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百物語が終わる迄  作者: 藤田 一十三
第十九巡 無題
136/143

第九十四話 昴 踊り

百物語と全体の物語の混合です。

 大学生の頃に聞いた話です。

 同じゼミだった男が、中学の時の話だそうです。

 ある先輩はバレエをやっていて、コンクールでもかなり上位にまで行っていて短期留学もしていたくらいだった。日本の高校にも行かずに本格的に留学する予定で、半分本気で凱旋(がいせん)公演にはみんな観に来てねって言ってたくらいで、クラスのほとんどが応援していた。みんなで、土日公演にしてくれとか、いや高校生のうちならさぼって観に行くからとか言ってたんだそうです。なのに、足の筋を切ってしまったんだそうです。

 バレエがまたできるように再手術もしたけど、前と同じほどには治らなくて、公立高校の合格発表の日に、学校に来なくて。彼女は留学を諦めて受験して受かってたそうなんですけどね、後日、その日に亡くなったと同じクラスの生徒たちに伝えられた。理由は言われなかったと、部活の先輩は言っていたそうです。

 その先輩が亡くなってすぐ、卒業式があった。二人ずつ並んで入場するところを、その先輩の順番のところは一人で歩いていて、その人が亡くなった先輩の遺影を持っていたそうです。

 卒業生の名前を順に呼ぶときにもちゃんと名前を呼ばれて、けど、返事はなくて。先輩方の多くが泣いているのが、後ろ姿でもわかったそうです。

 最後の方で、在校生が送辞を読んで、卒業生が答辞を読むじゃないですか。その答辞のところで、舞台袖から、白いドレスに赤い靴を履いた女の子が飛び出してきたんだそうです。

 卒業生は、淡々と答辞を読んでいる。その周りで、赤い靴の少女が踊っている。

 国旗校旗の下で跳ねて、台の上の松の植木の前をくるくると回って。

 答辞が終わるところで、舞台袖に戻って行ったんだそうです。

 みんなの前で、踊ってみせてくれた。

 舞台の上にいた人たちには視えなかったけど、下にいたほとんどの人が見ることができたそうで、保護者なんかは在校生かなとか、珍しい演出だねとか言ってたそうです。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


「じゃあ、シューターの設置に行ってきますね」

 昴は、冬季の様子を見る。大岩が外殻に、細かいヒビが入り崩れ始めている。すぐ内側には別の殻があるようだ。露出した一部の殻にもヒビが入っている。多分、順調?

角の梯子をのぼって行くと、亜希がシューターをケースから出し終えていた。

「げ」

梯子出口と解放されている非常階段出入口とシューターは、近接している。

シューター脇の非常口から、もこもこと霊があふれ出て来ていた。すでに、三階の三分の一くらいに入り込み、吹き抜けに近づいている。

「閉めますよ!」

 昴は、シューターを手伝う前に非常口の非常用扉を閉める。

「ちょっと待って」

 ゆっくりと閉まる扉の隙間から非常用階段を見下ろした亜希は、すぐに体を戻す。それを待って、昴は扉を閉めた。

「よく顔突っ込める・・・・・・」

「視えない幸せよ。下の方、煙が見えたわ。まだ一階に着いたかどうかだけど」

「消火進んでないのかな」

「現場が地下だからね、無理しない方がいいでしょう。スプリンクラー動けばいいけど、停電したから非常用電源に切り替えないといけないんじゃないかな。その余裕がありそうに見えない」

 窓を開けると、遊園地内で避難を促す放送が流れているし、遠くに消防車の音も聞こえる気がする。下では、休憩所の従業員たちが右往左往している。遊歩道にはメイドさんたちがいるし、遊園地の警備員や従業員が走ってきているのが見えるが、統率が取れているようには見えない。

 停電で二階もぬくもって来ていたが、窓が開いていると三十度近い温度が感じられる。おまけに下から火であぶっているらしいとは、涼しくなる要素がないではないか。昴にとって、霊の団体は涼しくない。

昴は、亜希と協力して、窓の外側にシューターを降ろしていく。

冬沙の語りが漏れ聞こえていた。


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