んだことすら気づかなかっただろう。
悲鳴を上げる間もなく、糸が切れた操り人形のようにドサリと崩れ落ちた。
完璧な即死攻撃。苦痛を与えず、肉にストレスをかけない、最高の狩猟だ。
「お見事。さすがはドワーフの最高傑作だ」
「恐縮ですわ。さあ、鮮度が落ちないうちに参りましょう」
◇
俺たちは倒れた巨獣のもとへ駆け寄った。
近づくだけで、熱気と芳醇なベーコンの香りが押し寄せてくる。
「すっごい良い匂い! もう焼けてるみたい!」
「分析。体温が非常に高く、死後も肉の熟成が進んでいます。……マスター、迅速な処理を推奨します」
俺は頷き、錬金術を発動させた。
巨大な黄金の体を、魔力で瞬時に解体する。
「『解体』! 皮を剥ぎ、骨を外し、肉を切り分ける!」
バシュッ!
一瞬にして、目の前には美しく切り分けられたブロック肉の山と、巨大な黄金の毛皮が現れた。
肉の断面は、鮮やかなピンク色と白身の層が重なる、極上のバラ肉だ。
「よし、宴の始まりだ! ゴルド、かまどを頼む!」
「御意! 我ガ装甲熱デ、即座ニ調理場ヲ構築シマス!」
ゴルドが熱した火山岩を並べ、即席の高級グリルが完成した。
俺は分厚くスライスした黄金火猪の肉を、ジュウウゥゥッ! と熱い岩の上に乗せた。
「……!!」
その瞬間、爆発的な香りが周囲に広がった。
桜のチップでじっくり燻したような、濃厚でスモーキーな香り。脂が溶けて炭火に落ちる音。
「まだだぞ、ルビィ。まだ我慢だ……」
「ううぅ~! お兄ちゃん、まだー!? よだれが止まんないよぉ~!」
表面がカリッと焼け、中から透明な脂が滲み出てきたところで、俺は叫んだ。
「よし、食えっ!!」
「いっただきまーす!!」
ルビィが一番乗りで肉に飛びつき、ハフハフと言いながら口に放り込む。
「んんん~っ!! なにこれぇぇぇ!?」
ルビィが目を丸くして叫ぶ。
「噛んだ瞬間、脂がジュワッて溶けて、口の中が燻製の匂いでいっぱいになるの! しかも、なんか最初から塩味がついてる!」
「なるほど、体内のミネラル分が濃縮されて、天然の塩気になっているのか」
俺も一切れ口に運ぶ。
……美味い。言葉が出ない。
これは肉でありながら、完成された「料理」だ。何も足す必要がない。
「これは……酒だ。酒を持ってこい!」
俺は慌ててアイテムボックスから『ドワーフの樽熟成エール』を取り出し、魔術でキンキンに冷やして流し込んだ。
「ぷはぁっ! ……最高だ。燻製の脂と、冷えたエール。これ以上の組み合わせがこの世にあるか?」
アミィとダイヤも、優雅に、しかしものすごいスピードで肉を消費していく。
「んっ♡ 美味しいですわご主人様。いくらでも食べられそう」
「ええ。わたくし、このために生まれてきたのかもしれませんわ(※違います)」
俺たちは森の中で、満天の星空を見上げながら、極上のバーベキューを堪能した。
周囲には、食べきれなかった鹿肉や牛肉の山もある。まさに肉のパラダイスだ。
◇
翌朝。
俺たちは、はち切れんばかりの腹と、パンパンになったアイテムボックス(肉と毛皮で満杯)を抱え、森を後にした。
「ふぅ、食った食った。当分、肉には困らないな」
「黄金の毛皮も手に入りましたし、大収穫でしたわね」
馬車の荷台には、国宝級の『黄金毛皮』が無造作に積まれている。
これで火山の旅は本当に終わりだ。
「さあ、次は森だ。エルフのラボが俺たちを待っている」
「森かぁ。今度は野菜が美味しいかなー?」
「分析。エルフの領域には、魔力を含んだ特殊な果実や野菜が多数存在します。食生活のバランス改善に最適です」
肉食から草食へ。俺たちのグルメツアーはまだまだ続く。
ビークルは軽快にエンジンを鳴らし、緑豊かな次なる大地――『翠緑の樹海』へと走り出した。
……その数キロ後方で、焚き火の跡に残された「黄金火猪の骨(食べカス)」を発見した勇者パーティーが、「こ、これは伝説の魔獣の骨!? 一体誰が……!」と驚愕していたことなど、俺たちは知る由もなかった。
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