綺麗になるには
でも、どうやって?
彼に告白する前は、無駄な努力であっても、綺麗になろうと頑張っていた。そのままの私を好きになってもらえると思うほど、慢心していたわけじゃない。やれることはすべてやってきたつもりだ。途方に暮れ、空を見上げる。夜の星は美しい。あれほどの輝きを放つためには、一体どれくらいの年月が必要なのだろう? 何百、何万、何百万の歳月をかけ、あの美しさを持てるようになったのだ。私には、一体何年必要なんだろう?
道の脇で、星の美しさに憑かれている頃、杖を突いて歩くお爺さんが現れた。のそのそと歩きながら、私を見つけると、ゆったりとした動作で顔を向け、話しかけてきた。
「こんなところで、夜で一人とは、珍しい。お嬢さん、何かあったのかい?」
「いえ、別に何もありません……」
「何もないのに、貴女は、どうして泣いているんだい?」
咄嗟に顔を逸らす。自分が泣いていることなんて、気づかなかった。いつからだろう? 少なくとも、お爺さんが話しかけて来たときには、おそらく。お爺さんは何か事情を察したかのように優しく微笑み、話しかける。
「なにか、嫌なことがあったのなら、話してごらんなさい。友人に話すより、二度と会うかどうか分からない人間に話した方が、気が楽なことだってありますよ」
お爺さんの唐突さに少々驚きもした。しかし、皺が入った顔を覗いているうちに、私を騙すためではなく、善意でこうしてくれていると感じることが出来た。確かに、知らない人なら少しばかり吐露しても、後で噂になることもない。大丈夫かもしれない。
「私、美しくなりたいんです」
「美しくとな? 貴女は十分美しいではないですか」
「違います。私は美しくありません。彼の求める美しさではないのですから……」
「貴女なりの美しさでは、ダメなのですか?」
「ダメです。それでは、彼は振りむいてくれません。私は彼に振り向いてもらいたい。彼の求める美しさになりたい。そのためなら、私、どんなことでも」
お爺さんは、深いため息をつき、私に憐れみと同情を示した。そして、思案するように物にふけ始め、一つ、私に案を出した。
「もし、美しくなりたいというなら、方法がないとは言えません。しかし、それはあまりに危険で溢れております。それでもよいのなら一つ教えてあげましょう。ここから北へ遠く、それは遠く離れたところに、針のように鋭い山脈があります。その山脈の頂上辺りに、それは美しい首飾りがあると言われています。その首飾りの美しさは見るだけで人は憑りつかれたようになるとか」
「その話は、本当なのですか?」
「ええ。しかし、その山脈は幾多の人々を拒絶しており、登ろうとした者が戻ってきたという話は聞いたことがありません。それだけではなく、首飾りに魅了された怪鳥が、首飾りを誰にも渡さんとずっと守っているという噂もあります。そうなった場合、たとえ見つけたとしても……」
その後の事は話すだけでも恐ろしく、お爺さんは語ろうとしなかった。重々しく話すときの表情を見るだけでも、この話はずっと語り継がれている伝承であり、嘘でもなさそうだ。信じてみる価値はあるのかもしれない。
「私、行きます」
「……止めはしません。後悔の無いように生きていくことが大切です。ただ、忘れてはなりません。貴女はそのままでも美しいのです」
「ありがとうございます。それでは」
お爺さんに別れを告げ、歩みを始めた。たとえどうなったって関係ない。綺麗になるためなら、何でもするって決めたのだ。
天の光が少しだけ、私の歩く道を、照らしてくれる。




