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サンビタリアの仕事

 「真面目にやる気があるのかだと?当然だ!やる気が無ければこんな重労働やっていられるか!?」

                                          星宮星雅

 さて亡骸島へと帰還したP2だが、彼は社長兼薬剤師であり忙しい立場の人間である。

黄金族への対応のこともあって、妻のサンビタリアとイチャイチャ新婚生活を楽しむとはいかず、仕事で倒れてしまいかねないほど忙殺されることとなった。

だが、サンビタリアの方も落ち込んでばかりもいられない。カウ家との交渉の要はP2と自分の結婚である。

実際に交渉をするのは社長であるP2かレコメンドたち営業部の社員だろう。だが、ただでさえ自分の断罪の件で迷惑を掛けた父に実家に金の無心に行くというのは、例え仕事がチョコンと座っているだけだとしても後ろめたく行き辛いものがあり、サンビタリアは今から気が重く「おえぇ~」と吐きそうに俯いていた。

「よしよし、よく頑張りましたね。後は任せて下さい。大丈夫、私が言うのも何ですが赤目製薬の営業部は優秀です。それに貴女の夫は赤目製薬を大企業に育て上げた敏腕ですよ。」

「うう・・・あ、ありがとうございます・・・」

レコメンドはポンポンッと軽く背中を叩き、サンビタリアに寄り添った。彼女は焚きつけた張本人である。


 「大丈夫ですか?お嬢様。抗鬱剤・・・・・・は「診断書も無しに渡せるかアホ」と言われてしまったので、アロマとディフューザー。それから心を落ち着かせるという紅茶を頂いてきました。」

いつの間にか部屋を留守にしていたらしい、ガーネット小さな段ボールの箱をもって帰ってきた。

気を遣って調達してきたらしい箱の中には「ネロリ」とラベルが貼られたアロマオイルにティッシュの箱ほどの大きさの白い円柱、それから乾燥してカサカサになった草がたくさん入った茶色い紙袋には「ダージリン」と書かれており、その直ぐ側で控えるように金の細かい装飾が上品な白い陶器のポットとカップがあった。

「そりゃあ、そうですよ。カルテどころか検査もしてないような人に薬を渡せるわけ無いでしょう?」

製薬会社らしく、医師・薬剤師で無いレコメンドも薬品の取り扱いには厳しいらしい。

彼女は呆れた様子で苦言を呈しつつ、部屋の戸棚からケーキを取り出した。レコメンドが自腹で買った品だ。

「むうぅ・・・少しぐらいならいいのではないか?」

「ダメです。そういう素人判断での治療は病状を悪化させかねない。」

口を尖らせて不満げなガーネットの反論をバッサリ切って捨てるレコメンド。

そんな2人の姿は何だか叱られてバツが悪い子どもと親のようで、真面目な顔で言い合いながら2人ともテキパキとお茶の準備を進めている。

「ふふっ・・・うふふふっ」

それが何だか少し不思議で可笑しくて、サンビタリアはついつい笑ってしまった。少し元気が出たようだ。


 「部屋で落ち込んでいるくらいなら、社長が戻ってきたのですから、顔を出してきてはどうですか?」

切り分けたケーキと分配しながら、レコメンドがそう提案するもサンビタリアは「で、ですが、お仕事をお邪魔するのは・・・・・・」と言って、また俯いてしまう。心配してガーネットが寄り添った。

何かと気落ちして自信なさげな彼女を見て、レコメンドは精神科医のところへ連れて行くか検討し始めた。

「そっ、そう言えば、何故レコメンドはここに?護衛は交代するのでは無かったか?」

「倒れたまま船から搬送されたので、お2人は会っていませんが、第二防衛小隊の方で負傷者が出たましたので、シフトの穴埋めです。私たち、本来は4人で1部隊なんですよ。」

強引に話を変えようとしてガーネットが振った問いにさらりと答えるレコメンドだったが、その回答は血生臭い戦闘とは縁遠い世界で生きてきたサンビタリアたちにとって驚愕に値するモノだった。

「別に珍しいことじゃありませんよ。亡骸島の外でも盗賊崩れのならず者ぐらい居ますし、黄金族ほどの規模は流石に中々ありませんが、徒党組んで襲ってくる連中だって珍しくありません。そもそも、民間企業が私兵部隊抱えて自衛をしている時点で・・・失礼、失言でした。」

亡骸島に来たばかりで心の傷もまだ癒えきっていない相手に、帝国批判のような話をしてしまった。

「いえ、失礼だなんてそんな・・・。確かに政治は難しい話ではありますが、その難しい仕事をキチンとこなして民を守るからこそ、貴族は貴い一族足り得るのです。それが出来て居らず、帝国の民に迷惑をおかけしているのは私たち貴族の失態なのですから、謝らなくてはならないのは私の方です。」

頭を下げたサンビタリアの姿に、レコメンドは「しまった!」と内心反省した。

治政者側である貴族令嬢のサンビタリアには耳の痛い話だったかも知れない。

だが、幾ら貴族とはいえ、国のことで少女1人を責めるのは余りに酷な話だ。

「あー・・・貴族といっても実際に実権を握っているのは各家の当主と皇帝陛下でしょう?気にしなくていいと言っても気にするでしょうが、奥様に罪はありませんよ。」

「・・・お心遣い感謝します。レコメンド様。」


 ガーネットは悩んでいた。

レコメンドも言っていたが、サンビタリアは気にするなと言っても気にしてしまうタイプの人だ。

口で素直に心遣いに感謝しているが、内心では滅茶苦茶ショックを受けているのが目に見えて分かった。

そんな主に対して、自分は一体どうするべきだろうか?何が主を1番幸せな未来へ導いてくれるだろうか?

悩んで、悩んで、悩み抜いたガーネットの目に留まったのは、戸棚に並んだ赤目製薬各部署の資料だった。

「お嬢様、確かに今の帝国は荒れているかも知れません。貴族は帝国を守れていないのかも知れません。ですが、赤目製薬の一員として帝国を守れるかもしれません。」

突然、まるでシェヘラのようなことを言い出したガーネットに、サンビタリアとレコメンドは思わず「えっ?」と驚きの声を漏らした。

「赤目製薬は民間企業の営利団体ですが、製薬会社ならば多くの患者を救うため場所でもある筈です。この帝国という患者を救う特効薬になってくれる筈です。お嬢様は・・・まだ帝国を守ることが出来る筈です。」

「貴族とは民守るからこそ、貴い一族足り得る。」ならば、サンビタリアはまだ貴族でいられる筈だ。

この日、ガーネットは従者として一世一代の諫言をした。

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