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この手をつかみたくて2  作者: えみっち
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5/10

5

 用意ができるとすぐに四人は出発した。

テンションが上がっているのか、車の中では陸が一人でしゃべっていたが、その明るさに美鈴は助けられた。後部座席に一緒に座っているあきは、車に乗ってからずっと窓の外を見ていて、目を合す事も話す事もなかった。

車は一度ドライブインで休憩をとってから山道へと入って行く。

山の木々は随分と落葉しており、曇った空が寒々しい。途中からあきの案内で、舗装もされていない山仕事をする人だけが通るような細い道へと入って行った。以前、陸とバスから歩いて行った道とは違う道だった。車一台がやっと通れるくらいの道に車に乗った面々に緊張が浮かぶ。


「なあ、神さん。これって道ギリギリだけど、もし行き止まりでUターン何て事になったらバックで戻れるの?」


自分の左側がガードレールもない崖であることに顔を少し歪めながら陸は神に尋ねる。


「さあな。それより山から下りてくる車がなければいいんだがね」


何ともなさそうに答えるが、神の車はBMWで、こんな山道を走るようなスポーツタイプでもない。


「もう少し行けば広い場所に出る筈だから、そこに車は置いて歩いたほうがいいと思うの」

「そうしましょうかね」


あきの言葉に神は頷いた。

時刻は3時を過ぎていた。



車を降りてから30分は歩いただろうか。

4人が乗り捨てられている車に辿り着いた時には辺りを薄暗い闇が覆っていた。

車には枯葉や埃がこびりついており窓ガラスも割れて無残な状態であった。


「多分これ。同じ車種だし色もそうだと思う」


美鈴は指で車の泥を落としながら三人の方を見た。陸は、車の中を持っていた懐中電灯で照らしながら覗き込む。


「窓壊されているけど中は外ほど汚れていないね」

「…私たちが見つけた時には、壊されていなかったのに」


あきは、3人から一歩下がった場所から車を見ながら言った。


「最近、壊されたのかもしれないな」


神は、陸から懐中電灯を受け取ると中を覗き込んでからドアノブを見つめる。ノブに手を掛けるとドアはすんなりと開いた。


「鍵がかかっていないんだ」


陸も神の後ろから覗き込む。

ダッシュボード、ドアのポケットなど一つ一つ調べて行くが手がかりになるような物は何も入っていない。神はため息をつくと車の中から出て来た。


「普通、ダッシュボードに車検証くらい入っていそうなもんだが、何もないときたもんだ。窓を壊した奴が持って行ったのかもしれないし、そもそも裕助のヤツが入れていないかだな」


服の泥をはたきながらぼやく。


「結局、手がかりがなかったって訳?」


がっかりしたように言う陸の言葉に美鈴は首を振った。


「でも、車のナンバーは確認できたから裕助の車だって事は分かったよ」


神も頷いた。


「どんな用があったのか分からないが、ここまで来たのは確かってことだ」

「… …」


陸は、美鈴の顔を見たが何も言わなかった。陸が言いたいことは分かった。

裕助の残したメモだ。

メモの人物がここにいるのだ。


「すっかり暗くなってしまったな」


辺りを見回しながら神は時計を見た。先程より暗くなっており、お互いの顔も見えずらいくらいだ。気温も下がり肌寒むい。


「車に戻ろう。彼女を送らないといけないしな」


神の言葉に4人は元来た道を歩きはじめた。暗い山道を歩くには1本の懐中電灯の明かりでは頼りなかったが、あきはそんな不安な様子もなく早足で先頭を歩いて行く。神がその後ろを歩いて足元を照らしていたが必要なさそうなくらいだ。美鈴と陸は神のすぐ後ろを黙ってついて行く。

15分くらい歩いただろうか、神は急に足を止めて先頭を歩くあきを呼び止めた。


「おい、道が違うんじゃないか?」


神の言葉にあきは足を止めた。しかし、振り返らずに立ち止まったままであった。動かず黙ったままのあきを心配して美鈴が傍へと歩いていく。


「どうしたの?あきさん迷っちゃったの?」


美鈴の声にも振り向かない。


「おい、美鈴。あまり道の端へ行くなよ。崖だぞ」


神の声に振り向いた時、自分の体に突然強い衝撃を受け横へと飛ばされた。

何が起きて飛ばされたのかはまったく分からなかったが、体が倒れて行くのはスローモーションのように感じながら分かった。


「美鈴っ!」


陸の声が聞こえ手を掴まれたが、倒れて行く自分の体をどうすることも出来なかった。


「陸っ!美鈴っ!」


神は懐中電灯の明かりを二人が落ちて行った崖の下へと向けたが二人の姿を見つけることはできなかった。先程まであきが立っていた場所には、誰もいない。辺りを見渡したが人の気配もなかった。


「くそっ!」


神は、ポケットからハンカチを取り出すと近くの木の枝に結び付ける。

そして急ぎ足で道を戻りはじめた。


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