第12話 灼熱の街の偏屈親父と、開かずの「溶鉄の扉」
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俺たちはついに、大陸南部に位置する火山都市『ヴォルカ』に到着した。
街の至る所から煙突が伸び、黒煙と火の粉が舞っている。
道行く人々は屈強なドワーフ族が多く、街全体が巨大な工場のようだ。
「……暑いな」
「ご主人様、日傘が燃えそうですわ」
気温は軽く40度を超えている。
俺はすぐさま『熱エントロピー操作』を発動し、俺たちの周囲だけをエアコンの効いた室内のような快適温度に固定した。
「マスター。周囲の住民が、汗一つかかない私たちを不審な目で見ています」
「涼しい顔で観光できるのは、俺たちだけの特権だ。行くぞ」
◇
まずは酒場で情報収集だ。
冷えたエール(俺が冷やした)を奢ると、現地のドワーフたちは口々に「ある噂」を語り始めた。
「火山のダンジョンか? やめときな。入り口で詰むだけだ」
「入り口?」
「ああ。最初のエリアを抜けた先に、『溶鉄の扉』ってのがあるんだが……こいつが曲者でな」
なんでも、その扉は鍵穴もなく、魔法で爆破しようとしても傷一つ付かない。
さらに厄介なことに、扉自体が数千度の熱を放っており、近づくだけで装備が溶け出すという。
「今まで何百人もの冒険者が挑んだが、誰も開けられなかった。……唯一、その開け方を知ってるらしいのが、街外れに住む『頑固鉄鎚のガラン』って爺さんだ」
「ガラン?」
「元は天才鍛冶師だったんだが、今は引退して偏屈になっちまってな。『今の冒険者は軟弱だ』って、誰が頼んでも口を利いてくれねぇんだよ」
なるほど。
攻略の鍵は、その偏屈な元・天才鍛冶師か。
「……面白そうだ。会いに行ってみるか」
◇
街外れの工房。
そこは廃墟のように静まり返っていたが、中からは微かに鉄を打つ音が聞こえていた。
「ごめんください。少しお話を――」
俺が声をかけようとした瞬間、怒声が飛んできた。
「帰れェ!! 観光客に売る剣なんぞねぇぞ! 軟弱者が!」
奥から出てきたのは、白髭を長く伸ばした小柄な老人――ドワーフのガランだった。
彼は俺たちの「涼しげな服装(フェンリルの白衣)」と「美女連れ」という姿を見て、鼻で笑った。
「フン! なんだその格好は。ピクニック気分で火山のダンジョンに行こうってか? 死にたくなけりゃママのミルクでも飲んで寝てな!」
「……手厳しいな。俺たちはあんたに、『溶鉄の扉』の開け方を聞きに来たんだが」
「帰れと言っておる! あの扉はな、『真の職人が鍛えた鍵』じゃなきゃ反応せんのだ! 貴様らのような、安物の剣をぶら下げた連中には一生縁がないわ!」
ガランはプイッと背を向け、工房の奥へ戻ろうとする。
金貨を見せようが、美女が頼もうが、この手合いには逆効果だ。
職人を動かすのは、金でも色気でもない。
「好奇心」と「素材」だ。
「……そうか。残念だな」
俺はわざとらしく大きなため息をついた。
「せっかく、この『星核鉄』を加工できる腕利きの職人を探していたんだが……この街にはいないみたいだ」
ドサッ。
俺はアイテムボックスから、第10話で手に入れた「黒く煤けた鉄塊」を無造作に地面に転がした。
「……あ?」
ガランの足が止まる。
彼はゆっくりと振り返り、地面に転がる鉄塊を凝視した。
職人の目が、その「質量」と「魔力密度」を見抜く。
「ま、待て……。その輝き、その重密度……まさか、伝説の『星核鉄』か!?」
「ああ。ベルカの市場でゴミとして売られてたのを保護したんだが……あんた、これを叩けるか?」
俺は挑発的に笑った。
「もし無理ならいいんだ。俺の錬金術で溶かしちまうから」
「ば、馬鹿野郎!!」
ガランが血相を変えて飛びついてきた。
彼は鉄塊を抱きしめ、頬ずりをする。
「なんてことを言うんじゃ! これほどの純度の星核鉄、ワシでも見るのは50年ぶりじゃぞ! これを溶かすだと!? 貴様、素材への冒涜だぞ!」
「じゃあ、話を聞いてくれるか?」
俺は畳み掛けるように、もう一つの切り札を取り出した。
「ついでに、この『神霊蛇の抜け殻(S級素材)』もある。こいつで耐熱インナーを作りたいんだが……どうだ?」
「ひぃぃぃっ!? 白蛇様の抜け殻まで!? お、お前さん、一体何者なんじゃ……!?」
国宝級の素材の二連打。
偏屈親父の態度は一変した。
彼は震える手で俺の手を握りしめた。
「……ワシが悪かった! 頼む、その素材をワシに触らせてくれ! 金はいらん! ワシの命の灯火が消える前に、最高の仕事がしたいんじゃ!」
職人魂(と素材への執着)が、頑固さを上回った瞬間だった。
◇
工房の中に招き入れられた俺たちは、ガランから『溶鉄の扉』の真実を聞かされた。
「……あの扉はな、古代のドワーフ賢者様が作った『試練の門』じゃ」
「試練?」
「うむ。あの扉は、『超高温に耐えうる素材で作られた鍵』を差し込まねば開かん。だが、普通のミスリル程度じゃ、鍵穴に入れた瞬間に溶けちまう」
ガランは悔しそうに顔を歪めた。
「ワシも若い頃、何度も挑んだ。だが、鍵が熱に耐えきれず、歪んで失敗したんじゃ。……だが!」
彼は俺が持ち込んだ『星核鉄』を見て、目を輝かせた。
「こいつならイケる! 融点が桁違いに高いこの金属なら、あの扉の熱にも耐えられる『鍵』が作れるはずじゃ!」
なるほど。
つまり、このダンジョンの最初の関門は、戦闘力ではなく「アイテムの質(素材)」を試すものだったわけか。
「よし、決まりだ」
俺はガランに素材を託した。
「ガラン。この『星核鉄』と『蛇の抜け殻』を使って、最高の鍵と、ゴルドの強化装甲、それに俺たちの耐熱装備を作ってくれ。報酬は……余った素材を全部くれてやる」
「ほ、本当か!? 半分も余るぞ!? それでワシのハンマーを作っても……?」
「好きにしろ。その代わり、期限は明日までだ」
「やってやるとも! 職人の意地を見せてやるわい!」
ガランは雄叫びを上げ、炉に火を入れた。
偏屈親父はどこへやら。そこにいるのは、少年のように目を輝かせた一人の職人だった。
「……ちょろいですわね」
「アミィ、それは言わない約束だ」
俺たちは工房の隅で、ガランが打つ鉄の音をBGMに、冷えたワインで乾杯した。
これで「鍵」の問題は解決だ。
あとは完成を待ち、悠々とあの「開かずの扉」を開けに行くだけである。
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