侠客が変えた未来
「善いことをするのが人間なら、悪いことをするのも人間である。」
星宮星雅
丸焼きにされた海竜の肉を食べていた2人だったが、少年はガリガリに衰弱していたこともあってか、しばらくすると膨らんだ腹を抱えながら砂浜に寝っ転がってウンウン唸ることになった・
「うう・・・まだメシがのこってるのにはらがくるしい・・・なんでだ?」
「考え無しにバカスカ口に放り込むからだ。童は胃が縮んどるんだから加減せんか」
「でもよぉ・・・」
「安心せい、さっきも言ったがこんなのは始まりにすぎん。直ぐに美味いメシがたらふく食える島にしてやる。」
義景の誓いに「このオッサン・・・煌は少しは信じられるかも知れない」と少年は口元を緩ませた。
それから、義景と少年は2人で亡骸島中を巡り、少しづつ少しづつ島を変えていった。
亡骸島巡りの旅を続ける少年と義景は少年は旅の中で色んなモノを見て、多くの人に出会った。
ある時、2人がワカメと海竜肉のスープで腹拵えをしていると、少年はスープのよい香りに誘われて茶色い肌をした少年と同年代の男の子が近寄ってきたのを見つけた。
「なぁキラ、あたらしいさらつくってくれねぇか?」
「新しい皿?そんまもの一体何に・・・ああ、なるほど。いいぞ、作ってやる」
少年は義景に新しく岩を切って器を作って貰い、スープを注いで男の子のところに持って行った。
「おい」
「あっ、ちが、これはみてただけで・・・」
「くえよ、キラのメシはうまいぞ。」
少年はスープを男の子に突き出した。
こうして、2人の小さな少年は初めて友だちを得たのだった。
そうして、2人が3人になって、3人が4人になって、瞬く間に人が集まって村が出来た。
人が集まって、みんなで村や町を作って生活をするというのは大変なことだったが、いつだって義景は侠客で、少年たち亡骸島の弱者を助けてくれた。
「よぉよぉオッサン、よぉオッサン?キレーな着物に刀とは随分羽振りがいいじゃねぇか?」
「生憎、テメェにくれてやれるもんは拳だけだな。」
時に弱者を搾取する賊を懲らしめ・・・
「家だ!巨大な岩をたった1本の刀で四角に切り刻み、中をくり抜き、屋根のある石の家を作ったんだ!?」
「これで、雨風も凌げるだろう?他に家が必要なヤツは居るかい?」
時に自然のモノを加工して人々のために家を作り・・・
「なぁキラ・・・う○こやかいがらなんて、つちにうめてどうするんだ?」
「これが長い時間をかけて土の飯になるのさ。後は作物の種だな・・・役人どもから拝借するか?」
「げっ!?やくにんにてをだすのか?さすがにマズいぞ・・・」
「馬鹿、商談で手に入れるんだよ。海竜の肉は連中でも中々手に入れられねぇみたいだしな」
土を改良して畑をつくり・・・亡骸島に暮らす多くの人々を助けた。
かつての亡骸島よりも大分マシな村での生活は人々の心に余裕を生み、少しづつ少しづつではあるが、人々は優しさや思いやりといった人間らしい感情を取り戻しつつあった。
苦しいことも上手くいかないことも山ほどあったが、人は毎日に希望を見いだせるようになっていった。
だが、少年の新しい名前は相変わらず決まらないままであった。
そんなある日、流刑地である亡骸島にそぐわない綺麗な衣装を身につけた集団が村にやって来た。
先頭は6つの穴が空いた鉄仮面を被った大柄な男で貴族のような洋服を着ており、シャツの襟を立ててレースなどをグルグル巻きにしてあり首回りのボリュームが凄く、その上からベストとやたらデカい襟と背面部分が長いコートを着て、手には白い手袋を脚には黒いロングブーツを履いている。更に腰には剣帯らしいベルトが巻かれサーベルが左右2本づつ差してあった。
そんな男の後ろに追従するのは全身を金属の鎧で覆った集団で、それぞれ剣や槍や弓といった武器を右手に左手には大きな盾を持っていた。中にはシンボルマークらしい獅子の絵が描かれた旗や何やら重たそうな背嚢などの荷物を持った者も居る。
彼等の姿を見つけると、村の人々は見つからないよう隠れ、位置的に隠れられなかった者は膝を折って頭を低く下げ平服の姿勢をとった。ただ1人、病によって身体を壊し動くことが出来なかった病人以外は。
病人・・・褐色肌の男の子は騒がしい足音に、また義景たちが新しい住人を連れてきたのだと思い込んで、迎えのために家から出てきた。いや、出てきてしまった。
「ゴホッ・・・おかえり、よしかげさんにわっぱく・・・ん?」
「ギャギャ?オレ様が居るのに頭も下げないヤツが居るんだギャ?生意気だギャ」
「でしたら、アレを今回の「獲物」にするのはどうでしょうか?」
「それはいい考えだギャ!でも、一匹じゃ直ぐに終っちまうのギャ。もう一匹ぐらい欲しいのギャ」
鉄仮面の男が部下の鎧騎士に同意したことで、鎧騎士たちはボーッとして頭も身体も上手く働かないを男の子を力尽くで抑えつけ、縄で縛り上げた。
(ああ、病人相手に何て酷い・・・っ!)
(貴族の前だぞ、黙って頭下げろ!でなきゃ、俺たちまで連れてかれる・・・)
絶対的な権力と武力の前に、村の住人たちはヒソヒソ声を潜め男の子の未来を嘆くことしか出来ない。
島を変えた侠客、煌義景と彼とともに在る少年は男の子の薬を手に入れるために丁度村を留守にしていた。
「今、帰った。褐色の少年は元気にしているか?」
「ちゃんと、ねていたかな?」
しばらくして、役人たちと交渉して薬を手に入れた少年と義景が村に帰ってきた。
しかし、村の雰囲気はどこか暗く、まるでかつての先の見えない未来に絶望するしかできなかった頃の亡骸島を思い出させるようで、2人は何かがあったのだと気づき意識を切り替えて目つきを鋭くした。
「アア・・・2人か、無事に帰って帰ってきたんだな。よかった・・・」
1人の女が、2人の姿を見て安堵の息を吐いた。だが、その目は依然としてほの暗い闇を孕んだままだ。
「よくねぇよ、村のこの暗い空気はどういうことだ?一体何があった?儂たちが出て行く前はもっと活気があったと思うんだが・・・そいつは儂の気のせいか?」
「・・・・・・・貴族が来たんだ」
「貴族?」
「・・・っ!まさか、ベルギャルドがまたきたのかっ!?」
「おい、一体何だ?そのベルギャルドって貴族は?一体何の用があって亡骸島にやって来るんだ?」
「騎士の国ペンドラ王国のベルギャルド卿は時々この島にやってくる災害みたいな男だ。・・・・・・・・・罪人しか居ない流刑地なのをいいことに人狩りゲームをしに来るイカレ野郎さ」
これまで見たことのないほどの怒りに、義景の顔が修羅のそれへと変わった。




