第16話 封印された扉と、資格なき者の拒絶 ~鍵があっても、開けられなければただの棒~
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ドワーフの賢者が遺した自動工場を手に入れ、新たな仲間である「灼熱の淑女」ダイヤを迎え入れた俺たち。
だが、ここを立ち去る前に、俺はどうしても気になることがあった。
「……待てよ。このまま帰るわけにはいかないな」
「マスター? どうなさいましたの?」
ダイヤが不思議そうに小首を傾げる。
俺は稼働し続けるマグマのピストンと、無限に精製される合金の山を見つめた。
「ここの技術『熱核錬成』は危険すぎる。熱さえあれば、誰でも国を滅ぼす兵器を量産できてしまう」
「ええ。お父様もそれを危惧して、あの『溶鉄の扉』を作られましたわ」
「だが、ガランが『星核の鍵』を作ってしまった今、その封印は破られたも同然だ」
もし、あの鍵が盗まれたら?
もし、ガランが金に目がくらんで量産したら?
勇者のような思慮の浅い連中がここに入り込めば、世界は火の海になるだろう。
「……施錠のレベルを上げる。物理的な鍵だけじゃ開かないように、システムを書き換えるぞ」
俺はラボの制御中枢に手をかざした。
先ほど習得した『熱エントロピー操作』と、ここの『熱核錬成』理論を組み合わせ、扉の術式を再構築する。
「構成変更。認証キーに『魔力熱量』の波長一致を追加。……よし」
俺は扉に、複雑な幾何学模様の魔法陣を焼き付けた。
これで、単に鍵を差し込むだけでは扉は開かない。
鍵を通して、「正確な熱量のコントロール」と「錬金術の構造理解」を流し込まなければ、鍵穴の中でロックが溶接される仕組みだ。
「これなら、俺と同等……少なくとも『賢者』クラスの錬金術師でなければ、侵入はおろか、鍵を回すことすらできない」
俺は満足げに頷いた。
これは意地悪ではない。技術を守るための責任だ。
◇
街外れの工房に戻ると、ガランは首を長くして待っていた。
「おお! 帰ったか! どうじゃった、ワシの作った『星核の鍵』は! あの扉は開いたか!?」
「ああ、完璧だったよガラン。あんたの腕は本物だ。扉はスムーズに開いた」
「ガハハ! そうじゃろうそうじゃろう! ワシの最高傑作じゃからな!」
ガランは子供のように喜んでいる。
俺はその鍵を彼に返しながら、静かに告げた。
「だがな、ガラン。一つだけ報告がある」
「あん? なにがじゃ?」
「あの扉……俺が術式を上書きして『封印』しておいた」
ガランの笑顔が凍りついた。
「ふ、封印……? ど、どういうことじゃ? ワシの鍵じゃ、もう開かんのか?」
「物理的には鍵穴に刺さる。だが、回らないはずだ」
俺は淡々と説明する。
「あそこの技術は、あんたが想像している以上に危険な代物だ。だから、『錬金術の真理を理解した者』以外には開けられないように細工をした」
「な、なんじゃと……!?」
「つまり、今のあんたや、そこらの冒険者がその鍵を使っても、扉はビクともしないってことだ」
ガランの顔が紅潮する。職人としてのプライドを傷つけられたと感じたのだろう。
「ふ、ふざけるな! ワシが徹夜で作った鍵だぞ! それを勝手に……開け方を教えろ! ワシにも見る権利があるはずじゃ!」
「ダメだ」
俺は即答した。
冷ややかな、しかし絶対的な拒絶。
「教えないんじゃない。教えても無駄なんだ」
「な……」
「解除には、熱力学の逆算と、分子レベルの魔力操作が必要だ。鍛冶師のあんたには、その領域がない。無理に開けようとすれば、鍵が爆発してあんたが死ぬぞ」
俺は威圧するのではなく、諭すように言った。
これは事実だ。レベルが足りない者が高位の術式に触れれば、自滅する。
「……技術ってのはな、扱う人間にふさわしい器が必要なんだよ。あんたには『鍵を作る技術』はあったが、『扉の向こう側を御する資格』はまだない」
ガランはしばらく俺を睨みつけていたが、やがてガックリと肩を落とした。
俺の横に控えるダイヤ――その圧倒的な「技術の結晶」を見れば、俺の言葉がハッタリでないことは理解できたはずだ。
「……ちっ。生意気なガキじゃ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
「分かったわい。その封印、破ろうとはせん。……だが、いつかワシがもっと腕を上げて、その『資格』とやらを得たら、その時は堂々と入ってやるからな!」
ガランは悔しそうに、しかしどこか晴れやかに笑った。
「ああ。期待してるよ、頑固親父」
俺たちは握手を交わした。
これでいい。
彼はこの街で一番の鍛冶師だが、世界の真理(錬金術の深淵)にはまだ遠い。
危険な扉は、資格ある者が現れるまで、静かに眠り続けるだろう。
「さあ、行くか。長居しすぎたな」
「はい、マスター。……貴方様のそういう慎重なところ、わたくし嫌いじゃありませんわ」
ダイヤが優雅に微笑み、アミィが日傘を差しかける。
俺たちは灼熱の街『ヴォルカ』を背に、次なる目的地へと歩き出した。
背後では、ガランが愛おしそうに、しかし少し寂しそうに『星核の鍵』を磨いている姿があった。
彼は知らない。
その鍵が、世界で唯一、伝説のラボへの通行手形でありながら、同時に「選ばれし者」を選別するテストツールになったことを。
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