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次の日、元気な姿で現れたバイオリン姫と花園君に、みんなはほっと胸をなでおろした。
その日の花園君のお弁当は焼肉だった。
「よかったね、焼肉食べられて」
私の言葉に、花園君は天井に目を向けた。
「なんかさ、オレ、神センに男としてバカにされたような気がするんだよな」
まさか。それって。
『こんな貧弱なガキンチョの体見たって、幻滅するだけだ』
あの言葉聞こえてたの? まさかね。意識なかったはず。
「央治、まだ言ってんの?」
橘君があきれてる。既に聞かされていたらしい。
「なーニカ、昨日オレ、最初すっげー痛かったんだよ。でさ、痛くなくなる前、神センとニカの声が遠くに聞こえてたような。なんか変だったんだよな」
ぎくっ
「そーなの? 私も神センもみんなと一緒にいたもんね」
自分でも言い訳が今一つって分かってる。
こんなときは、トイレにそそくさと逃亡。天才、恐るべし。
治療のかいあって、バイオリン姫は無事コンクールの予選を通過した。
自己ベストか。カッコ良過ぎ。
事故の後、バイオリン姫と花園君のツーショットをよく見かけるようになった。モデルがやきもきしている。
「もう、つき合ってんのかな」
モデルは眉をハの字にして心配してる。そんな顔まで可愛い。
「まさか。だったらきっと、教えてくれるよー」
私、こんなこと言ってるけど、本当はバイオリン姫は話さないって思ってる。だって、モデルも花園君を好きって分かってるから。
ちょうど渦中の2人がいなかったから、橘君と生徒会長に面白半分に聞いてみた。
「ねえねえ、三上さんと九条さんだったら、花園君はどっちを選ぶと思う?」
もう2人が花園君を好きってことは、このメンバーにはばればれ。
「えー。難しいな。ってかさ、2人しか選択肢がないってどーなの?」
生徒会長が気の毒そうにモデルを見る。
「あー、央治って、たぶんそーゆーの、全く興味ねーし。あいつ、女の子より、時事放談のジジイが好きだし。女の子より、牛肉だし。パソコンだし」
「そこまで選択肢の幅広げなくちゃいけないんだー。花園君らしいねー」
妙に納得してしまう。
「ちょっと、ニカ、面白がってるでしょ。そんな風だったら、ニカが誰かを好きになったって、協力しないからね!」
モデルが下唇を突き出して私に抗議する。変顔までかわいいってずるい。
私が男だったらどっちだろ。
スーパー可愛くて、気配りできて友達が多くて、一緒にいて楽しい女の子。超女子力高いモデル。
スーパー美しくて、上品で努力家で献身的な女の子。物静かなタイプのバイオリン姫。
激しくどーでもいい。
バイオリン姫から「本選では賞に選ばれなかった」と報告を受けたとき、季節は冬に移っていた。塾前のイチョウ並木は木の葉を落とし、ついでに銀杏も落としてくれた。臭い。




