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その10

 私たちの総体インターハイが終わる

 

 ノエルが決勝で6位に入り、地方大会進出を決めた。

 赤羽は準決勝で敗退した。


 競技が終わった後、ノエルが私たちのところまで来て、「来年は一緒に決勝で走ろう」と約束した。

 結果はどうあれ、レース後は2人とも笑っていた。それが何よりだと思って気持ちが明るくなる。


「そうだノエル。3人で写真撮ろうよ」


「オッケー!んー、ケイ、真ん中行って」


「私!?」


「いいね!早く早く!春香さんお願いします」


「撮るよ、はい……バター」


 背の高い二人に挟まれたから、つま先立ちでいかり肩になって笑顔もぎこちなかった。赤羽は春香さんのギャグで爆笑寸前の面白い顔になっていたし、ノエルはばっちり顔を作ってモデルのような笑顔が眩しかった。

 すぐに送られてきたその画像データは、私の宝物になった。



 最終日は14時30分に競技が終了し、15時ごろには解散した。3年生の引退式は来週するらしいから、もう今日は家に帰っていいとのこと。

 3日間の疲れから「うーーん」と大きな伸びをする。ぽかぽかとした陽気にそよ風が吹き、気持ちがいい。窓を開けて昼寝したら最高だろうなと思う。


「さて、帰りますか」


 私がそう言うと、赤羽がモジモジしながら話しかけてきた。


「ケイ、どこで、その、あれを」


 人目がなくて、落ち着ける場所で、ここからそう遠くない場所。

 競技場から赤羽の家に帰るまでに、一か所だけ心当たりがある。


「うち来る?」


 赤羽はぶんぶんと首を縦に振っていた。

 広場で残って談笑する他の部員に「お先に失礼します」と別れを告げ、一足先に二人で帰路についた。



―――



 電車に20分ほど揺られ、繁華街のすぐ手前の駅で降りた。

 そこから少し南へ行くと、下町の住宅街が広がっていて、その中に自宅がある。

 土地が狭いから、赤羽の家の半分ぐらいの広さしかないけど、その分縦に長くて、3階建てだ。

 鍵を開けて中に入る。


「ただいまー」


「お邪魔します」


 玄関も狭くて、家族の分にプラスして赤羽の靴を置くと、床が見えなくなった。

 1階は車庫と両親が寝るための洋室と水回りしかないから、階段を上がっていく。


「狭いでしょ、うちの家」


「そんなことないよ」


 2階につくとリビングから妹たちが駆け寄ってきた。


「姉ちゃんおかえり!」


「父ちゃん母ちゃん!ヤンキーが女捕まえて来た!」


 純粋無垢に私たちを迎えてくれた方が、小学2年生の美空みそら。私が髪を染めてからお姉ちゃんじゃなくてヤンキーとか不良と呼んでくるようになった方が小学5年生のすみれ

 妹たちの声を聞いて、父と母がリビングから顔を出す。


「うわ!ホントに女の子連れてきてるじゃん。あんた友達いたんだね」


 うへえ!と、母が失礼なことを言ってくる。


「初めまして!陸上部の赤羽小蒔あかばねこまきです。ケイさんとは、そのお友達で」


「どうも、ケイの父です」


「母です」


「菫です」


「美空です!」


 息ぴったりでテンポよく自己紹介する。家族仲は良い方だと思う。

 お母さんは「お茶を持っていこうか」と言ってくれたけど、自分で汲むと答えた。

 とりあえず荷物を置くために、緊張して動きがロボットみたいになっている赤羽を後ろに連れて、更に階段を上り自分の部屋に向かう。


 部屋に入ってすぐに「もう我慢できない!」と迫られることはなかった。強引にされることをほんの少しだけ期待していたかもしれない。認めたくないけど。


「お茶とお菓子持ってくるね」


 赤羽はベッドや学習椅子には座らず、フローリングの床に正座してピタっと動かなくなった。肩に力が入って、もにょもにょと答える。


「お、お構いなく」




 赤羽を部屋に残し、2階に戻ると、両親が話しかけてきた。


「試合の後なのに、大丈夫なの?」


「うん、ちょっと寄っただけだから」


 すると、父が能天気な提案をした。


「大丈夫なんだったら晩御飯食べていけば?せっかくケイのお友達が来てくれたんだし。ね、母さん?」


「赤羽さんがいいんだったら全然いいよ、むしろウェルカム。でも向こうのお家の都合もあるでしょ?」


「……聞いてくるね」


 下町人情ってやつなのか、私が友達を連れてきたことが嬉しかったのか。


「ヤンキーの友達ってやっぱりヤンキーなの?」


「菫、赤羽の前でそれ言ったらシバくからね」


「おお、こっわ」


 ゲシゲシと菫が私のスネを蹴ってくる。美空まで「ふりょーふりょー」と面白がってポンポンと叩いてきた。

 菫は後でシバく。美空は……教育し直してやろう。


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