*
心臓がばくばくしてる。夢なの? なに?
「仁科に頼みがあって。驚かせたのは悪いと思ってる。ただ、こうでもしないと、これから言うことを信じてもらえないと思ったから」
正面の白い1人掛けのソファで長い脚を組む神センは、申し訳なさそう。
「頼み、ですか?」
おずおずと私の口から出てきたのは、片言。
「まず、僕は未来から来た。アンダースタンド?」
私はぶんぶんと首を縦に振った。もう、夢かもしれなくても、とにかくこの空間の異質さ加減は現時点の地球上ではありえない。
「僕は未来から、天才を探しに来た。任務は、遺伝子レベルで排除されてしまった天才を、知識を身につけ、興味の対象を見つけ出した時点で未来の世界に連れて行くことなんだよ」
唐突過ぎ。
「天才?」
まさか、私が天才ってこと?
神センはソファの背もたれに体を預け、体の前で両手の指を組んだ。
私の不安をよそに、神センは話し続ける。
「僕がいる未来では、人間は遺伝子操作によって生まれる。
そのとき、劣性の遺伝子は排除され、優性のものが選択されてきた。そして、社会に適合した優れた人間によって、世界は平和に営まれている。
しかし、遺伝子操作で優れた人間を作り出してきたはずなのに、非常に模範的で画一的な人間の集合体となり、革新的な技術、社会、経済の進歩がなくなった。
特異な能力の遺伝子は劣性の遺伝子と表裏一体だったんだよ。
すでに排除されてしまった遺伝子、そのキャリアを未来へ連れて行くことが僕の目的た」
よーするに、遺伝子操作でうっかり捨てちゃったタイプの人間を未来へ運ぶってこと? 天才限定で。
「私はまだ、知識を身につけてもいません」
きっぱりと意思表示。
いくら私が天才だったとしても、恋愛だってしたいし、友達と別れるなんて考えられないし。それに、中学での硬式テニス部を楽しみにしてるんだから。
「あー、仁科じゃない」
急に神センは、耳の穴をほじほじ。
「え」
あ、そーなの? 焦っちゃったじゃん。
神センは呆れたようにこっちを見ている。小指で耳クソ飛ばしてるし。
だよね。どう考えても私、天才じゃないよね。一瞬でも図々しいこと考えて、どーもすいませんでしたっ。
「花園央治」
納得。花園君、ダントツにテストの結果いいもん。
「花園君か」
じゃ、なんで私がこんな目に合うわけ?
「というわけで、仁科に頼みたいことがある」
正面にいる神センの瞳がきらりと光った。
「はあ……」
「花園にせめて中学を合格させてやってくれ」
はぁ? なにそれ。




