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再開そして・・・

「ああ、どうか人の愛がつまらないものだなんて言わないでくれ!つまらない人間の為に愛を捨てないでくれ!」

     星宮星雅

 さて、サファイアの昔の話を聞いて別の心配事が出来たものの、少しは緊張がほぐれたサンビタリアはとうとう夫が帰還する日を迎えることとなった。

遠足が楽しみで寝られない子どものように、久し振りにP2に会うのがドキドキし過ぎて昨晩は眠れなかったらしい。サンビタリアはレコメンドに布団を剥がれて無理矢理起こされ、眠い目を擦って欠伸をしていた。

「だから、落ち着いて下さい。ってあれほど言ったんですよ・・・・。」

レコメンドはブツブツと苦言を呈しながらも、サンビタリアの服を準備して、櫛を片手に彼女の髪を梳かしてあげた。ガーネットは起こされなかったので、まだ寝ていた。

「寝癖は水スプレーして櫛かけてから、ドライヤーで乾かせば直ります。けど、目の下の隈は化粧で誤魔化すしかありませんね。自分で出来ますか?」

「申し訳ありません・・・。何時もはぁ・・・ガーネットがぁ・・・」

「じゃあ、ガーネットさんも起こさないと駄目ですね」

まだ少し意識が夢の世界に片足を突っ込んでいるサンビタリアが欠伸交じりの声で答えると、レコメンドは櫛を動かしながら、もう一人の寝坊助を叩き起こすと決めた。


 レコメンドの手で洗面台に連れられ、冷水で無理矢理顔を洗われると、流石のサンビタリアも段々と意識が覚醒していき、朝から晒していた自分の失態に気づいて気まずそうに赤面した。

だが、そうしている間にも刻一刻と時間は流れて行ってしまう。レコメンドは赤面するサンビタリアを鏡台に座らせてガーネットにバトンタッチすると、カッタッパの元へP2のスケジュールを聞きに行った。

「…とうとう、ぴぃつぅ殿が帰ってくるんですよね。」

ガーネットに身を委ねて、化粧をしてもらいながらサンビタリアはポツリと呟いた。

先日、サファイアが昔話を聞かせてくれたお陰で多少は気が楽になったものの、サンビタリアは未だに緊張で少し身体が震えていた。また、元婚約者に捨てられた時の記憶が脳裏を掠め、サンビタリアは思わず顔を引き攣らせた。一度心についた傷は消えることは無いのだ。

「大丈夫ですよ」

だが、そんな苦しむ主を一番近くで見てきたガーネットはさも何でもないように言った。


 「確かに、私も私もお嬢様のことが心配でなりません。あんな酷い失恋を体験してすぐに顔を合わせたこともない男と結婚するために、亡骸島なんてゴミ箱のような場所への輿入れするなんて、気が気ではありません。今だって、お嬢様を断罪したあの皇子を断罪し、お嬢様の無罪を証明したいと思っています。そうすれば、大手を振ってカウ領に帰れますから……」

「ですが、同時にこのままお嬢様とP2殿の今後を見守りたいとも思うのです。レコメンドやサファイア、モリアーティにシェヘラといった赤目製薬の社員たちは本気でP2殿のことを信頼しておられるように見えました。それほど配下から慕われる御方がお嬢様に無体な真似をなさるとは到底思えませんから。」

「ガーネット…」

ガーネットの言葉には重みがあった。

それは、自身がサンビタリアという主を敬愛し、従者として何処までだってついていく覚悟があるが故に、同じように主に不変の忠義を誓う仕える者の心に共感し、知ることが出来た重みだった。

「お嬢様。この亡骸島に来たように、私はお嬢様の為であればどのような地獄へだってお供します。そして、そんな私だからこそ、断言できることがあります。この会社の社員たちの忠義は本物です。私はP2殿にはまだ一度しか会って居ない身ですが、彼等彼女等の忠義は信頼できる。」

「従者は従者を知る…ということですか。」

いつの間にか化粧は終わり、サンビダリアの震えは小さくなっていた。

扉が開き、レコメンドがスケジュール表らしき紙束を持って部屋に戻って来た。再開の時は近い。




 ≪亡骸島近海、赤目製薬保有の輸送船『白魚』にて≫

その名が示す通り、魚のように見事な流線形を誇る真っ白な船体の甲板には、炭素材を加工して作られたグリーンのコンテナが幾つも並び、カーボンファイバーのロープで船から落ちないように押さえつけられている。そのコンテナの一つの上では、一人の男が望遠鏡を覗き込んで周囲を警戒していた。

青いジャケットには赤目製薬のシンボルである赤い瞳が開いており、ジャケットの下には鈍い鉛色の輝きを放つ金属の装甲版を服のように纏っていて、背には巨大なレンチのような機械を背負っている。

髪はプロンドのオールバックで、瞳は青空の色に似た碧眼だが目つきが猛禽類のように鋭く、彼と初対面の人は大抵その眼の色をじっくり見る余裕がない。顔つきは彫刻のように彫が深く、身体つきも筋肉質でガタイがよかった。彼の名はマルチ、第二防衛小隊を守護する重装兵である。

「むっ?あれは……見えたぞ!亡骸島だ!」

「叫ばなくっても見えてるよ馬鹿レンチ!」

マルチが望遠鏡越しに亡骸島を見つけ高らかに発見を報告するが、コンテナの下からそれに答えた少女は煩そうに耳を抑え、顔を歪めて文句を吐いた。

アメジストの如く煌めく紫の髪を長いポニーテールに纏め、黄金の瞳をネズミを威嚇する猫のように鋭く細め、頭には本物の猫耳を生やし、下半身からは尻尾まで伸ばしている。そんな猫のような少女は紅い刀身の愛刀を方に担ぎながら、黒い社員用ジャケットをマントのように風になびかせていた。彼女の名はチバ、第二防衛小隊隊長にして赤目製薬防衛部隊最強の剣士だ。

「ああ、もう見えたのか…」

「何だい大将?もしかして嫁さんが恋しいのかい?」

騒ぎを聞きつけてP2が現れると、チバはケラケラ笑いながら揶揄うように問いかけた。

「彼女の境遇を考えると心配ではある。」

「まぁ、大将ならそう言うだろうなぁ」

落ち着いたP2の答えに「つまんねぇの」と唇を尖らせるチバだったが、その口元は薄っすらと笑みを浮かべていた。

船が亡骸島へ錨を下すまで、あと少しだ。

 輸送船『白魚』


総重量     載貨重量     全長

13万トン   14万トン    300m

速力      馬力       幅

38ノット   15万馬力    50m

最大乗務員数  基準排水量

2000人   3万トン


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