表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

第7話

突然、クラクションが鳴った。

はっとして、後ろに飛び退る。

信号は、赤だった。

さっきまで、そんなはずはなかったのに。

身体が、重い。

気分も、悪い。


横断歩道に1台の派手な赤い車が停まった。

「あら。華鳥さん、奇遇ね」

助手席の雪野さんが声を掛けてきた。

わたしは無言で会釈だけする。

ただひたすら信号が変わるのが待遠しい。

「秋桜子じゃないか。何処に行くの?」

「乗せてくよ」

「話したいことあるし」

運転席から乗り出して来たのは桜野さんだった。

わたしは、目を逸らした。

それにしても横断歩道で停まるなんて相変わらず好きになれない。

雪野さんがニヤニヤ笑っている。

「大輝さん。華鳥さんは具合悪そうよ」

「また今度お誘いしましょうよ」

雪野さんが甘ったるい声で桜野さんに囁く。

「なに!?それは大変だ」

「雪野、降りて!」

桜野さんが車を降りて助手席の雪野さんを降ろそうとする。

「何故!?私が降りるの!?」

雪野さんが降ろされないよう、突っ張ってる。


周囲がざわめき出した。

人気俳優と人気声優?それも美男美女の痴話喧嘩が起きそうなのだから当たり前だ。

関わらない。

漸く信号が青に変わった。

わたしは少し離れたところから渡った。

振り返らず、走り出す。

稽古場まで走り続けた。


稽古場には萬葉さんの他に何人か来ており、それぞれ開始までの時間を待っていた。

「おはようございます!」

わたしは少しふらふらするが精一杯の声で挨拶する。

「おお。華鳥。おはよう」

「どうした。また顔色悪そうだが。」

やはり萬葉さんは騙されない。

「駅から走ってきたので…少し疲れてしまっただけです」

「着替えて来ます」

そう言って歩き出した瞬間、足が、わずかにもつれた。

わたしは萬葉さんの顔を見ずに更衣室へと向かった。

更衣室の鏡の中のわたしは、思っていたよりもずっと疲れていた。

なんでこんなに疲れてるんだろう…。

あの二人に会ったからかしら。

今日も立ち回りなんだから切り換えないと。

顔を洗う。

水が、やけに冷たく感じた。

素早く稽古着に着替え、稽古場へ戻る。


稽古場には全員揃っていた。

程なくプロデューサーもやって来る。

「今日は『秋楽』が父親に追われて、未だ『秋楽』が鬼の娘だと知らなかった頃の父親の言葉を思い出して、父親と戦うシーンです」

「『秋楽』が思い出す萬葉さんのセリフから始めます」

プロデューサーのシーンの説明を聞き、わたしと萬葉さんが中央に移動する。

「では、始め」


『どんなに相手が強くても諦めるな』

『お前を倒そうとする限り相手は寄って来る』

『見えなくても、そこにいる』

『そこにいるなら、触れられる』

『触れられた時が、好機だ』

萬葉さんの厳しさと優しさの混じった声が静かな稽古場に木霊する。

わたしは頷くと木刀を持って萬葉さんと対峙した。

萬葉さんが木刀を振り下ろす。

萬葉さんの木刀を掴んだ。

寸止めの筈だが痛さで木刀を離しそうになるところだった。

口が、勝手に動いた。

『捕まえた!』

わたしは構えた木刀を萬葉さんに突き出した。


「待て!華鳥!」

「え!?」

わたしは真っ赤になった自分の左手と右手の木刀を見た。

木刀は萬葉さんにぶつかっていた。

手に、何かが残っていた。

木刀の感触じゃない。

もっと、重くて――

確かに、触れていた感覚。

「華鳥、セリフも殺陣もまるで違うぞ」

「ここは俺の攻撃を避けて避けて、最後に俺の剣を弾くんだろう」

萬葉さんが台本を見ながら説明する。

背中が、冷たくなった。

「待ってください」

プロデューサーが今気付いたかのように萬葉さんに声を掛ける。

「今の華鳥さんの方が『秋楽』が生きるのに必死さが出ていいですよ」

「ただ木刀を掴むのと、突くのは危ないので無しです」

プロデューサーさんが嬉しそうに笑う。


「華鳥、いつの間にこのような手を覚えたんだ」

「わたし…どんな動きしました?」

「なんだ、覚えてないのか」

わたしは何をしたのか本当にわからなかった。

「無の境地、というものか」

「そういや、顔色もよくなったな」

わたしは自分の顔を触ってみた。

顔色がわかるわけもないのに、少しだけ、楽になった気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ