振られた彼女
「わかった……。私、もっと綺麗になる」
彼にふられた。ダメで元々なのは知っていた。それでも、この身の想いをどうしても伝えないと、やりきれない気持ちがあった。あわよくば、なんて怖れ多いことは考えなかったけど、もし少しでも希望があるなら、という気もあった。
その浅はかさは見事に打ち砕かれた。いや、そもそも、期待をしていること自体が彼に対して失礼だ。私の見た目は、彼のそれと釣り合わない。何もかもが揃っている彼に比べて、私は魅力の一つもない。大きな目、グラマラスな体、指先までシルクのヴェールがかかるような美しさ、どれ一つとして揃っていない。私は所詮、道でよく踏みつぶされる雑草なのだ。
彼は言った。
「僕は綺麗な人が好きなんだ」
たったそれだけ。その言葉を残して、彼は去っていった。
当然といえば、当然だった。彼の隣は綺麗な人が一番映える。そこを私が居座ることになったら彼を汚してしまう事に他ならない。彼への思いはあっけなく砕かれた。
暗い夜道を途方に暮れながら歩いていた。彼に告白した自分を少しばかり誇りに思い、こんな私が告白してしまったことへの謝罪を込めながら。
彼の言葉を頭の中で反芻させる。
綺麗な人が好き。
もし、もし、私が綺麗になれたら。
仄かに現れた疚しさを振り払うように顔を振る。そんなことはありえない。雑草のような私がどれだけ努力をしても、たかが知れている。こんな特徴のない体に化粧を施しても、見るに堪えないものが、かろうじで見えるようになるだけ。化粧というのは、もともと備わっている美しさをよりよく魅せるために行うことだ。私には美しさがないから、意味がない。
私が綺麗になれるのなら。
仮に、私が彼を振り向かせられるくらいの美貌を持っていたら、彼と一緒になることが出来るのだろうか? 一緒に出掛け、他愛のない話をし、二人で夜を過ごすことも。さっき打ち砕かれたはずなのに、こうもたやすく、想いを募らせてしまう。
もし、彼が他の人と一緒になったら? 一番想像がしやすい事であるし、その方が彼にとっても幸せなはずだ。
それなのに、そのことを考えると、胸の中に暗雲が立ち込めてくる。やっぱり、悔しい。彼と、一緒になれないのが、悔しい。
私が綺麗になれるのなら。
私は、なんだってする。




