第三話 学校教育課の方々
RRRRRRRR! RRRRRRRR!
「ん? 電話鳴ってる。えーと・・・・・・」
「温田君! 温田君! 温田君! 悪い、ちょっと取って! 取っていいから、取って!」
「はいっ! ・・・・・・で、金沢補佐。何を、ですか?」
「電話に決まってるでしょ! あー。もういいよ。オレが取っちゃうから!」
「あ、ああー。電話か! すみませーんっ」
RRR・・・・・・ がちゃ
「はい、お待たせしました。柏沼市学校教育課です。・・・・・・はい。・・・・・・はい」
金沢は、受話器を取ってすぐにその場でペコペコ頭を下げる。
「すごいな、金沢補佐。わたしへ言う時の声と電話対応での声、別人みたいだー」
「・・・・・・おい、新人さん。ポケーっと関心してないで、どんどん動け」
「あ! は、はいっ! すみません!」
緑の席の斜め前から、ぶっきらぼうに男性職員が注意を飛ばした。年齢は三十代半ばほどで、軽くパーマのかかった髪に、さっぱりとした平たい顔。職員証には「福島辰哉」と書かれている。
「えっと・・・・・・。福島主査先輩さん」
「ふざけてんのか? 『福島主査』か『福島先輩』のどっちかでいいんだよ」
「すみません! じゃあ、福島主査」
「なに?」
「わたしは今日、どんな仕事をすれば・・・・・・」
「・・・・・・引継書見ろ」
「へ?」
「そこの引き出しの二段目。付箋に『引継書』って貼ってあんの、見えないんかよ」
福島は、めんどくさそうにボールペンで緑の袖机を指す。
「あ! こ、これですね! すみません。わかんなかったです・・・・・・」
「小学生じゃねぇんだから、ちゃんと見ろってんだ。それ見て、何やるか覚えな」
「は、はいっ!」
・・・・・・ぎいっ がちゃっ
「ん? え? んんん?」
引き出しを開けた緑は、その内部を何度も何度も見回し、口をアヒルのように尖らせた。
「福島主査。あのぉー・・・・・・」
「なんだよ。こっちゃ忙しいんだから、声かける前に一度断れよ! 常識だろうが!」
「す、すみません。それで、ですね・・・・・・」
「何なんだよ」
「その、『引継書』ってやつが、どこにも無いんですけど?」
「あ? そんなわけねーだろ」
「無いんですよ。おかしいなぁ。わたしが見落としてるのかなぁ?」
「めんどくせぇな。新人さんよ、あんた、紙っぺら数枚も探せねーのか?」
「えー? だって、本当に何も無いですよ」
緑は、まさに重箱の隅をつつくかのように引き出しの中を見回し、口を尖らせて腕組みをする。
「センパーイ! まーまー。初日だし、多めに見てやりましょーや!」
「初日から甘やかすと、誰かみてぇになっちまうだろうが!」
「え! あーあー。そ、そうっすね! チィッス! オイラのことかー・・・・・・」
緑の席の隣で、若い男性職員が福島に対してペコペコしている。茶髪で、短身痩躯で色白な男性だ。年齢は緑よりも五歳ほど上だろうか。カチャカチャとパソコンのキーボードを叩きながら、緑の様子をちらりちらりと横目で気にしている。
「すみません、足立主任。でも、ほんとに引継書、無いんです。どうしましょう?」
「ウース! なーに。そん時はオイラがめっちゃ教えてやるぜぇ! よろしく、緑チャーン」
「おい、足立ゲン太。いつから俺の新人育成の仕事を請け負ったんだ、おまえ?」
「あ、す、すんませんっす! 請け負ってないっす。さーて、仕事だ仕事! やるぜぇ!」
足立は福島に睨まれると、緑そっちのけで自分のパソコン画面にまた集中し始めた。
「・・・・・・もしかして、これかしら?」
「え!」
「ごめんなさいね温田さん。わたくし、ちょっと読ませてもらってたの。これだったのね?」
「あ! そうなんだ! よかったぁ! 福島主査、ありました引継書! あったあったーっ!」
緑が探していた引継書は、なんと紫前が持っていた。緑の真向かいの席である紫前は、福島や足立とのやりとりがされていた間も、集中して引継書を読んでいたとのこと。
「よかったじゃんか、新人さん。・・・・・・紫前。おまえ、借りる前に一言、誰かに伝えたか?」
「いえ。わたくしの仕事内容が書かれた引継書かと思いまして。今後は気をつけますので」
「そういう教科書みてーな謝罪はいらねぇよ。同期が困ってんの、見えなかったんかよ?」
「(むっ! そんな言い方しなくたっていいじゃありませんか。わたくしだってね・・・・・・)」
紫前は、ぶっきらぼうな福島の言い方に対し、一瞬だけ表情で抗議をした。その真向かいでは、緑が引継書を穴が開くような目で見つめ、瞬きもせずに「超集中オーラ」を発しながら読んでいる。
「(早く戦力にならなきゃ! わたし、一生懸命やって、早くこの課の戦力になるんだ!)」
緑がそうして集中している向こうでは、金沢が何やら電話先の相手に青ざめている。




