彼女の答えは
「きっと、答えは本人の内側にある。」
星宮星雅
「そうして、私は・・・俺は初めて夢と名前を手に入れた。」
サンビタリアは自分が泣いていることすら気がつかないままに苦悶の嗚咽を漏らした。
心臓が万力で締め付けられたように胸の奥が強く痛み、言葉にならない感情が次々と溢れ出しては、それが目からボロボロと大粒の雫となって流れていく。
苦しい・悲しい・痛い・・・胸の奥から現れる感情は、全てがP2の過去から来るものだ。
仮にも夫であるP2がこんなに重く苦しいものをずっと背負っていたのに自分は寄りかかるばかりだという無力感、国は違うとはいえ同じ貴族が行っていた非道に対する怒りと、その被害者であるP2たち亡骸島の人々への罪悪感。そして、そんな目に遭ったにも関わらず元貴族の私を受け入れてくれたP2の優しさ。
色んな思いが現れては混ざり合い、サンビタリアの心はもうグチャグチャのボロボロ、サンビタリア自身にも何が何だか分からないほどだった。
「私・・・私・・・」
サンビタリアにはP2に伝えたい思いが数え切れないほど、それこそ山のようにあった。
しかし、サンビタリアの考えは一向に纏まらず、ただ同じ言葉を繰り返しばかりで話にならない。
「その夢の未来の為に、みんなが生きて笑っていてくれないとダメなんだ。だから、頼む。避難してくれ、サンビタリア嬢。例え、今はどんなに惨めで苦しくても生きてさえいれば・・・また一緒に居られるから。」
ここでサンビタリアは素直に避難するべきなのだろう。
いくら護身術にバルハードを習っていたと言っても所詮は護身術のレベルだし、それにそもそも得物のバルハードも手元に無い。戦力にならないサンビタリアがついて行っても、無駄に足を引っ張るだけだ。
だというのに、サンビタリアは「避難する」の一言が言えなかった。
(私は・・・一体どうしたいのでしょうか?これ以上ぴぃつぅ様の近くに居ても、ぴぃつぅ様の足を引っ張るだけですのに・・・・・・・・・どうして、私はぴぃつぅ様から離れられないのでしょうか?)
サンビタリアの頭の中でグルグルと考えが回るが、答えは一向に出ない。
今は一刻を争う事態だというのに、P2を支えるどころか足枷にしかなれていない自分が嫌になるのに、手はP2に縋り付いたまま離そうとしない。サンビタリアは自分のことながら困惑していた。
トンッ!と不意に誰かに背中を押され、サンビタリアが驚いて振り返ると、そこには亡骸島までついてきてくれた唯一無二の従者ガーネットの姿があった。
「大丈夫です。お嬢様はお嬢様のお望みのままに、それを叶えるのが従者の仕事です。」
サンビタリアはずっと苦しくなるばかりだった胸の痛みが少し和らいで、背負っていた荷物を下ろしかのように身体が軽くなるのを感じた。
「私は・・・ぴぃつぅ様と一緒に行きたいです。」
「何?」
「私が居ても邪魔になるだけなのは分かっています。ですが、私はそれでも・・・貴方を1人にしたくない。」
「心配要らない。自警団などの戦力となる人員と合流するから私は1人には「そうじゃないんです!」・・・では、どういう意味だ?」
「今、ぴぃつぅ様と別れてしまったら・・・一体誰がぴぃつぅ様の隣に居るんですか。」
「会社に居るのは社員たちで、この街に居るのはぴぃつぅ様を恩人と崇める人たち。本当の意味で、ぴぃつぅ様の隣に居る人は・・・一体誰なんですか?」
パクパクと言葉にならないことを喋るばかりだった口が自然と動きだして、サンビタリアは考えを纏めるために思考することもなく、自分の中から答えを引き出すことが出来た。
部下や従者のような下から上ではなく、ただ対等に隣に立つ人として、P2の側に居たい。
それがサンビタリアの出した、P2への答えだった。
そうこうしている間にも戦況は進んでいく。
剣や銃を持った黄金族の兵士たちは既に門の前まで進軍し、自警団との戦闘を行っていた。
キィンキィンという甲高い剣戟の音、パァンパァンという喧しい銃撃の音、そこら中に砂埃が舞い、1人また1人と血を流し倒れていく凄惨な戦場がそこには広がっていた。
常備兵たちは実戦経験こそ薄いものの毎日厳しい訓練を積んでおり、決して烏合の衆などでは無い。
しかし、1都市・・・それも本来は流刑地である亡骸島の街の自警団の数などたかが知れている。
数千は超えようかという黄金族の軍勢が相手では幾ら何でも多勢に無勢、戦況は劣勢と言わざるを得ず、このままでは自慢の白虎門を破られるのも時間の問題であった。
そんな戦場に刀1本持って突撃をするバカが1人、自警団という戦力を集めた張本人であり、P2が戦場に居ない今、白虎門街側の大将ともいえるチバは戦場のド真ん中で大立ち回りしていた。
1人切り捨て、また1人切り捨て、黄金族が群がっている方へ敵兵を蹴り飛ばし、斬かかってきた黄金族を躱してすれ違いざまに腕を切り落とし、剣を奪って投擲し敵兵を3人串刺しにして・・・・・・アクション映画でしか見られないような一騎当千の大活躍である。
とはいえ、自軍の大将が敵の真ん中で1人というのは白虎門街側の自警団たちも心臓が悪い。
その結果、チバを1人にしないために白虎門街の自警団は「チバさんを1人にするな!」と劣勢の状況でありながら、それを感じさせないほど苛烈に攻めを行っていた。
「なぁるほど、単なる突撃バカって訳じゃないらしい。が・・・」
黄金族側の大将マンティスライサの鎌が怪しく光る。
ガキィンッ!!突如上空から奇襲をかけてきたマンティスライサの鎌とチバの刀がぶつかり合った。
「テメェが死ねばそれでしまいだ。」
「やれるものなら、やってなよ。カマキリ君?」
大将対決が始まった。




