第106話 生体太陽炉と、紅蓮の貴婦人 ~優雅なる殲滅の日傘~
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「さて、前衛・火力特化組の最後は……ダイヤ、お前だな」
俺がそう告げて、日傘を優しく閉じ、静かに順番を待っていた「灼熱の淑女」へと向き直った、その時だった。
「……マスター? わたくしたち、まだアップデートしてもらってませんぅ」
「……お歌のバージョンアップ、待ってますぅ」
俺の白衣の左右の裾を、小さな手がギュッと引っ張った。
双子のソナー担当、パールとコーラルが、涙ぐんだ瞳で俺を見上げている。
「おいクロウ。まさか私という『森の賢者』を差し置いて、この改造合宿を締めくくろうなどという傲慢な考えを持っていたわけではあるまいな?」
さらに背後から、プリムローズが腕を組み、冷ややかな視線と尋問のような圧を放ってきた。
「わ、分かってるって! だから『前衛組の最後』って言っただろ!? 双子のソナー強化も、プリムローズの調和術式のアップデートも、ちゃんとこの後に予定組んでるから! 拗ねるな!」
俺が慌てて弁解すると、双子はパァッと顔を輝かせて「本当ですぅ!?」と喜び、プリムローズは「フン、ならばよし」と満足げにスレートへ視線を戻した。
危ないところだった。うっかり彼女たちの存在を後回しにするところだった。
「ふふっ。ご主人様は、本当にモテモテでお忙しいですわね」
その様子を見てクスクスと笑いながら、純白のドレスを揺らして進み出たのはダイヤだ。
ドワーフの天才が『完璧な淑女』を夢見て創り上げた、歩く永久機関にして超高火力の化身。
「お待たせしましたわ、マスター。……さあ、わたくしの奥底にある『灼熱』を、貴方様の御手でさらに熱く、優雅に咲かせてくださいますわね?」
「ああ。ダイヤ、お前の火力はすでに規格外だ。だが、そのエネルギー源である『マグマの熱』には、どうしても出力の上限がある」
俺はダイヤの周囲をぐるりと回りながら、彼女の設計を再確認する。
「シルヴィ、ダイヤのコアの換装を行う。……地球の奥底の熱から、天に輝く星の熱(恒星)へと、彼女のエネルギーの定義そのものを書き換えるぞ」
「恒星……まさか、生体太陽炉を構築するおつもりですか?」
シルヴェリアが驚きに目を丸くする。
「その通りだ。アミィが『水の循環』なら、ダイヤは『光と熱の放射』だ。……プリムローズ、お前の調和で、彼女のボディが自身の熱で融解しないよう、極限の耐熱コーティングを頼む。サフィは核融合反応の臨界点を計算しろ」
「了解。……対象のドレスおよび表皮の分子構造を、星核鉄ベースの超断熱仕様へと再定義します」
「任せておけ。エルフの森の『白樺の魔力膜』を展開し、熱の暴走を完全に封じ込める!」
俺はアイテムボックスから、火山の奥底で回収した『濃縮・火精石』の山と、第一層で手に入れた純度100%の『オリハルコン』を取り出し、錬金釜へと放り込んだ。
「ダイヤ、少しだけドレスの胸元を開かせてもらうぞ」
「はい……っ。ご主人様の熱、わたくしの奥深くまで……注ぎ込んでくださいませ……♡」
ダイヤが頬を赤らめ、純白のドレスの胸元をわずかに寛げる。
そこに覗くのは、透き通るような白い肌と、その奥でドクドクと脈打つマグマのような紅い光。
俺はそこに直接手を触れ、シルヴェリアの生命錬金術の白銀の光と共に、俺の莫大な魔力を叩き込んだ。
「ああっ……! な、なんて凄まじい熱量……! わたくしのマグマが……星の光に、塗り替えられて……っ!」
ダイヤの身体が宙に浮き上がり、彼女の胸の奥から、文字通り「太陽」のような眩い光がマスター・ルームを照らし出した。
生命錬金術によって『疑似魂魄』を与えられた彼女のコアが、俺の魔力と火精石を触媒にして、超小型の『生体核融合』を開始したのだ。
「抑え込めッ! 『錬金極致・恒星再構築』!!」
俺の叫びと共に、光がダイヤの体内へと急速に収束していく。
同時に、彼女の手に握られていた真っ白な日傘が、主の圧倒的なエネルギー変動に呼応してドロドロに融解し、そして新たな形へと再結晶化した。
カッ……!!
すべての光が収まり、ふわりと床に降り立ったダイヤは、以前にも増して神々しいまでの美しさを放っていた。
透き通るような白銀の髪は、毛先がほんのりと朝焼けのような薄紅色に染まり、彼女の周囲には、陽炎すら発生させない、完全に制御された『絶対的な熱』がオーラのように微かに揺らめいている。
「……システム再起動。……生体太陽炉、臨界安定。……わたくし、生まれ変わりましたわ」
ダイヤが、新しくなった日傘を優雅に開く。
一見すると純白の美しいレースの日傘だが、その骨組みはすべてオリハルコンで構成され、傘の内側には、宇宙の星雲のように渦巻く『プラズマの炎』が封じ込められていた。
「完成だ。生体太陽炉と、その熱を完全に制御・収束する専用兵装『紅蓮天蓋』。……ダイヤ、お前はもうただの熱線砲じゃない。歩く『太陽』だ」
「歩く太陽……。ふふっ、最高の賛辞ですわ、マスター」
ダイヤは嬉しそうに日傘をクルクルと回し、そして優雅なカーテシー(お辞儀)をして見せた。
「試し撃ちだ。ゴルド、ダミーの用意を」
「御意!!」
ゴルドが、第四層の兵器の残骸を圧縮して作った、厚さ3メートルの超重金属のブロックを部屋の端へと設置する。
ダイヤは日傘を肩に掛け、すっと目を細めた。
「ごきげんよう。……『極光・白夜の微笑』」
ダイヤが日傘の柄を軽く指で弾いた。
ただそれだけだった。
熱線は放たれなかった。爆発音もなかった。
だが――ゴルドが設置した超重金属のブロックが、次の瞬間、音もなく『気化』した。
「なっ……!?」
俺は息を呑んだ。
融けたのではない。焦げたのでもない。
数千、数万度の熱エネルギーを『点』に強制収束させ、対象の分子結合そのものを一瞬でプラズマ化して消し去ったのだ。
「……分析完了。対象の消滅を確認。……熱の拡散率0%。周囲の気温変化0度。……信じられません。これほどの熱量を放ちながら、エネルギーのロスが完全にゼロです」
サフィが震える手で眼鏡を押し上げる。
つまり、ダイヤが本気で狙えば、隣にいる人間に汗をかかせることすらなく、標的だけを「太陽の中心温度」で蒸発させることができるということだ。
「わぁぁ……! ダイヤお姉ちゃん、お肉焼く時、絶対に焦がさないね!」
「……ええ。ルビィの言う通りですわ。これでもう、お料理も完璧ですわね」
ダイヤはパチンと日傘を閉じ、ふわりと俺の元へ歩み寄ると、そのまま俺の腕に柔らかい腕を絡ませてきた。
彼女の体温は、以前のような「近寄りがたい熱」ではなく、春の陽だまりのような、心地よく人間らしい温もりへと変わっていた。
「マスター。……この温かさも、新しい命の鼓動も、すべて貴方様がわたくしにくださったもの。……この太陽の熱は、永久に貴方様のためだけに燃やし続けますわ」
ダイヤが熱っぽい瞳で見上げてくる。
大地の母たるシルヴェリアの生命錬金術によって、前衛・戦闘特化組の四人は、ついに神々の領域へと足を踏み入れた。
「……さて。待たせたな、双子、そしてプリムローズ」
俺はダイヤの頭を撫でながら、部屋の入り口で期待に胸を膨らませている小さな双子のレーダー手と、腕を組んで不敵に笑うエルフの賢者へと向き直った。
錬金術師の狂気のアップデート合宿。その刃はついに、後衛・サポート組の「概念」すらも書き換えようとしていた。
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