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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第十九巡 無題
142/143

神社でお祭り。一年祭です。

予約日一日間違えてました。申し訳ありません。

ああ、毎日更新が。。。

 塔の火事の翌々日、早朝。

 一年祭が始まる。

 ぞくぞくと、一族の者たちが神殿に集まって来ていた。

 亜希も、冬沙も、冬太もいる。

 ひかりも、身を小さくして座っていた。ノーメイクの顔には、猫のひっかき傷が残っている。

 ひかりの伯父、冬尚はいない。

 冬尚は、救急車で運ばれたが、病院で死亡が確認された。

 七年祭の年に生まれたが、七縛りではなかったのだ。

 毎年、祭りには自主的にきちんと来ていた。強制的に招集されたことがなかったのでわからなかった。葬儀は後日営まれる。

 冬季もいない。

 代わりに、血にまみれた装束がビニールに包まれて持ち込まれていた。家長の冬俊の指示だった。

 冬季は心拍を取り戻したが、病院へ搬送後に緊急手術を受け、まだ集中治療室の中にいる。様々な機器に繋がれていて、とてもじゃないが病院から連れ出すことはできない。奈々谷津系列の病院への転院もできなかった。

 そこで神谷家家長冬俊が神宮にお伺いを立てたところ、おほらさまから大量の新鮮な血でも良いとの回答を得たらしい。

 意識も戻っていない。予断を許さない状態が続いている。

 七年祭を待たずに怨霊が退治された話は、すぐに村中に広まった。

 その代償として、三人の七縛りがその資格を失った。うち一人は七縛りではなかったため死亡し、今一人は怨霊冬光を洞に入れ、調伏のためにお洞様の元まで運んだ。そうして、意識不明の重態になっている残る一人は、その洞に協力してくれた別の神をとりこんだためにその資格を失った、と。

 塔に現れた、冬生をとりこんだモノは、まだ冬季の中にいるらしい。

 亜希から事情を聞いた冬俊が神宮に尋ねたところ、その正体は冬光の弟にして、先代神宮忠冬と冬季の師匠でもある、神谷冬清(とうせい)という名だったモノだと言う。

 新たな神。それも、神谷の家系の者。

 おほらさまは、洞に棲むことを認めているようだという。配下の者ができたという様子で機嫌がいいと。そもそも、その洞にはおほらさまを入れる資格が失われていたので、どうでもいいという感触だったそうだ。

 おそらくは、冬季の生死さえも、どうでもよかったのだろう。

 棚ぼたで、良いものを得たと。

 二人、神殿にスーツの男が混じっている。

 冬季の装束が入ったビニール袋の見張りだ。無理になんとか借りてきたものの、死者が出た火事だ。調査上、一時返還は見張り付きが条件になったのだ。

 そのため、皆、無駄話もせずに儀式に臨んでいた。

 ひかりが塔から自力脱出して神社に出奔したという偽情報を流したことについては、猛烈に怒られた。しかし、そうしなければ消防は居もしないひかりを探しに塔に入った可能性があるし、神社への転移などというオカルトな話をその場で説明して納得してもらえたはずもない。警察も絡んだおかげで、二年前の事件にかかる転移の実証実験例を説明され、消防と所轄の警察は途方に暮れていた。

 一番隅っこに、水路の水で手足を洗い頭から水をかけられた見張りの遊園地の所轄警察署の刑事たち。その隣りには、冬季の甥の柴田杞冬。更に隣りには、深見冬太が陣取っている。

 その三人以外は、常の並び順で座している。

 神谷家、宮内家、外宮家に連なる七歳以上の者全員と、七家の家長及び後継者、そして神職ら。

 総勢三十人プラス刑事二名が神殿に入っていても、そのスペースには余裕がある。おとといの夜は、同じくらいの人数の霊たちが並んでいたはずだ。

 亜希が夫の冬一に聞いたところによれば、七家の者たちはほぼ途中でダウン、その後の呪物の調伏で意識を保っていたのは七縛りの大人、神谷家家長の冬俊と宮内家家長の冬一、冬俊と冬沙の長女である十六歳の未冬だけだったという。ほかの幼い七縛りはそもそも参加していなかった。

 ひかりが水路から猫とともに浮上して来た時にはその三人しか神殿で動けるものがおらず、やむを得ず三人でひかりと猫を救出、暴れるひかりを頭を出した状態で濡れたまま布団でぐるぐる巻きにして神殿に転がした。その状態で、冬光の調伏がなされたという。

 これまでの神宮には追い出すことしかできなかったが、今代の神宮はついに、冬光を新たな神として祀り上げることに成功したという。

 ひかりの洞の中に納めたままで。

 緒良田神社は、新たに三柱の神と、二人の神宮を得たことになる。

 そこまで詳しいことは、まだ全体には知れていない。神宮のほかは、三家の家長と相談役、亜希と冬太と冬沙、そして七家の代表の一谷の家長のみが知っている。

 実際、彼らの今後がどうなるかは、わからないのだ。

 亜希が火事の調査から解放されたのは昨日の夜。自身も軽傷者にカウントされたため、診察も受け、現場検証だの事情聴取だのがあった。戻ってきてから夜中すぎまで、三家長と一谷家長、相談役と亜希の六人で今後の方針等を決定した。

 奈々谷津ひかりは当座の間、神殿預かりとする。その後、外宮か一谷の者と婚姻もしくは養女とし、奈々谷津家から出す。奈々谷津家は死亡した冬尚の妻の元に一谷から養子を出し跡継ぎとする。

 ひかりの中にいる冬光は神谷の血筋。おほらさまにとっては同じ怨霊出身の神でもある。彼女が今後、神殿から外に出られるのかもわからない。

 神谷冬季はどこまで体を回復できるか不明であるが、先代神宮外宮忠冬の画策により、財界のバックがついている。幸い、三尾の養女、二屋の娘との交際が発覚したことから、二屋家の再興を目指し、娘の養子縁組を解消のうえ冬季を婿として入れ、娘を二屋家の家長とする。三尾にはもともと跡取りがおり、善意で養女としていたものであることから特に穴埋め的なことは求めてこず、二屋家のフォローも約した。

 今後、回復すれば彼は自身の状況を解読するだろう。彼のなかの神二柱は、怨霊ではない。おそらく、神社に封じ込める必要はないだろうが、街中に出して大丈夫なものかまではまだわからない。

 冬季の甥の高校生、柴田杞冬については、もともと、母親の親子ほど年の離れた再婚相手には実子がいた。その兄が海外赴任から戻れば同居する予定になっており、冬季は期限付きの同居人だった。一応、神谷家家長の冬俊が実父ではあるが、その庇護下に入れることは却下した。ただ、七縛りではあるため、祭りへの参加と七年祭の際には念のため神宮になる心構えで参加することを条件に、自由にさせることにした。彼はすでに将来に向けて動いていることが確認できているし、冬季への恩が強いことから、その条件で問題ないと思われた。

 あとは、今回新たにかかわった、先代神宮忠冬の孫、田中篤と、冬音の息子、森山昴の処遇だ。

 田中の父はもともと、奈々谷津の病院の勤務医だ。篤は七縛りではないうえに、その母、冬子も神宮にはならなかった。二代神宮が出なければ七縛りは生まれない。田中の家では、相続に興味がなく、家で把握している冬子の預貯金のみであれば相続税なども関係ないと放置しているようだった。忠冬の相続関係はいまだ進んでおらず、その財産の把握もできていない。冬子の資産も、冬子が祭りの参加にかかる報酬を神社側に任せきりにしていたため、長年の報酬が手つかずで残されていることがわかっている。忠冬と冬子の相続関係の整理に協力する旨、申し出ることとした。

 昴も、今後七縛りが生まれる筋ではない。篤と違うことは、彼が冬光に憑りつかれ犯罪者扱いされる冬音の息子であったため、父方の縁も切れて天涯孤独の身であることだ。

 彼については、勤務先が二屋家の遠戚であり、養子にして跡継ぎにしたい旨、一谷が相談を受けていたので、本人と二屋の遠戚の意向確認後、その方向で進めることとなった。

 ほんの一~二時間の仮眠を経て、一年祭の準備が始まった。

 今日はもう、冬季のことを気遣ってはいられない。

「こんにちは」

 村内を練り歩く神宮一行を送り出したあと、亜希が神社の社務所脇に設営したテントにいたところ、声を掛けてきた女性がいた。

 塔で百物語を語っていたという、岩田知世だ。

「こんにちは、遠かったでしょう?」

 せわしない時ではあるが、彼女は神宮の関係者だ。

「電車はたいして。駅前からの送迎バスで来たし、そんなにかからなかったですよ。今、出て行くとこ見てました。一応見られたので、あとは適当に楽しんで帰ります。冬季君が元気になったら、一度集まりましょうね」

 忙しいのはわかったのだろう。岩田はそれだけで行ってしまった。冬季か冬太がいればよかったのだろうが、冬太は冬季の代理で神宮一行について行ったし、亜希は実質総括のナンバー二なので忙しい。それに、ちょうど席を外す理由が別にあるので行かなくてはいけない。

 なんとか引き止めないと、と思いつつ見れば、目の前を三尾菜摘が歩いていた。冬季の交際相手だ。

「なみちゃんっ!」

「はい?」

 菜摘は、淡々と自分の作業をしているらしい。冬季のことは伝えられているが、まだ一番近い身内である杞冬でさえ会えていない状況だ。本当は今日、一番近い身内だけなら会えると言われていたのだが、杞冬も神宮一行について行っているので、明日行くことになっているのだ。

「あそこの肩掛けバッグの女の人つかまえて、一緒に行動しててくれない? なみちゃんの仕事手伝ってくれると思うから。話したいんだけど時間なくて、引き止めてほしいの」

「わかりました。深緑のバッグのセミロングの人ですね。私は神楽の稚児舞のあとは食堂手伝いなんで、連れまわしてます」

「よろしく」

 菜摘が岩田を追って走って行く。余計なことは聞かない働き者だ。やや個性的だが、冬季がそこを問題としていないのであれば問題はない。

「すぐ戻る」

 近くの者にそう言いおいて、亜希はテント脇のくぐり戸を通って、住居側に抜けた。

 玉垣の向こう側。くぐり戸を抜けると、水路を通るたびに衣装が濡れるため、作られた乾燥室と、倉庫の間に出る。倉庫の向かいには警備室と関係者の控室及び住居があるが、倉庫とその建物の間を抜けて表に出れば、神社で行き止まりになる道路を挟んで参拝者用の広い駐車場になっている。今日は、道路沿いに出店が出ており、人がひしめいている。祭りのため、市街地や駅から送迎バスが出ているので、中高生も多い。

 亜希は人並みに紛れて駐車場の端に行く。

 さきほどちらりと視線が合った女が、壁と車の間、亜希の向かいから入ってきた。

「冬季の周りの患者がどんどん回復してる。集中治療室では気づいて患者を並び替えたりしているそうよ」

「マジか」

「新たな能力の覚醒ね」

 女は楽しそうに言い、出店の焙煎珈琲を口に運ぶ。

「新たな神二柱が入ったのよ。怨霊冬光の弟冬清と、冬光の子冬生が神になって入った」

「豪勢ねえ。病院はこちらで抑えるから、無理に転院させなくていい。死なせなかったことをほめてこいと言われたわ」

「そりゃどうも。あとは?」

「ない。そっちは?」

「怨霊冬光は調伏され新たな神になった。奈々谷津ひかりが神宮」

「了解。一週間以内に会いたいそうよ。詳細はその時に」

「わかった。タイミングは連絡する」

「じゃあね」

 かつての同僚は、女の子のキャラクターが描かれた綿あめを大事そうに抱えて道路に出て行った。堪能して帰るのだろう。何事も楽しめるのがこの友人の特技だ。彼女はあんな感じで全国をうろうろしているのだというが、目立つこともなく警戒されることもなく情報を集めるプロとなっている。

亜希は表に抜けて、神宮一行の行列の最後尾を眺め、鳥居から神社の敷地に戻り、周囲の状況を確認しながらテントに戻った。

 亜希は、普通に恋愛結婚をした。

 今の女を含む大食い女子仲間で、県内のほかのお祭りに行ったときに、亜希は酔っ払って石段を踏み外した地元のおっさんの巻き添えで転落し、複数の骨折により入院した。その入院先で、宮内冬一と出会った。ちなみに、おっさんは亜希のおかげで打ち身のみだった。

 冬一が特殊な家の者だと知ったのは、つきあいが深まってからのことだった。

 結婚後、妊娠を報告したら、退職を勧められた。

 マタハラかと思ったら、別任務への従事を懇願された。

 早い話、旧緒良田村へのスパイだ。

 何をしろというわけではないが、おかしな方向へ向かわないか監視しろということだった。

 実際、旧緒良田村内はうまく回っていた。市町村合併の必要もなかった。合併を勧めたのは、先代忠冬だったという。

 国と情報をやりとりする者は、常に一人以上いたのだという。

 近年では、奈々谷津昌子が二年前に亡くなるまでやっていた。すでに高齢だったため、そのサポートを忠冬がやっていたという。忠冬が神宮になってからは亜希がサポートに入り、昌子の死でメインは相談役を継いだ神谷祥子に移った。亜希は変わらずサポート側だ。

 亜希たちの存在は、村の上層部では把握されている。ただ。一人だと思われているだけだ。今は祥子だけだと思われている。忠冬なぞは、そうだったことも知られていないだろう。

 特に、なんの工作をするわけではない。常に、この村が、神社が、国のためどうあるべきかを考えて行動し、定期連絡を欠かさないだけのことだ。

 緒良田村にも緒良田神社にも野心はない。なので、今の主な方針は、健全に代を継いでいく補佐をすることだ。

 心の健康な人間を育てていく。諸々健全に村を発展させていく。

 前者に多く貢献したのが忠冬であり、後者に多く貢献したのが昌子と亜希だ。

 昌子が相談役という地位についたのは、奈々谷津家と一谷家の才による。

 奈々谷津から一谷家に嫁に入った女から生まれたのが昌子で、昌子は更に奈々谷津家に嫁に入った。一谷家の昌子の従兄弟の子が冬春の妻となった春子で、彼女は夫亡きあと、奈々谷津家を一大企業にした。

旧緒良田村において、奈々谷津家はもともと外向きの仕事を総括する一族で、一谷家は医療と警備を担いつつ、七家をまとめる一族なのだ。

 三家筆頭である神谷家は村と神社の中心、宮内家は神社内の総括、外宮家は神社としての外向き仕事を担う。村時代には、三家と七家から議員を出していたが、今は一谷が代表で市会議員となっている。

 野心ない健全な村。

 戦中戦後に野心を持った俗人もいたが、おほらさまもそれは嫌っていた。

 おほらさまは元怨霊なのだ。

 冬太が最後に語っていた骨は、おほらさまのものだ。

 埋葬にかかる情報は、神社の奥の間の更に奥。崖にある洞穴の中にある。防空壕として掘り広げられ、山ほどある文書などが保管されており、神宮が本当に一人になりたいときに入る場所でもある。

 およそ千年前の怨霊。

 頭の皮を剥がれ、頭蓋骨に呪を施された。そうして力を発揮し俗人として暴れ、死後は怨霊となって暴れ、四百年ほど前に一度だけ神社を抜け出して暴れた。

 彼は、神宮という洞と、奥の間と神殿という結界内、更に神社という結界内、更に鎮守の森を含む神域という結界内に閉じ込められてその力を発揮している。

 今は、それなりに楽しいらしい。

 冬光、冬清、冬生という新しい三柱の神は、おほらさまにとって初めて得る身内のだ。

 さぞかし、彼らとの邂逅を楽しみにしているだろう。お祭りが終わる迄はお預けだが。

 楽しみがあるので、当分は、おとなしくしているだろう。

 菜摘が岩田と歩いている。岩田は手に(ます)を持っていた。どうやら、出店で樽酒を入手したらしい。あとで社務所脇テントの人員に、日本酒を時々補給するよう言っておこう。

 彼女は、今夜神社の夜番に送り込む。

 飛んで火にいる夏の虫だ。

 当代神宮冬彦の唯一の女っ気だ。

 逃がしはしない。

 当分は忙しいが、まあ、なんとかなるだろう。

 亜希は社務所テントで遊ぶ子供の姿をみつけ、小走りになる。

 亜希は今年、三十八になる。七縛りが減ったので、一歳年下の夫、冬一が神宮になる確率が上がった。次の七縛りの生誕は五年後だ。そこまで待つより、もう一人くらい今のうちに子供を産んでおくのもいいかもな。

 そんなことを思いつつ、亜希をみつけて走ってくる長男を抱き留めた。


次が最終話です。22時です。

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