第四話 お昼のチャイムが鳴りました
ピィーン♪ ポォーン♪ パァーン♪ ポォーン♪
正午を告げるチャイムが庁内に鳴り響く。職員たちは一斉に、背伸びをしたりバッグを手に取ったりし、席を立って事務室から出てゆく。弁当持参の職員や、昼当番で部屋に残る職員を残して。
学校教育課の事務室内には、緑と紫前のほか、金沢が残っていた。
「(ふーっ・・・・・・。初日ってやっぱ、緊張するなぁ)」
緑は両手で首をコキコキと揉み鳴らし、腕をぐいっと伸ばして自席で背伸びをしている。
「温田君。温田君。温田君!」
「え? ・・・・・・あ、はいっ! 何でしょうか金沢補佐!」
「キミと紫前君は午後、人事課に付いて、他の同期新人と挨拶回りだったよね?」
「はい。そうです。一時からでしたよね? 元気よく行ってきます!」
「わたくしも、同期のみなさんと、行ってまいります」
「そ、そうか。まぁ、それなんだけどさぁ・・・・・・」
「「 ? 」」
歯切れの悪い金沢の様子に、緑と紫前は首を傾げる。
「どうしたんですか、補佐?」
「何か、不都合なことでも起こったのですか?」
「・・・・・・キミたち二人は、午後一番で、うちの『課長』が直々に連れて行くそうだ」
金沢は、ずり落ちそうな丸眼鏡を何度か指でくいっと直す。
「課長? ・・・・・・あ! そういえば、うちの課長ってまだ、わたし会ってないです!」
「課長は今日、人事課や別部署で諸用を終えてから、午後にはこちらに来るそうなんでね」
「そーなんですか! いやー。わたし、偉い人ってゆっくり出勤でもいいのかと思ってー」
「そんなわけないでしょうが。温田君は、真面目なんだか脳天気なんだかわからんね」
「ど、どうも・・・・・・」
「とにかく。午後は、黒沼圭子課長が来るから、きちんと挨拶するようにね」
「はいっ! わかりました! 失礼の無いように頑張ります!」
「そんな気合い入れてまで、頑張んなくていいから! ・・・・・・紫前君も、一応、いいね?」
「はい。了解しました」
「んー? あれー? 紫前さん、もしかして、課長さんに会うの緊張してるとか?」
「いえ。そんなことはないわ」
「そっか。じゃ、一緒に元気な挨拶しようね! ・・・・・・あ。わたし、お昼買ってこなきゃ!」
そう言って、緑は金沢と紫前にぺこりと頭を下げ、元気よく事務室から出ていった。