第1話
『雪は融けるが、わたしの願いは融けない』
もう見慣れたセリフが大きく斜めに入ったポスターが目に入る。
相手役の桜野大輝と私、華鳥秋桜子が雪の中で抱き合っている。
わたしのデビュー作『淡雪の剣』。
今でもどこかで、繰り返し上映されている。
その映画が、今の自分を作ったのは確かだ。
ただ、もうそこに戻ることはない。
早歩きで通り過ぎる。
今日は舞台の読み合わせがあったので少し疲れ気味だ。
「明日は萬葉さんも参加されるから早く帰って準備しないと」
そう呟くと、俯きながら駅へと向かう。
二人の男が前を塞ぐ。
「お姉さん、顔綺麗だね、女優みたいだ。それに…」
男の一人が私を舐め回すように見る。
「プロポーションもいい、グラビアモデルでも通用するね」
最近は、声をかけられることも減ってきた。
その代わりに、こういう手合いが増えた。
以前は、そういう声に足を止めたこともあった。
あまり思い出したくはない。
無言で男を避けると、そのまま駅へ向かった。
もうどれだけ走ったのだろうか。
見えない森の中を走り続ける。
暗闇の中だ。
厚手の、ゴワついた服を着ている。
なぜ走っているのか、理由はわからない。
ただ、止まれば終わる気がした。
カシャカシャといった音が聞こえてきた。
それが次第に大きくなり、森全体に響く頃――月明りの中に現れた。
真っ白に輝く骸骨の群れが浮かび上がる。
見つからないように木々の間を縫って走る。
突然、視界が途切れた。
手を伸ばし、慎重に前へ進む。
遠くから、あの音が迫ってくる。
それでも、足を止めない。
しばらく進み、足を止めた。
振り返る。
いつか現れるそれを、待ち構える。
音が近づいてくる。
そして――現れた。
それが。
月光に照らされたその群れは、白一色だった。
剣や槍・棒などの武器を持っている。
歩いているのではない。
地面の上を、滑るように進んでいた。
何かが横を通り過ぎた。
次の瞬間、身体が崩れた。
音もなく、輪郭がほどけていく。
白い光が、静かに広がった。
——それで、終わりだった。




