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「あれ?」
パチパチと目を瞬かせる花園君。
「どうした、央治、大丈夫か?」
心配した橘君が花園君の肩をがしっと掴む。
「なんか変。オレ、足、痛くなねーし。焼肉食いたい」
「「「「「はあ?!」」」」」
あきれる周りの人たちに混じり、私はぎくっとした。
「とつぜん、どうした。央治?」
橘君は花園君の額に手を当てる。熱にでも浮かされたと思ったんだね。
「すっげー旨そうな焼肉の匂い、した」
花園君はいきなり、ぴょんと立ち上がってバイオリン姫をじーっと見つめる。今度はしゃがんでバイオリン姫の顔や胸に顔を近づけ、すんすんと匂いを嗅ぎ始める。
「ちょっと、花園く……ん、待って」
焦るバイオリン姫は、赤くなって右手で花園君を押しのけた。
「あれ? 右腕がヤバいって言ってなかった?」
モデルの言葉に、
「ん? 痛く……ない……かも」
とバイオリン姫は首を傾げた。
そして座ったまま、確認するようにゆっくりと右腕を動かす。
「念のために病院へ行こう」
神センがまだふらつくバイオリン姫を立たせながら言った。わざとらしい。
「大丈夫……です」
バイオリン姫はまだ意識がいつもほどではないのかも。
「ぜんぜん痛くありません」
花園君の方はいつも通り。
病院への誘いを断る2人の横で、橘君が私に話しかけてくる。
「なんかさっき、変じゃなかった?」
「え? 変って?」
しらばっくれる私。
「九条さんと央治の体が一瞬ですっげぇ動いたような」
ぎくっ
「目が疲れてるとか?」
ごまかした。2人に一瞬前と全く同じポーズを取らせるのには無理があったんだ。
「そうかも。央治もそーかも。疲れてるのかも。ははは。いきなり『焼肉食いたい』って」
橘君が笑う。
「あははは」
つられて私も笑う。ちょっと引きつり気味に。
「あれ? 焼肉の匂い、するかも」
橘君まですんすんと匂いを嗅ぎ始めた。私の。近い近い近いよ。ピンチ。
「トイレ行きたいから、先に戻るね」
私は走って逃げた。
念のため、バイオリン姫と花園君は家の人が迎えに来て、帰って行った。




