山脈を登る
山脈が見えるまで、ずっと無心に歩き続けた。足が鉛のように重くなるのを感じても、止めることだけは私自身が許さなかった。夜も更け、少し仮眠をとろうと考えたが、それもすぐに振り払った。そうして休んでいる間に彼が誰かの物になることを想像すると、胸が引き裂かれる思いになり、その苦しさが、歩む力となった。
夜が明け、太陽が大地を照らす頃、お爺さんの言っていた山脈が見えてきた。天蓋の光を受けて尖った山々は、静謐な雰囲気を出していた。拒絶をしているのではなく、神聖な空気によって、人間自身が自らその山に手を出さんと身を引いているのだと思わせた。そこに私は、踏み入るのだ。
吹き荒れる風が、山道を登る足元を狂わせる。人の手が全く入っていない山を登るのは、一苦労だった。どこも自然のままで、道標もなく、岩の壁は指先すら掴むところも与えない。転がっている石もごつごつとして、触るだけで肌に傷をつけられる。
そのせいか、ここには動物の気配が少ない。ここでは食料の調達をするだけで生命の危機に晒される。住んでいるのは鳥類くらいだ。翼を持った鳥たちなら飛んでいけるし、住処を脅かす外敵もこの山の群が防いでくれる。まさに理想の拠点なのだろう。
山脈から飛び立つ鳥たちは、翼に風を纏い太陽の光で照らされる。優雅で、気高く、美しかった。私にも、翼があれば、美しくなるのかな。




