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煌義景

「全ては過去の積み重なりが作り出す。」

                 星宮星雅

 ―18年前、亡骸島

まだたった5歳の小さな少年は海岸にやって来ていた。

この頃の少年は碌に食べものが食べられておらず、ガリガリで骨が浮き出ていて、触れただけで壊れてしまいそうなほどに線が細く、か弱い少年だった。

漂着物にめぼしい物があれば少しでも生活の足しにする為、少年は毎朝亡骸島の海岸に通っていた。といっても、偶にワカメなどの海産物が流れてくる程度だったが・・・この日は違った。

「ひと・・・?」

砂浜に倒れていたのは、前開きの布を重ね合わせてヒモで括った、少年が見たこともない紺の服を着た男だった。年を食っているのか少し皺が浮き出ていた顔は厳つく、身体は骸骨のような少年とは対象的に健康的で筋肉質で腕や脚なんかはまるで丸太の様であった。目蓋が閉じているので目の色は分からなかったが、髪は白髪1つ見当たらない漆黒のボサボサ天然パーマであり、何処ぞの兵士や傭兵だったのか刀を腰に差していた。

「いっちょまえにブキなんかもってら・・・どこのへいたいだ?」

漂流していた男に興味をそそられながらも、少年はテキパキと無駄のない動きで男の刀を奪い、身包みを剥いでいた。少年は少し可哀想にも思っていたが、亡骸島で隙を見せるとはこういうことだ。仕方が無い。

「うらむなよ・・・ここはジャクニクキョーショクなんだ。ねてるからわるいんだ。」

「そうか・・・では、儂が童を斬っても文句はないな?」

目蓋が開いて、男の黒い瞳と少年の目が合った。

「おっ、おきたぁ―――!?」

少年の叫び声が海岸に木霊した。


 「まったく、生死の確認もせずに身包みを剥ぐとはとんでもない童だ!」

少年を太い腕から繰り出される拳骨で黙らせ、男は刀や着物を奪い返して身に付け直した。

少年の方は、頭の上に出来たたんこぶを抑えながら、涙目で男を必死に睨みつけて威嚇していた。

「うっせぇ!クビしめなかっただけ、ありがたいとおもえ!」

「ぬぅ!反省せぬどころか減らず口まで・・・っ!親の顔が見てみたいわ!」

「オヤ?ふたりともかってにしんだよ!!おれひとりだけ、あいつらのツミでつれてこられたんだ!」

「何?」

「このナキガラジマじゃよくある!オヤのいないガキなんていっぱいいる!」

男は少年の口から語られる亡骸島の現実に愕然とし、そして辺りが見渡す限りの荒野なのを確認し、少年の言葉が段々と現実味を帯びてくるのを感じた。

「童、ここが亡骸島じゃというたな?」

「・・・それがどうした?」

「では、ここに居る人々は・・・・・・皆、罪人か?」

「はんぶんはな、もうはんぶんはたにんのツミでつれてこられたおれみたいなヤツ・・・それからやくにんだ」

ここは亡骸島、世界各地から重罪犯たちが集まる最悪の流刑地である。


 「・・・・・・なぁ?なんでおれをころさねぇんだよ?」

「あん?童が変なこと聞くなぁ・・・お前、殺されてぇのか?」

「そうじゃねぇよ!?けど、おれはアンタのみぐるみはがそうとしたんだぞ?ふつう、ころすだろ?」

「・・・ここがどういう島かよく分かったよ。」

男は少年の言い分の酷さに、手で顔を覆って天を仰いだ。

幼い子どもは善いことも悪いこともスポンジが水を吸うようにドンドン吸収し、周囲の環境を映し出す鏡だ。

だからこそ、たった5歳の小さな子どもにここまで荒んだ性格にした亡骸島の現実が男にはよく分かった。

「・・・やれやれ、噂には聞いておったがここまで人心が荒廃しておるとは・・・世も末だな」

「じんし・・・こーはい?よくわからないけど、ころさないんだな?」

「おう、童のような幼子のやったことだ。殺すほどのことでも無いわ。」

「んー、なんか、ひっかかるけど、ころさないんだったらいいや。ありがとう、オッサン」

「まだ、ぴちぴちの45歳だ小童ぁ!!」

ゴンッ!少年の頭にたんこぶが増えた。

「まったく、とんでもない島にとんでもない童だ・・・そうだ童、まだ名前を聞いておらなんだな。儂は日の出ずる国 逆威さかいが1の侠客一家、きら家が次男・・・名を煌義景きらよしかげという。童の名は?」

少年は少しの間悩む素振りをして黙っていたが、やがて意を決して口を開いた。

「・・・ない、すてた!」


「捨てただと!?童、お主大切な親から貰った名を捨てたというのか!?」

男改め義景は血相を変え、襲いかかるように少年に掴みかかると、額と額がぶつかるほどの距離で少年に向かってまくしたて、つばを飛ばした。

しかし、少年は厳つい義景が目の前で睨み付けてきても一歩も譲らず、ただ不機嫌そうに顔を歪める。

「たいせつなおやって・・・それなら、おれをほうってしなねぇだろ?」

「!!?!」

侠客とは義侠の徒であり、侠客の一家で生まれ育ち働いてきた義景にとって、義理を決して忘れず、命を張って家族と弱き人々を守る親兄弟は誇らしい存在であった。

だが、少年は違うのだ。

少年には自らが誇ることが出来る家族も兄弟も居ないし、自らの名すら捨ててしまうほどに忌まわしいものなのだ。それは、義景にとっては非情に衝撃的なことであり、嘆かわしいことでもあった。

義景は少年の顔を見てみると、そこに居たのは信じられないほど痩細り衰弱しながら、それでも懸命に生きようとする弱者の姿。

こんな子どもを放っておくのは侠客のやることでは無い。義景の腹はもう決まっていた。

「童・・・お主の名はまた儂が新しいのを考えてやろう。」

「オッ・・・・・・おにいさん、きゅうにどうしたんだ?」

「儂は・・・この島を変えることにしたっ!!」


 「できるなら、ぜひやってほしいね。できるならだけど・・・って、おいっ!?」

少年の言葉に返事も返さず、義景は海の中へと飛び込んでしまった。

叫び声も聞こえないのか、義景はどんどん海の底の方へと潜っていって、姿が見えなくなってしまう。

「うみには『かいりゅう』が・・・っ!!」

ドォン!!少年がそう叫んだ瞬間、家・・・いや城と呼べるほど巨大な一匹の怪魚がくの字になって海の中から飛び出してきて、空からの陽光を覆い隠した。その魚はズドォン!!と大きな音を立てて少年の居る海岸に落下し、ジタバタと砂の上で藻掻きはじめる。

光を反射してキラキラ煌めくエメラルドの鱗、パクパクと開いては閉じられる口の中に見えるノコギリのようなギザギザの牙、虚ろな紅い瞳が亡霊のように妖しく輝き、忙しなくヒレを動かしては暴れている。

海の怪物と呼ばれる海竜種、その一匹がまるでただのデカい魚のようだ。

「カッカッカッ!コイツはその一歩だ・・・人間飯が食えなきゃどうにもならねぇからな」

海竜が海岸に落ちてから少し遅れて、岸から義景が帰ってきた。

驚きのあまり呆然とする少年を尻目に義景は腰の刀をゆっくりと抜き放ち、目にも止まらない音を置き去りにする早業で怪魚を3枚に下ろした。

「すっげぇ・・・」

その人間離れした技に少年は最早感嘆の声しか出てこない。

少年が義景に向ける視線はすでに憧れへと変わっていた。

「さぁ、火を付けよう!飯にするぞ童!」

これが、亡骸島を変える2人の出会いであった。

人物情報記録 煌義景 (第一項)

性別:男性  年齢:45歳

身長:210cm 体重:80kg

種族:ノービス  所属:侠客一家煌家

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