第11話 白蛇の泉と、究極のピーリング・スパ ~神様の脱皮をお手伝いしたら、国宝級の革が手に入った件~
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
交易都市『ベルカ』を出て数日。
俺たちは火山地帯を目指して街道を進んでいたが、飲み水の補給も兼ねて、深い森の中にある「名もなき泉」に立ち寄ることにした。
木漏れ日が差し込むその場所は、息を呑むほど美しかった。
エメラルドグリーンの水面は鏡のように静まり返り、周囲には清浄な空気が満ちている。
「綺麗な場所ですわね、ご主人様」
「ああ。魔力濃度も高い。ただの水場じゃないな」
俺が水を汲もうと近づいた、その時だった。
ザバァァァッ!!
水面が大きく割れ、巨大な白い影が姿を現した。
それは、身の丈10メートルはあろうかという、純白の鱗を持つ大蛇だった。
だが、魔物特有の殺気はない。むしろ、神聖な気配――『土地神』クラスの精霊獣だ。
「警告。高エネルギー反応。マスター、後退を」
「待てサフィ。敵意はないようだ」
俺が制すると、白蛇は悲しげな金色の瞳でこちらを見下ろし、美しい女性の声で脳内に直接語りかけてきた。
『……旅の錬金術師よ。驚かせてすまぬ。私はこの泉の主』
「初めまして。水を少し分けてもらおうと思ったんだが……何かお困りか?」
俺の問いに、白蛇は恥ずかしそうに身をよじった。
『うむ……実は、その……恥ずかしながら、「脱皮」が上手くいかなくてな』
「脱皮?」
『ああ。数百年ぶりの生え変わりなのだが、最近の乾燥続きで肌がカサカサで……古い皮が引っかかって、痒くてたまらぬのだ。岩に擦り付けても取れぬ……』
見れば、確かに白蛇の美しい鱗の所々が白く浮き上がり、ボロボロになっている。
人間で言えば、酷い肌荒れや、かかとの角質がガチガチになっている状態か。
女性(雌?)としては死活問題だろう。
「……なるほど。乾燥肌による脱皮不全か」
俺はニヤリと笑った。
戦闘ならゴルドの出番だが、こういう悩みこそ錬金術師の出番だ。
「よし、任せておけ。俺がツルツルに剥いてやる」
『本当か!?』
「ああ。特製の『入浴剤』を調合してやるよ」
◇
俺は泉のほとりに簡易ラボを展開した。
取り出したのは、ベルカの市場で買った『薬草オイル』、北のダンジョンで採取した『高純度アルカリ水』、それに『スライムの粘液(保湿成分)』だ。
「サフィ、成分分析。ヘビの鱗のケラチン構造を分解しつつ、新生皮膚を傷つけないpHバランスを計算してくれ」
「了解。……タンパク質分解酵素の添加を推奨。古い角質のみを溶解させます」
俺たちは手際よくビーカーを振り、液体を調合していく。
魔法で解決するのではない。「化学反応」で解決するのが俺の流儀だ。
「完成だ。名付けて『超強力酵素ピーリング・バスボム』!」
俺は完成したドロドロの液体を、泉の上流にドボドボと流し込んだ。
水が乳白色に染まり、シュワシュワと心地よい炭酸の泡が立ち上る。
「さあ、主よ。この水に浸かってくれ」
白蛇はおそるおそる、その濁った水に巨体を沈めた。
『……ほう。ピリピリするかと思ったが、温かくて気持ちいいぞ……? 泡が鱗の隙間に入り込んで……』
「今だ、サフィ! 温度を上げて反応を促進!」
「了解。『熱エントロピー操作』、開始」
俺とサフィが魔力を込め、泉の水温を最適な42度に保つ。
すると、劇的な変化が訪れた。
パリッ、パキパキパキッ……!
白蛇の体を覆っていた古い皮が、まるで熟れた果実の皮が剥けるように、綺麗に浮き上がってきたのだ。
『お、おおおっ! 取れる! 勝手に皮がズルズルと剥けていくぞ!?』
「仕上げだ! ルビィ、背中を流してやれ!」
「はーい! デッキブラシでゴシゴシしちゃうぞー!」
ルビィが楽しそうに白蛇の背中(?)を擦ると、古い皮がつるりと滑り落ちた。
その下から現れたのは、虹色に輝く、濡れたような真新しい白銀の鱗。
バシャァァァン!!
全ての皮を脱ぎ捨てた白蛇が、歓喜の声を上げて水面から飛び出した。
『す、素晴らしい!! なんという爽快感! なんという艶! 生まれて初めての感覚じゃ!!』
月光を浴びて輝くその姿は、神々しいまでに美しかった。
アミィもうっとりと頬を染める。
「まあ……。まるで宝石のようですわ。私も今度、あの入浴剤を使ってみたいですわね」
「ああ、今度作ってやるよ」
大喜びで泉を泳ぎ回った後、白蛇は俺の目の前に頭を下げた。
『錬金術師よ、礼を言う。おかげで数百年分の痒みが消え、肌も若返った。……あそこで沈んでいる「脱ぎ捨てた皮」だが、私はもういらぬ。邪魔なら燃やすなり埋めるなりしてくれ』
白蛇が指した(顎で示した)先には、泉の底に沈む巨大な抜け殻があった。
「……え、いいのか?」
『うむ。ただのゴミゆえな。……それと、これはほんの感謝の気持ちだ』
白蛇が口からポロリと吐き出したのは、青白く光る勾玉だった。
『この泉の結晶、「水精の勾玉」だ。火の粉くらいなら払えるだろう』
◇
その後、俺たちはホクホク顔で馬車に戻った。
俺の手元には、白蛇にとってはゴミだが、錬金術師にとっては喉から手が出るほど欲しい『神霊蛇の抜け殻』がある。
鑑定すれば、「あらゆる熱と呪いを遮断する、伝説の衣料素材」。
「……これ、次の火山で使えるな」
「合理的です。マスター、この皮をなめしてインナーを作れば、マグマの中すら歩行可能です」
「お兄ちゃん! 勾玉もすごいよ! 冷たくて気持ちいい!」
白蛇の美容トラブルを解決しただけで、俺たちは「最強の耐熱素材」と「水の加護」を手に入れてしまった。
「やっぱり、人助けはしてみるもんだな」
「ご主人様のお優しい心が、幸運を呼び寄せたのですわ」
こうして、準備万端どころかオーバースペック気味になった俺たちは、今度こそ灼熱の火山ダンジョンへと足を踏み入れるのだった。
一方その頃、勇者たちは安い革鎧の隙間から入ってくる砂埃に、痒みと不快感を覚えてイライラしていたとか、いないとか。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも「面白かった!」「スカッとした!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、
ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆の爆発的なエネルギーになります!
ブックマークへのご登録も、ぜひよろしくお願いいたします!
それでは、次回もどうぞお楽しみに!




