はじめてのデート?
「人が空回りするのは、何時だって誰かの為で、誰かの所為だよ」
星宮星雅
ドクンッドクンッと心音がやたら五月蠅く鳴り響き、車のエンジン音も聞こえない中、サンビタリアは緊張を冷汗をタラリと流していた。
デートへ誘ったP2はサンビタリアの手を引いて、輸送部で車と運転手を確保したかと思うと、そのまま車で地下の本社から地上に上がった。
見渡すばかり荒野ばかりに見える亡骸島だが、P2主導の下赤目製薬が開発支援を行っており、その甲斐あって街と呼べるほどに発展した地域も幾らか存在する。P2はその中の1つを今回のデートスポットに決めた。
「これから向かう街は白虎門街と言ってな、流石に帝都に比べると小さく後進的だが、今の亡骸島では1番発展していて亡骸島一の都会と呼べる街だ。その名の通り白い虎の意匠をあしらった大きな門があって、門以外の場所は大きな壁がグルリと街を囲んで防壁になっている。最近、大きな劇場が出来たらしく、丁度今日の午後に初公演があるらしい。それに屋台が沢山あって・・・」
P2が行き先の説明をしているが、サンビタリアはもうそれどころではなかった。
夜のお誘いで無くてガッカリしたのも束の間、サンビタリアは親や従者以外の男性と出歩くのは初めてのことであり、デートをするも初めてだという事に気がついたのである。
気がついてしまったら最後、サンビタリアは「デート」を意識するあまり滅茶苦茶緊張してしまっていた。
「・・・すまない、私の話はつまらなかっただろうか?」
「あっ、いっ、いえ、そんなことは・・・」
緊張で微動だにしないサンビタリアの姿を見て、退屈なのかも知れないと思ったP2を頭を低く下げた。
そうなってくると、サンビタリアも大慌てだ。
P2の話は碌に耳に入っていなかったサンビタリアだが、それはつまらないからでは無く、相手を意識するあまり緊張してのこと。しかし、それを素直に口にするのは気恥ずかしすぎた。
サンビタリアは何をどうしたらいいか分からず、ただ口をモゴモゴ動かすばかり。
「・・・気を遣わせてしまって、本当にすまない。」
だが、P2はそれを、つまらないのを直接指摘すると傷つけてしまうから説明に迷っていると受け取ってしまった。まだ街に着いてすらいないのに前途多難な2人である。
「社長、奥様、着きましたぜい。」
そう言って、黒ジャケットに黒いリーゼントの運転手は車を止めた。
2人が車から降りてみると、草1本は生えない見渡す限りの荒野の中に威風堂々と建つ門と外壁が見えた。艶々とした光沢を輝かせる黒井外壁がグルリと四角と作り、その外壁の真正面には街の名前にもなっている巨大な白銀の門が1つ。左右に一頭づつ睨み合う大きな虎が描かれていた。
「それじゃあ、アッシはこれで・・・帰りは携帯端末でピピッっと連絡してくれりゃあ、すっ飛んで来ますんで。」
「ああ、ありがとう。」
「いえ、社長はアッシらの王様みたいなもんですから。ドンドンこき使って下せぇ。」
そう運転手が車を走らせて去って行ったのを見送ると、P2はサンビタリアの方へと手を差し出した。
「それでは、お手をどうぞレディ」
「はっ、はい・・・」
サンビタリアはP2に手を引かれて、白銀の門の中へと消えていった。
門の中は成程、確かに街と呼んでも差し支えがないほどに発展していた。
朱色の柱に支えられた瓦屋根の建物たちが左右に規則正しく並んでおり、建物と建物の間には屋台の露店に囲まれる形で、コンクリートの道路が通っている。道路は白線が中央に書かれ左右に分かれており、右は門から街の奥へと、左は街の奥から門の方へと進むようになっていた。
勿論、車道と歩道もキチンと分かれており、2人は道の端で露店や建物に近い歩道を歩いた。
「サンビタリア嬢、何か気になるものがあれば遠慮無く言って欲しい。」
「ぴぃつぅ様、ありがとうございます。ですが、そう甘えてばかりいる訳にも行きませんので・・・」
「サンビタリア嬢、私たちは仮にも夫婦なのだ。可愛らしい妻に甘えて貰えないというのは夫の立場から考えると・・・少し寂しい。」
「ん゛ん゛っ!?」
サンビタリアの乙女心に「可愛らしい妻」という単語がクリティカルヒット、たたみかけるように夫の「・・・寂しい」という可愛らしい言動が追撃に入り、サンビタリアは何も食べていないのにもうお腹いっぱいな気分だ。凄まじい歓喜と羞恥で変な声が出て、サンビタリアは身悶えした。
「どうした?もしや、体調不良か?」
「いっ、いえ・・・何でもありません。」
「しかし、サンビタリア嬢を疑いたち訳では無いが、患者の「何でも無い」ほど信用のない言葉も無い・・・・・・本当は苦しいのを我慢しているのでは無いか?」
「いえいえ!私は本当に元気ですよ!ほらっ、見て下さい!元気一杯でしょう!?」
訝しむP2の視線に、サンビタリアは大慌てで腕をブンブン回したりその場で屈伸して見せたりした。
P2は「本当だろうか・・・?」と疑いつつも、取り敢えずこの場は「そうか」と納得するのだった。




